夜半過ぎから降り続いた雨は午後になると急にその雨脚を弱めた。空を覆っていた厚い雲は次第に薄くなり、その向こうから降り注ぐ光が薄っすらと透けて見える。止む一歩手前のような霧雨の中、明るい日差しが雲を通して彼の顔に当たっていた。それはとても幻想的な光景だった。
 明るくなっていく空、光が当たり煌く雨、全ての景色は雨に濡れ、より一層色彩濃く浮かび上がらせている。
 そんな風景の中、彼は静かな声で微笑みながら言った。
「君はC組のルルーシュ・ランペルージくんだったよね」
「え?」
 予想外の言葉にぽかんと相手の顔を見る。
 どうして自分のことを知っているのだろうか。そんな疑問が表情に出ていたのか、彼は少し首を竦め。
「教室で初めて見た時から、すっごい綺麗な子がいるなーって思ってたんだ。あ、こういうこと言うとまずいんだっけ? ごめんね。気を悪くしないでね」
 そう優しい口調で謝る彼に、いえ、とだけしか答えられなかった。
 穏やかな眼差し、人懐っこい表情、柔らかな声、そして幻想的な情景も相まって、胸の鼓動が早まっていくのを止めることはできなかった。
 たぶん、この瞬間、もう一度恋をしたのだ。
 枢木スザクという人間に。
 かつて好きだった人間に。

 そして今もなお、忘れえぬ人に。



CROSS ROAD


 空は曇っていた。ここ数日こういったはっきりしない天気が続いている。重く垂れた灰色の雲が頭上を覆い日差しを遮っている。そのせいか若干気温は下がったが、湿度のせいで不快感は増すばかりだった。
 今年の梅雨入りは例年よりも遅いらしい。ニュースで何度かそういうことを耳にした。6月の中旬を過ぎてやっとくずついた天気が続いている。まとまった雨はまだ降らない。数日前にやっと雨らしい雨が降ったが半日程度で止んでしまった。
 ルルーシュ・ランペルージは校舎の出入り口で、壁に寄りかかりながらぼんやりと空を眺めていた。すでに靴に履き替え、手にも荷物があり、いつでも帰ることは出来たが足は動かなかった。
 同級生が足早に校門へと向かっていくのが視界に入る。何度か声を掛けられ、その度に挨拶やら、時には一緒に帰らないかと誘われたがルルーシュはそれに対し首を横に振った。ルルーシュはそこで人を待っていた。ここからだとすぐ脇にある教員用の出入り口が見え、人の出入りがあったら意識しなくてもわかるからだ。おそらくまだ出てきていないはずだ。きっと荷物の片付けや挨拶など色々な雑務があるに違いない。
 ルルーシュが待っている人はこの学校の教育実習生だった。三週間ほど彼の母校であるこの学校で実習生として教壇に立ち、授業を教えていた。教科は日本史だった。
彼はルルーシュのクラスの担当実習生ではなかったが、授業は数回受けことがある。担当教科が何故体育ではなくよりにもよって日本史、という疑問が脳裏に過ぎったが、淡々と的確に授業を進める彼の姿を実際に目にし、どこか郷愁を覚えた。『彼』はもういないのだ、と。厳密に言えば彼は、そうだ、もう『彼』ではない。そんな当たり前のことに今気づいた。別人なのだ。もうあの頃の『彼』はどこにもいない。それでも最後の姿をどうしても見送りたくて、ここで待っている。
 今日、彼はこの学校を去る。教育実習が終わるのだ。
 担当クラスが違うので直接話したことはほとんどない。言葉を交わしたのは授業で当てられた時の受け答えと、数日前のあの霧雨の日、それだけだった。
 そう、あの霧雨の日。
 教室の掃除当番で、さらにじゃんけん負けてゴミ捨て当番なり、全てが終わった時はすでに校内は静けさに満ちていた。人気のない廊下を歩き下駄箱に向かう。靴に履き替え、傘を手に空を見上げれば、雨はすいぶんと小降りになっていた。そしてふと人の気配を感じ、顔を横に向ければ、教職員用の出入り口の軒下で彼もまたぼんやりと空を眺めていた。
 場所も忘れ、時も忘れ、その横顔をじっと見つめているルルーシュに彼も気づき、にっこりと笑顔になり「もうすぐ雨、やみそうだね」と話しかけてきたのだった。

