2003-03-08













PS版王子さまLv1.5
王子さまのたまご
―王子さま名作劇場撮影現場より―








「セレストー」
 いつもの様に、笑顔全開で駆け寄って来る主君の姿にセレストは微笑みながらも口の奥で苦いものを噛み潰していた。自分は今訓練中で、まわりには他の騎士達が大勢居る訳で、そんなところに無防備な笑顔を振りまきながらあらわれるなんて、一国の王子さまがして良い事の筈が無い。特に、カナンは剣の訓練を受けている訳では無いのだから騎士達の訓練場にあらわれるなんて(セレストにとっては)不自然だ。
「カナン樣、どうかなさったのですか。お側に上がる時間にはまだ早いようですが」
 時折ではあるが、カナンはセレストが部屋に来るのを待切れずに自らこうして騎士団詰所まで迎えに来る事が有る。その度に「いけませんよ」と窘めてはいるのだが、一向に聞き入れて下さる気は無いらしい。今日の来訪もそうした事なのかと思って声をかければ、近付いて来たカナンの手が後ろに回されたままなのに気がついた。
――――これは、何か有る。
 態々おこし頂いた主君に対して、いきなり訝しむだなんて行動は誉められたものではないが、カナンに関する限り、これでも控えめな反応だろう。なにせ、思い付いた事が本人にとって楽しそうだと御考えになればなる程、どんなに御無体な内容でも行動に移される。その被害者は決まってセレストなのだ。
 まぁ、関係の無い方々を巻き込むよりは余程賢明な判断では有るが。
 他の騎士達の手前、あからさまに叱咤する訳にもいかず、かといって妙な事をされるのではとの嫌疑をかける訳にもいかず、セレストは表面 上は穏やかに、だが内心は気を引き締めてカナンを迎えた。
 セレストが跪いて家臣の礼をするのに、カナンはそうした事など頓着する事はない。どちらかと云えば、対等の関係を持ちたがるので普段そんな事をすれば怒りだすのだが、機嫌が良い事と、セレストの同僚達の視線を感じている為か無言で立って良いと視線で示しただけだった。
「御用が有るのでしたら、侍女の方に申し付けて下さればこちらからお伺い致しますのに」
「うむ。そうしても良かったんだがな、少しでも早く、セレストの意見が聞きたかったんだ」
 そう言って、初めて後ろに回されていた手がセレストの前に示される。カナンの手に抱えられていたものは上等な絹で作られた純白のドレス。
 一着はノースリーブでハイネックタイプ。もう一つは胸のところで句切れ、肩を出すようになっているトップレスタイプのモノだ。カナンの持ってきたそれは小柄な女性のモノだろう。襟首や腰の部分の細さはリナリア様でも難しいかもしれない。
 そう、例えるなら、カナンなら丁度着られるのではないかと思われるほど華奢な体格の人向けだ。
「美しいドレスですね。どうなさったんです?」
 ドレスは実にシンプルなデザインで、それだけに着る人間を選びそうだ。まさか、妹のシェリルの為に選んだと言う事は無いだろう。シェリルのドレス選びはリナリア様同伴でとうの昔に決まっているし、第一サイズが合わないと思う。だったら?
「うむ。今度城でするチャリティーの芝居に着る衣装が出来上がってきたのだが、どちらが良いか、お前に選んで貰おうと思ってな。で、こっちとこっち、どっちが良いと思うか?」
 瞬間、セレストの頭の中は真っ白に燃え尽きてしまった。現実を拒否しようとする頭と思考を無理矢理説得し、何とか状況を把握しようとカナンの言葉を頭の中で反芻する。
 城でするチャリティーの芝居に着る衣装が出来た。
 芝居で着る、衣装。
 誰が?
「あの、カナン樣。それは何方の衣装ですか?」
 恐る恐る、嫌な予感を振払いつつ聞いてみる。
「勿論、僕のだ」
「あああああああああああああああああああ」
 聞かなきゃ良かったと思いつつ、頭を抱えて呻くセレストの姿にカナンは気分を害されたのか、頬を膨らませて憤慨する。
「失礼な奴だな。この間の会議で演目と配役が決まったのはお前も知っているだろう」
 云われてみて、そんな事があったなと思う。だが、その会議にセレストは出席していない。騎士団長―――アドルフ・アーヴィングことセレスト父も出席していた為、セレストが代理で騎士団の仕事を仕切っていたのだ。そこで芝居をする事が決まったのは聞いている。だが、演目と配役まで決まっているとは聞いていない。
「大変申し訳ありません。その、芝居の件は伺っておりましたが、演目と配役の方はお聞きしておりませんでしたので」
「なんだ、お前、まだ聞いていなかったのか。変だな〜。アーヴィングが自分で知らせると云っていたのに。まぁ、良い。知らなかったのなら仕方が無い。今のは僕が悪かった。じゃあ、順を追って話そう。
 いいか、今度やる事になった芝居は『シンデレラ』だ」
 くらりん。
 目の前の景色が一周したような気になる。シンデレラ。この演出でこの演目。
「あの、もしやヒロインのシンデレラ役をされるのは………」
「僕に決まった」
 やっぱり。
「一応、公平をきす為に姉上の作ったあみだくじで決めた。一部、国民の参加を促す為に空いている配役も有るが、一般 公募で相当数来たそうだからこちらも間もなく決まるだろう」
