*盗め、三河の味* 三河を愛する酔水会の誰もが大好きなスタミナじゃがいも。表面カリカリ中ホクホクのじゃがいもと、香ばしいニンニクの取り合わせ、それにちょっとマヨネーズをつけて…と書いているだけで、もう唾液がたまってくる。 三河には企業秘密というものがないらしく、マスターからもママからも作り方はすぐに教えてもらえる。聞けば簡単。でも、いざ作ってみると、意外と難しいのがこのスタミナじゃがいもである。じゃがいもの厚さも、火加減も、味つけもいわれたとおりにしたはずなのに、なぜかかなり激しく違うシロモノができあがる。生来向上心とは無縁のわたしは、数回の挑戦であきらめた。理由は簡単。食べたくなったら自転車こいで三河へ行けばいいのだ。必死にマスターするのは、三河から遠く離れた土地に引っ越すことになったときでいいではないか。大物はあわてないのだ。 あるとき母と妹が遊びに来たので、三河に連れて行った。やきとり、つくね、にら玉、スタミナじゃがいも…と定番中の定番がテーブルに並んだ。んまい、んまいを連発しつつも、どんな作り方をしているか、ふたりで検討しあっている。同じ家族ながら、なぜかわたしと違って研究熱心なひとたちである。妹は、その前日に配偶者のリクエストでにら玉らしきものを作ったら、「ぜんぜん違う」と率直に言われ、せっかく作ってあげたのにその態度はなんだ!と自分の料理の腕前を棚に上げて逆ギレしてきたばかり。三河のにら玉に感動している。ママさんが、懇切丁寧に作り方を教えてくださった。
数日後、妹から電話があった。三河で習ったとおりににら玉を作ってみたら、配偶者が、「わお〜、グーだよ、ベリーグーだよ」と叫んだという。「すっごく簡単なのに、すっごくおいしくできちゃった、わたしって料理の天才かも」と鼻高々である。愚妹のあんたが天才だというのなら、賢姉のわたしは神様ではないか。神様に不可能はない、とわたしも挑戦してみた。そして、できたのである、三河にかなりちょっとだけ似たにら玉が。少なくともスタミナじゃがいものときよりはずっとまともなモノができたのである。学校を卒業して以来、うだうだだらだらとめりはりのない生活をしてきたので、この達成感は新鮮だった。やればできるのだ、わたしだって。あの小松田ですら、うつけでカルボナーラを作ったというではないか。
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