 その時、数人の女子生徒の甲高い声がした。声がした方向へルルーシュが顔を向ければ、ちょうど女子生徒らに囲まれた彼の姿が教員用出入り口から現れた。端正で優しげなベビーフェイスは人の警戒心を溶かせる効果があるのか、彼の周辺にはいつも人がいる。今もまた人に囲まれ名残惜しそうに話掛けられている。住所教えてとか携帯の番号はメルアドはなどと返答に困る問いかけに苦笑いでかわし、彼は大きな荷物を肩にかけながらゆっくりと校門へと歩いていた。
 目の前を通り過ぎるのをルルーシュは見ていた。たぶん、もう、あと数十年、もしかしたら数百年、その姿を見ることはない。次に出逢えるのはいつになるんだろうか。それともそれまでに俺は死ぬ方法を見つけ出せているのだろうか。
 そんなことを考えながら自嘲にも似た苦笑いがルルーシュの口から零れ落ちる。その瞬間、彼がふと振り返りルルーシュを見た。視線が重なる。刹那、足を止めた彼は自分の周辺に群がる輪から抜け出し、ルルーシュの前に立った。なんだと驚き、ぎょっと目を瞠る間に、彼はスーツの内ポケットから紙とペンを取り出し、サッと走り書きをするとそれをルルーシュに渡した。
 咄嗟のことで何も考える間もなく反射的にそれを受け取る。手の中にある紙、そして目の前に小さい笑みを浮かべる彼の表情。どこれもこれもが予想外のことで思考がまともに動かなかった。
 彼は静かな声で言った。
「ランペルージくん、またね」
「……枢木先生……」
 ルルーシュはぼんやりと呟いた。
 枢木スザク、それが彼の名前だった。
 遥か昔、ルルーシュの親友だった人間と同じ……。
「先生どうしたの?」
「急にそっちに行っちゃって?」
「あれ、ランペルージじゃん。ランペルージも一緒に来んの、送別会?」
 列を乱したスザクに、周りを囲んでいた生徒らが口々に声をかける。
 スザクはすぐにルルーシュから離れ、生徒たちのところに戻ってから、ごめんごめん、と気軽な口調で謝り、さらにこう付け加える。
「前にちょっと借りたものがあってね、今ちょうどいたから返したんだ。良かったよ会えて。じゃあね、ランペルージくん」
「あ、はい。さようなら、枢木先生」
「うん、さようなら」
 軽く会釈をしながらそう言えば、スザクもまた頷きながらそう返した。それから仲良さそうに数人の生徒に囲まれ、門へと向かうスザクの後姿を見送り、その姿が完全に見えなくなった頃、ルルーシュはやっと手の中になる紙を広げた。そしてハッと息を飲む。
 二つ折りにされた紙を広げて、中を見れば、数桁の数字が書いてある。それは無意味な数字の羅列ではなく、もっと意味があるものだった。
「携帯番号……」
 ルルーシュは一人呟いた。しばらくそれを見つめ、その番号が示す意味を思い当たった時、我に返り慌てて顔をあげたが、当然のことながらスザクの姿はとっくに見えず、またどちらの方角へ行ったのかも分からなくなっていた。
 ルルーシュは再び視線を下ろし白い紙を見つめた。自然に力が入り、もう片方の手に持っていた学生鞄の取っ手をぎゅっと握り締める。どうすることもできない感情が喉まで攻め上がり、燻ぶり始めた。
 これをどうすればいいんだ。
 俺から連絡すればいいのか?
 何だ、それは?
 どう考えても無理だろう。
 無理に……決まっている。
 一度の生に対し、邂逅は一度。
 そう決めている。
 湧き上がった気持ちを固唾と共に飲み込み、ぐっと胸の奥に仕舞いこんだ。熱く歪む視界を瞬きで誤魔化し、手のひらにある紙をくしゃくしゃに握り、丸めた。下駄箱の脇にある屑籠に放り投げ、ゴミに交じるそれを見つめる。しらばくそのまま動かずにいたが、くいっと顔を上げ、後ろ髪引かれる想いと決別をし、ルルーシュは一歩踏み出した。
 これで幾度目なのか。数えるもの馬鹿馬鹿しいほどだ。いつもの、いつものことだ。出逢い、そして別れる。これはいつもの儀式でしかない。
 奥歯を噛み締める。目頭に力をこめ、涙を堪えた。
 きっとまた巡り会える。それまで別れるだけだ。
 硬いアスファルトを力強く踏み締め、学校から去る。脇目も振らず、一目散にただ歩き続けた。見知らぬ通りを抜け、わき道に入り、彼の気配が色濃く残る学校の姿が遠く過ぎ去った時、ルルーシュはやっと足を止め振り返った。そして別れの言葉と再会を約束する言葉を口にする。
「さようなら、スザク。また今度」
 いつか出会うその日まで。
 ルルーシュは再び前を向き、曇天の下、大きく息を吸い込んだ。肺が新鮮な空気で満たされるのを感じる。脈打つ鼓動を感じる。生きている。俺は生きている。この悪夢の中を、ただ生き続けているのだ。