 そんな事を説明しつつ、カナンはセレストの手に二着のドレスを押し付ける。
「で、どっちを着たら良いと思うか? 一応、魔法使いに出してもらったドレスと云う事になっているんだが」
 どっちがって、どっち?
 カナンのすべすべとした肌や優美な曲線を余すとこなく堪能するのなら肩口の広く開いたドレスの方が良いとは思う。きっと華奢で可憐なシンデレラになる事だろう。
 だが、お城のパーティーシーンでお召しになられると云う事は、相手役の王子とは身体をピッタリくっ付けた感じでソシアルダンスを踊らねばならないのだ。自分以外の男(相手役が女性かもしれないと云う事は、この際まったく思い付いていない)に至近距離でカナンの肌を曝し、剰えその肌に触れるだなんてとんでもない。
「なんなら、ここで一度着替えてみるか?」
 ある意味、真剣に悩みだしたセレストの姿にカナンが声をかけた。見ただけで判断出来ないのなら実際に来てみて良いと思った方にしようと云うのだ。自分の好みの服が着て見たら予想と違って似合って無かった、なんて事は誰でも一度くらい経験が有ろう。
 だから判断の材料になるのなら、一度試着しようとカナンは進言したのだが、セレストの激しい制止にあってしまった。
「まさかこのような所でお着替えになるおつもりですかッ?!」
 とんでもない。ただでさえこのところ色香も増して騎士団内でも評判の良いカナンの事。こんなところでいらんライバルなど増やしたく無い。セレストはカナンの小柄な身体を抱え、逃げる様にしてカナンの私室まで 走った。
 セレストが息を切らせて部屋に到達すれば、呆気にとられつつもドレスだけは落とさない様にセレストから奪い返していたカナンだった。そのドレスを自分のベットに広げてみせて、再びセレストの意見を求める。
「どうでもいいから、早く決めろ」
「あの、どうして私の意見で決めようとなさるのですか?」
 いつもなら、自分の意見など何所吹く風で、勝手に通販でお忍び用の服を購入したり、かと思えば自分にも変装用と称して背広を購入したりしているのだ。今更自分の意見など必要とも思えない、のに。
 すると、カナンの頬に赤みが差してこれまでの勢いが嘘の様に俯き、今度は潤んだ瞳でセレストを見上げてくる。
「だって、その、こうゆうときは自分の事を一番好いてくれる人の意見が一番良いと姉上が仰ったから」
 かあああああっと、自分の顔に血が昇るのをセレストは感じていた。
 何と云う事を仰るのか、この方は。
 普段は無茶ばかり仰って、自分を困らせてばかりいるのに、こんな時だけは初々しい恋人の素直さで体当たりをかますのだ。これで参らない男がいるのならお目にかかりたい。いや、かからなくて良い。かかりたくも無い。と云うか、そんな状況になる男なぞ自分以外に作って欲しい訳など無い。
「そうですね、カナン樣ならどちらもお似合い……って云って良いんでしょうか」
「バカものッ。それじゃ話しにならないだろう。始めは確かに女性役などとんでもない事だと思っていたが、皆が期待している以上はそれに応えたいと思っている」
 いつもの様にセレストの正面からチョップをかました後、さっさと城内服を脱ぎ捨ててそのまま手近にあった方のドレスを見に纏う。そうした事は止める暇も有ればこそだが、なにせカナンのドレス姿に興味のあったセレストが上手く止められるはずも無い。あっと云う間に着替えてしまった割に乱れた感じはしなかった。それどころか白いドレスは白いカナンの肌と相まって清楚な感じまでする。
―――似合う。てか、似合い過ぎる………
 モノを云うよりも前に触れていた。
 右手を伸ばしてカナンの頬にそっと触れ、もう一方の手はカナンの腰に回し、そのまま一気に引き寄せる。
「このまま、腕の中に閉込めて、何方にもこのようなお姿をお見せなどしたくありません」
 セレストの言葉にカナンの顔が真っ赤に染まる。その朱は首筋のみに留まらず鎖骨の辺りまでうっすらと上気しているのが見て取れる。
「お前、いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないか」
「カナン樣が悪いのですよ」
 聞いているのかいないのか、セレストはそのまま上体を傾けてカナンの上にのしかかる様に押し倒した。愛おしくて、愛おしくて、気持ちのままにカナンの唇を啄んだ。カナンの方も抵抗するでもなく、そのままセレストに応える様に両腕を首に回した。その行動に気を良くしたらしいセレストの手がドレスの裾を持ち上げてカナンの足に、直に触れてきた。流石にこれには驚いたカナンが小さく悲鳴を上げる。
「ちょっと、待て。それ以上はヤバイだろ」
「そんな、ここまで来てお預けですか?」
 情けない表情で聞いて来るセレストに、カナンは飽くまで冷静だった。
「ドレスの皺は僕が抱えて走っている所を侍女達に見られている時点で何ととでも言い訳は出来るが、染みまでは誤魔化せん。
 だから、絶対、汚すなよ」
「ぜ、善処致します」
 完全な制止では無く、御注意を頂いてしまったセレストだったが、カナンが嫌がっている訳では無いと知って、さっそく行動を再開するのだった。

