君の騎士・直後


 唖然として固まってしまった彼を置いてスザクはホール内へと戻ってきた。大きなガラス張りの扉を開けば、中から暖かい空気が外へと流れ出す。室内に入る前、一瞬だけ振り返るが誰も追ってきてはいなかった。
 わかっていたはずだ。
 彼は絶対に自分を追いかけてはこない。
 知っていたはずなのに。
 知るのとそれを実際に体験するのとでは、大きな隔たりがある。それをわかってはいたが、ささくれ立ってゆく気持ちを止めることはできなかった。

 彼は追ってこない。
 そんなことは………とっくに知っている。

 スザクはゆっくりと扉を閉め、沈んだ気持ちのままホールへと一歩を踏み出した。顔をあげ、前を見れば、誰かが柱に寄りかかりながらこちらを眺めていた。綺麗に着飾っている少女は今現在スザクが仕えている主、カリーヌ・ネ・ブリタニアだった。

「馬鹿じゃないの」
 主の言葉にスザクは何も言わなかった。
「ルルーシュは絶対についてこないわよ」
「知っています」
「奪えばよかったじゃない。この私のように」

 欲しかった。だからルルーシュからスザクを奪った。大事なのは結果。手段なんか選んでなんかいられない。気持ちがこちらに向くのなんか待っていられない。手に入れてしまえばあとはなんとかなる。そう思ってた。違う。今でもそう思っている。

 カリーヌはスザクを見つめた。
「ルルーシュは絶対にあなたを選ばない。だから……………私にしておきなさいよ。後悔させないわ」
 魅力的な申し出だ。けれどそれはスザクの欲しいものではない。
「ルルーシュはあなたを自分のもとに取り戻そうと色々と頑張っているみたいだけど、ネ家は潰れないわ。個人で潰せるようならとっくに潰れてる」
 カリーヌは踵を返し歩き出した。
「殿下、どちらへ?」
「もう一曲踊ってくるわ」
 そうスザクの問いに答え、カリーヌは振り返りもせずにホールの中央へと歩いていった。ちょうど次の曲が始まろうとしているところだった。

 カリーヌが去った後、スザクは溜め息をついた。
 彼女が言ったことは前からわかっていた。わざわざ他人に指摘されなくても知っている、と叫びそうになった。
 ルルーシュはスザクを選ばない。
 彼にはもっと大切な人がいるからだ。彼は家族を捨てることができない。
 ルルーシュが包み込むように大切にしている妹、わがままを言っても受け入れてくれる母親、彼は彼女らを捨てることはできない。

 家族を決して捨てられないルルーシュ。
 そして、家族に見捨てられた自分。

 なんて立場が違うんだろうか。

 このままカリーヌのもとにいて、時おり人目を避けて会う。できないわけじゃない。
 それとも、彼の全てを奪い、強引に連れ去ってしまおうか。たとえ憎まれても怨まれても嫌われても、…………彼を自分のものにできる。

 スザクは奥歯を噛み締めた。
 ルルーシュも元を去ってからずっと考えていた。
 だが、まだ答えはでていない。


 けれどもそんな彼らの思いとは裏腹に、すでに別の思惑が動き出していた。それは思わぬ方向から彼らを翻弄することになる。
 第五皇女のカリーヌ・ネ・ブリタニアの騎士。ブリタニア皇族の中でも力があるネ家の後継者の正式な専属騎士になるということが、その立場が、周囲にどれだけ影響をもたらすのかということを、スザクもルルーシュも、そしてカリーヌでさえ、まだ理解することはできなかった。





END

[2010/07/11]


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