 ゼロレクイエム。ゼロによるレクイエム。ゼロのためのレクイエム。どうしてそう名付けたのか、一体どっちの意味だったのか、それとももっと違う意味があったのか、そんなものはもうとっくに過去の狭間に置き忘れ、記憶は定かではない。
 あれから何年が、何百年が経ったのか、数えるのが下らなくなるほど時が過ぎている。
 すでにあの出来事は歴史の中に埋もれ、今では世界史の教科書の扱いも僅か数行程度だ。それもそのはずで、ルルーシュが世界を征服していた期間はほんの数ヶ月程度だ。

 ルルーシュは制服をぎゅっと握り締め、胸を押さえた。
 服の下には消すことができない大きな傷跡がある。スザクがこの身体に刻んでくれた唯一のものだ。全てのものが時に流れ、移ろい、朽ち果ててゆく中で、これだけが消えることもなく胸に刻まれている。
 押し迫る想い出に潰されそうになりながら、ルルーシュは歩いた。狭い路地を抜け、大通りに突き当たると、通りの向こう側に広い公園があるのが見えた。ひとまずそこまで行き、ベンチに腰掛けた。
 別れが辛いのならもう逢わなければいい。だが、逢えないほうがもっと辛い。一瞬しか逢えないのだとしても、それでもスザクに逢いたかった。彼の人生の中の瞬く間のことであっても。
 ルルーシュはそっと瞼を閉じた。遠い過去に想いを馳せる。
 生き続ける。生き残る。そのことがこんなに辛いとは思わなかった。
 それなのに―――
「俺はこんな想いをナナリーやスザクにさせていたんだな……」

