あづさの世迷言   *有楽町で会いましょう*

 バーゲンまっさかり。
 わたしは日本の高度経済成長期まっただなかに自我形成期を迎えたせいで、当時のお国のスローガンであった「産めよ増やせよ」…ぢゃなくて「消費は美徳」の精神がはちまききりりの軍国少女のごとく骨の髄まで染み込んでいて、バブル崩壊後10年のいまも買物となると血が騒ぐ。

 それと同時に先祖代々の家訓「質素倹約」もしっかり受け継いでおり、これらふたつの相反する消費哲学がひとりの人間のなかで融合するとどうなるかというと、ずばり、バーゲン大好き人間の誕生である。

 高い定価で高品質の商品を手に入れるのはあたりまえすぎて買物の醍醐味に欠ける。かつて小松田章氏が本紙の北海道うまいもの記に、高くておいしいのはあたりまえ、安くておいしくなければ感動しない、と書いておられたと記憶しているが諸手を挙げて大賛成である。納得のいく品質のものを安く手に入れるから喜びもひとしおなのであって、絶対の絶対値引きしないような高飛車な高級品はもともとわたしのような庶民純血種の人生には用のないものと思っている。

 堀出しものを見つけるいちばんのコツは行きつけの店を持つことだろう。
 わたしの場合、そうは言ってもまいどまいどバーゲン品しか買わないのでは小さな店では顔を覚えられてしまってさすがに恥ずかしいので、もっぱらデパートを愛用している。なかでも狙い目は、街のおしゃれスポットにありながらなぜか客足の少ないデパート。まわりの流行っている店と似たような商品を置きながらなぜかちっとも売れないのでバーゲン時の値引きが大きいのである。

 センセイ、具体的にはそれはどこでしょうか。
 お答えしましょう。ずばり、有楽町そごうです。

 お年頃の丸の内OLにとっては地下でお弁当を買えるだけが唯一の取り柄のこの老朽デパート、しかし彼女たちも2年3年ととりあえず足を運ぶうちに、この店のやる気のなさの裏側の隠れた実力に気づくはずだ。十年以上通ったわたしはもう名人芸の域。3000円均一のがらくたの靴の山の中からネームを消されたシャルル・ジョルダンをゲッ〜ト!なんていうウルトラCも楽々クリア。

 銀座のデパート激戦区からほんのわずかはずれただけでこの安さ。トレンドチェックするなら銀座、バーゲン行くならそごう…丸の内にはこんな買物熟練女性会社員がひそかに多数生息しているものと思われる。

 この「銀座と有楽町そごうの法則」を無理矢理埼玉県内にあてはめるとすると、大宮中央デパートあたりがチェックポイントだろうか。ん〜ちょっとつらいか。

 そのそごうがついに倒産。長年にわたって有楽町そごうの低迷ぶりに心を痛めてきたわたしには「来るべきときが来た」という悟りきった感想しかない。再建のためには店舗の切り売りもありとの報道だが、有楽町店の運命やいかに。東京・銀座・日本橋界隈には日本の主力デパートがすでに出揃っているから、いくら駅前でもあんな小さな店舗になんぞだれも食指を動かしはしまい。だとすると残る可能性は丸井かイトーヨーカ堂かマツキヨかはたまたユニクロか。三菱地所(株)としてはおシャレな外資でも呼んで「丸の内=超高級ショッピングエリア」のさらなるダメ押しをしたいところだろう。

 ところでなにかと話題のユニクロだが、妹が嬉々として言うにはバーゲンでセーターが500円で買えたという。彼女もご先祖さまの教えを忠実に守っているようでたいへん結構。それにしてもただでさえ安いユニクロにさらにバーゲンがあるとは驚いた。セーター500円だって。原価はどうなっておるのか。行かなくちゃ、早くユニクロに行かなくちゃ、と高速回転し始める足をぐっとおさえて考えた。わたしはかりにも赤坂の外資で働く女だし、見得や世間体もあるし、安易な安物買いに走るわけにはいかないわ。そこでユニクロはやめて、無印のバーゲンで1000円のセーターを買ったのだった。どこがどう違うのか聞かれても説明に困るけど、そこはニュアンスの問題ということで。

 追記。IT長者に混ざってユニクロの柳井社長が大健闘、ついに「フォーブス」の世界長者番付第52位に初登場。安売り王、万歳。しかし世界の大富豪となっても自社製品の3枚1000円パックのシャツやパンツを社長みずから着るのだろうか。似たようなハナシに二谷友里恵問題がある。あの高級ブランド大好き(そうな)高飛車(そうな)女が自社のユリエ・ニタニを身につけるとはとても思えないんだけど、どうなんでしょ。


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