 



「それでだな、宣伝用の写し絵を描く時はこっちのハイネックの方にしようと思う。絵を描いてる最中に押し倒されてはかなわんからな」
 そう言ってカナンはドレスの皺を綺麗に伸ばす。セレストは赤面したまま俯いていた。
「僕もうっかりしていた。配役を聞いて無かったんだから仕方が無いと言えば仕方が無いが、未だ見ぬ 王子役に嫉妬してどうする」
「面目ございません」
 暫く後に、実はカナンの相手役の王子には自分が決定してた事を聞かされたセレストだった。おそらく、アドルフにしてみれば息子苛めのつもりでギリギリまで黙りを決め込むつもりだったのであろう。まさか、自分の息子が王子に懸想しているとは未だに気付いていないはずだから。
 とにもかくにも、カナンの柔肌に一番近寄れるのも、直に触れる事が出来るのも自分だけだと知って漸く落ち着いたセレストだったとさ。
ちゃんちゃん♪



余談:
アドルフ:「やーい、王子姿の似合わねぇ王子さま」
セレスト:「うるさいな。籤で決まったんだから仕方ないだろう」
アドルフ:「カナン様とはエライ違いだよなぁ?」
セレスト:「(ちょっとムッとして)血の所為だろ」
アドルフ:「あははは、血の所為か〜あははは………あれ?」

PS版Lv1.5のシンデレラ萌えです。止まりません。誰か止めて、いえ、止めないで!>どっちやねん
履歴を見ると、萌えの2となっております
萌えの1は某所。うう〜ん、人に送っちゃったので、どうしよう。ウチでは公開する気が無いので………。ある意味あっちも相当馬鹿な話しだよなぁ。


■モドル■