 あの日、突き抜けるような青空が眩しかったあの日。
 赤い剣が胴体を貫き、ルルーシュは死んだ。焼けるような痛みも、死にゆく感覚も、こんなに月日が経っているというのに未だに忘れることはできない。それほど「死」は強烈だった。
 それなのに、あってはならないのに、ルルーシュは再び目を開けた。薄暗い部屋の中で視線だけを彷徨わせれば、C.C.が静かな目でこちらを見ていた。夢だったのか、それとも考えたくないが失敗したのか、そんなルルーシュの焦りを感じ取ったC.C.は軽く首を振って、それから静かに告げた。
「ゼロレクイエムは成功した。民衆はみな大喜びだ。テレビは今どこもそのニュースばかりだ。悪逆皇帝の死と英雄ゼロの復活を、な。見たいならつけてやるぞ」
「いや、いい。成功したなら。だが、どうして俺は生きている?」
「コードだ」
「……コードだと?」
 目を見開き、驚きのあまりわななくルルーシュに、C.C.は頷いた。
「V.V.の……、シャルルのコードがお前の中にある」
 そう言ってC.C.は説明をした。おそらく黄昏の間でコードを移されただろうことを、そして死を迎えることによりコードが発動することを。
「そうか……、とんだどんでん返しだな」
「だが安心しろ。お前がこうして生きているのを知っているのは、たった3人だけだ」
「3人?」
「そうだ。ジェレミアとこの私、そしてお前自身だ」
「そうか………」
 ルルーシュは苦笑いを零す。死ぬどころか永遠の命だ。これが笑わずにいられるか。
「ルルーシュ、笑うのも泣くのも後にしろ。お前が起きたらすぐ脱出することなっているんだ。あとになればなるほど日本国外に出にくくなる。ジェレミアが脱出ルートを確保してくれている。着替えろ。用意が出来次第すぐに出る」
 C.C.の余裕がない真剣さで、今のこの状態が完全にイレギュラーなのだということをルルーシュは知った。舌打ち一つし、それから手早く着替えた。変装用のウィッグと眼鏡も渡され、それらも身に着ける。ジェレミアと携帯で連絡を取り合いながら、その指示に従い、日本を脱出し、ジェレミアが購入した農園へととりあえず身を寄せた。
 ジェレミアの農園を手伝うことになった元ナイトオブラウンズのアーニャには、C.C.とジェレミアの説得もあり、渋々打ち明けることになった。事情が事情だ、内密にしてくれという願いに、アーニャはあっさりと頷き、
「誰にも言わない。安心して」
 と約束してくれた。
 ジェレミアはここにずっといて欲しいと、今でも忠義の心は陛下のもとにあります、と言ってくれたが、ルルーシュはこのままここに留まることが危険だということがわかっていた。それはC.C.も同意見で、時期を見て移動したほうがいいという結論に落ち着いた。縋るジェレミアに定期的に連絡を必ずするということで納得してもらい、ブリタニア本国から遠く離れた小さな鄙びた島に移り住むことにした。あまり観光客も来ない寂れたリゾート地、その中心地からほどよく離れた場所にある洋館を買った。
 雨季と乾季の差はあるが、一年中ほぼ半袖で過ごすことができ、気温の落差は日本のように激しくはない。家を出てすぐのところにあるプライベートビーチの風景は、時を刻むのを忘れたかのように静かだ。時折届くジェレミアからの手紙が時間の流れを感じさせてくれた。
 同居人のC.C.は気が向いた時にふらりと旅に出たりして、数ヶ月帰ってこないこともざらだった。一度、「お前も一緒に行くか?」と言われたが、ルルーシュは片眉を上げ、それから軽く顔を横に振った。C.C.とは違い、世界中にあれだけ派手に顔を晒したのだ。いくら変装をしていてもばれる可能性がある。その危険性を考えれば今は、大人しくしているのが無難だろう。
 そんな風にして確実に年月は過ぎていった。時々ニュース番組に映し出されるナナリーとゼロの姿を目にすると、元気にしているのかと安心すると同時にもう会えないのだという寂寥感も込み上げた。
―――お兄様―――
―――ルルーシュ―――
 懐かしい声が耳に甦る。もうきっと聞くことはないのだ。
 だが、そんな少しの寂しさを抱えながらも平穏な生活を送っていたルルーシュに、一つの訃報が届いた。それはゼロレクイエムから7年後のことだった。

 秋に向かうこの季節、各国で悪逆皇帝から世界が解放された日として式典や様々な催しが行われることが多い。特に日本で行われる記念式典は特別であり、毎年ブリタニア帝国100代皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアと彼女の傍に常に付き従っているゼロが招待されている。今年も例に漏れず、いつも通り式典が行われていた。そして、その後の記念パーティで事件は起こった。ナナリーの暗殺未遂事件が起こったのだ。
 ブリタニアの若き女帝を狙った一発の弾丸は、とっさに庇ったゼロに直撃し、ほぼ即死。
 これまで幾度もゼロの死が発表されてきたが、それはあくまでも発表されただけであって、誰もその死を目撃したものはいなかった。けれども今度は違う。目の前にゼロの死があったのだ。
 ルルーシュはそのニュースをテレビで知った。マスコミが入っていない為、テレビ画像はなかったが、室内に設置された防犯カメラがその一部を捉えてあり、タンカに乗せられ運ばれるゼロの手を握り締めるナナリーの姿が映し出されていた。ゼロは最後まで仮面を取るのを拒否したという。
 後に記者会見でナナリーは「ゼロの意思を尊重し、仮面は外しませんでした。ゼロの素顔は今でもわかりません」と述べている。
 ゼロの死から26年後、ブリタニア最後の皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアが病死。すでに君主制国家ではなく議会制へと移行していたため大きな混乱はなかったが、それでも偉大な女帝を失ったことは世界中に衝撃を与え、その国葬には世界各国から大勢の人々が弔問に訪れたという。
 後に発行された「ブリタニア最後の皇帝ナナリーの手記」によれば、ゼロの最後の言葉が「やっと……のもとに逝ける」ということだったらしい。「……」の部分がナナリーが聞こえなかったため空欄なのか、それとも故意に記されていないのか、それは最後までわかっていない。

