あづさの世迷言   *酔水電気*

  以前「激白シリーズ」でも書いたが、わたしはキカイ音痴で、完璧なる私立文系人間である。
 ルームメイトのHは、国立体育会系で筋肉はすごいがこれまたあきらかに理系ではない。

 去年のはなしになるが、我が家の電気のスイッチがどれも老朽化してあまくなってしまったので、お寿司をご馳走するからというエサで酔水会会員のKにひと仕事お願いしたことがある。Kがまず最初にブレイカーを下ろすのを見て、Hが「ほおぉぉ〜、ブレイカーを下ろすのかぁ」と感心するのを聞いて、ほぼわたしと同一のレベルにあることを確信した。Hがやったら感電死するところであった。恥ずかしくてお葬式も出せやしない。

 恥ずかしいといえば、なにより恥ずかしくて出せないお葬式は、Hが溺死した場合であろう。そのときはお葬式も出さずお墓も作らず、死因を隠してわたしひとりの手で密葬にしようと決めている。いくら水泳が得意だからといってダイビングのときに調子にのって危険なことをしないよう、酔水ダイバーズのみなさんには、わたしに代わってくれぐれも監視を怠らないでいただきたい。

 話がそれた。理科のはなしだった。
 そもそもわたしは、「かがく忍者隊ガッチャマン」は科学の忍者か化学の忍者か、ひとつ深呼吸してからでないと答えられない。かがく調味料もしかり。電気、電器、電機、どれがどう違うのだ?(これが理科というレベルのはなしだろうか)

 何年か前にサラリーマンのあいだで「ゾウの時間、ネズミの時間」という本がベストセラーになった。たしかあの「マディソン郡の橋」と同じころ同じくらいロングセラーを続けていたと記憶している。しかしその本は、メルヘンな題名とはうって変わって中身はたいへん高度な理科のはなしで、わたしは読みすすむことができずにわずか数ページで挫折した。世のおじさんたちはこんなに難しい本を理解できるのかと愕然としたものだ。

 理科はイマジネーションの学問だと中学校の理科の教師はよく言っていたが、わたしの想像力はその理系の部分が欠落しているらしい。高校時代にリンガフォンを買ったときの話を蒸し返すが、カセットテープの説明書にフォートラックとかいう言葉がでてきたとき、わたしの脳裏にうかんだのは、追いつ追われつ轟音を上げて国道を突っ走る4台の大型ダンプだった。(的外れなだけで、イマジネーションがないわけではないことが、これでおわかりいただけたかと思う)

 わたしの祖母は、ガスレンジの火をつける前に濡れた手をよく拭いていた。ガスと電気の区別がつかなかったからだ。わたしは確かにこの血筋を引いている。

 Kのおかげで我が家の電気スイッチは毎日快調である。
 Kは我が家に味をしめて、「酔水電気」を設立するという。酔水会会員の家電や車の故障を食べ物を代償に請け負うということらしい。あえて彼の名を紙面で明かさないのは、わたしがちゃっかり元締めになって上前をハネてやろうという魂胆からである。仲介業というのはいつの時代にもおいしい仕事らしいから。
 家電製品にお困りのかたは、ぜひ荒井までご連絡ください。


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