 ルルーシュは二人を見送った。もちろん実際に葬儀に行けるはずもなく、ただテレビ中継を見ただけだ。
ユフィやシャーリーのときに、散々分かっていたはずだった。それなのに自分で決着をつけなければならない辛さ、残される辛さ、それでも立ち止まることができない辛さ。
「俺はスザクやナナリーにそんな辛さを与えていたんだな」
 ゼロが死んだ夜、ルルーシュはそう呟いた。
 スザクにかけた「生きろ」というギアス。後にジェレミアに確認したが、スザクにはギアスキャンセラーは使っていない、ということだった。ならばスザクもまた自分自身で打ち破ったのだろう。ナナリーを助けるために。
「長く生きていれば生まれ変わりに出会う時もある」
 ナナリーが死んだ夜には、C.C.がそう囁いた。それはC.C.なりの慰めかもしれなかった。ナナリーの病気のことはニュースになっていたから、ルルーシュも知っていた。次第に悪くなっていく病状にある程度は覚悟していた。
「生まれ変わり?」
「ああ、残した想いが強ければ強いほど、それを果たすためにもう一度生まれ出ることはよくあることだ。お前もいつか出会えるかもしれない。ナナリーやスザクのな」
「生まれ変わりか……」
 ルルーシュは何かを打ち消すように顔を振る。
「それはない、きっと。あの二人は精一杯生きた」
「本当にそう思うか? 人の心は分かりにくし、移ろいやすい。お前の知らないところで深く心残りがあるかもしれない」
 C.C.はそう言って夜空を見上げた。大きな窓は開けっ放しになっていて、海から届く密やかな風が通り抜ける。満天の星が降り注ぐように煌いていた。

 あれからどのくらい年月が過ぎたのか。はっきりと数えてはいない。
 生に厭いたC.C.からコードを受け取り、彼女もまた消えた。そうして本当の意味で一人になってから、ルルーシュはやっとあの地へ行こうと決意した。人間だった己が死んだ場所、そして忠実な自分の騎士が眠る空っぽの墓石がある、日本へと。
 そこでルルーシュはスザクの生まれ変わりに出会うことになった。一目でわかった、あいつだと。それは絶対的な確信だった。
 そうして、影からそっと何度も彼が生まれ死にゆく様を見てきた。
 彼の人生に関われるのは、一度の生に対し一度。それ以外は決して関わらない。そう自分に約束した。せめて数百年に一度、わがままを許してくれ。ルルーシュは心の中でそうスザクに謝ったのだった。
 実際、18歳で時を止めたルルーシュの身体では、それほど長く共に居られることはできなかったが。

 ルルーシュは公園のベンチから立ち上がった。いつの間にか頭上の雲が薄暗くなり、夕闇が迫ってきている。湿った風はささやかなものだったが、それでも少し肌寒さを感じる。軽く腕を摩り、帰途へつくため歩き始めた。これでもう日本での用は終わった。また遠い南の国の、誰もいないあの古い洋館へと帰るのだ。静かな孤独に包まれながら。

 だが、そんなルルーシュの心情とは裏腹に、再び時は邂逅を用意した。
 それはこれから12年後、場所はブリタニア共和国首都ペンドラゴンの旧市街地。
 秋の気配が満ちる、寒い霧雨が降る日のことだった。





[2010/10/06]


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