地裁八王子支部(提供:亜細亜大学法学部町村ゼミ生による写真)


追悼・辻内鏡人 1954-2000

 辻内さん傷害致死事件 裁判の記録

東京地裁八王子支部

初公判(2001.2.26)
第2回(2001.3.14)  
第3回(2001.5.16)  
第4回(2001.5.23)  
第5回(2001.6.7)  
第6回(2001.6.27)  
第7回(2001.8.22)  
第8回(2001.9.12)  
第9回(2001.10.17)  
第10回(2001.11.14)  
第11回(2001.12.5)  
第12回(2001.12.12) 論告求刑・最終弁論  
第13回公判(2002.1.21)  判決 懲役7年

控訴審(日程未定)

2001年5月23日 第4回公判

  (今回も、鈴木茂さんが作成した詳細な報告をもとに、中野が概略を作成しました)

 5月23日、午後1時38分より、東京地方裁判所八王子支部刑事1部1係305号法廷において、辻内鏡人さん傷害致死事件の第4回公判が開かれ、被告の弁護人による冒頭陳述に続き、弁護人による被告人尋問が行われました。


 冒頭陳述で弁護人は、(1)被告に故意がなかったこと、(2)供述は誘導されたもので任意性がないという主張を展開しました。
(参考 現場近くの地図)


 まず(1)に関して、弁護人は、「直前のトラブル」から衝突までの経緯について次のように主張しました。事件当日、被告は、長時間にわたる仕事からの帰宅途中、みふじ幼稚園横の坂道をあがったところの交差点を直進した先の「シャンポール島田」前に宅急便のクルマが止まっていたため、その後ろに停止した。宅急便のクルマの発進後、自分も発進しようとしたとき、自転車に乗る男性が、運転席側の窓ガラスを叩き、怒りの表情をし、何かを叫んでいるように見えたので、被告は怖くなって、ただちに運転席側ドアをロックし、ダッシュボード左に設置されていた携帯電話で110番通報を行い、すぐに発進した。直進した先の交差点で一時停止すると、再び窓ガラスを叩かれたため、このままでは危険だと感じて帰宅の方向とは違うが、「右折すれば人通りの多い大きな道に出ることができる」と考えて右折、その先の小さな交差点で一時停止したところ、ここでもまた窓ガラスを叩かれた。パニック状態に陥ったため、そのまま直進すれば大通りに出られるところを、「右折すれば大通りに出られる」と思い込み、この交差点も右折した。さらに直進して現場近くのT字路に到達する間に、携帯電話を自分から切ったが、すぐに警察からかかってきた。T字路でもまた、「右折すれば大通りに出られる」という固定観念から右折した。被告には、その場から一刻でも早く逃れたかったので、起訴状にあるような時速20キロではなく、時速30キロ以上で走行、自転車との衝突現場付近では、運転席の左側に設置してあった携帯電話で警察とやり取りしていて気を取られていた。前照灯の右側は暗く、道路右側を走行する被害者の自転車は衝突直前まで見えなかった。現場では、道路左側の電柱を避けようとしたので、自転車は道路右側ぎりぎりに寄ったらしく、そのとき道路上の突起物に乗り上げて転倒したと考えられる。そして被告人は、衝突直後、警察につながっていた携帯電話で自転車にぶつかったことを告げ、救急車を要請した。さらに弁護人は、衝突時、被告人には故意が存在しなかったことについて、自転車の発見から衝突までの距離は5.5メートルであり、被告は時速30キロ以上で走行していて、被害者を発見して衝突するまでに要した時間は0.66秒しなないこと、たとえ時速20キロで走行していたとしても、5.5メートル走るのに要する時間は0.989秒であり、本件は「あっという間の衝突」であって、「故意を発生せしめること」は不可能であると主張しました。


 次に(2)について弁護人は、被告には鬱病の持病があり、月1回通院して診療と投薬を受けているが、逮捕後の12月4日夜に取調べを受けた小金井署では、被告はこれらの薬の服用が許されず「正常な精神の状況」になく、当夜は睡眠を取ることができず、翌12月5日、自白調書が取られたときには「異常な精神状況」にあったと主張しました。また被告は左翼政党のメンバーであることから「警察に対する異常な恐怖」を抱いており、警察に不必要に迎合した供述をしたと主張しました。そして、弁護人は後日、「鑑定申請」、「事故前の携帯電話の通話記録」などの証拠申請をする可能性のあることを告げ、また、弁護側の証拠として事故後に小金井署で弁護人が撮影した赤帽車の運転席の写真を申請し、検事はこれに同意して証拠として採用されました。


 冒頭陳述に続けて弁護人は、被告人に対する質問を行いました。被告人はしばしば訊かれた以上のことを話したため、弁護人および裁判長から制止される場面がありましたが、おおむね、弁護人の冒頭陳述に沿った証言を行いました。このなかで、被告人は、「喧嘩ひとつしたことがなかったのに、人をあやめるとは、言葉もない」と述べたほか、「左翼、反政府主義者、反天皇制主義者であり、数年前から共産党員となって、警察に追われていた」こと、警察は「共産党員、反天皇制左翼」を弾圧する「反共」であると思っていることなど警察および取り調べ検事への不満を述べました。そのなかで、「自分は何も悪いことをしていないのに」と大きな声で訴えることもありました。取り調べにおいて傷害の故意について否定することを「あきらめていた」ことについては、検察官が「常識のないいい加減な人」であり、「恨まれたら重い罪」を着せられると思ったからだと述べました。また、逮捕後、ほぼ「1ヶ月後」、小金井署の留置場で暴力団の幹部と同室になり、その暴力団幹部から「お前、否認すると重い罪になる」と「脅された」と述べました。さらに、弁護人は衝突現場付近の地理に関する被告人の認識に質問を転じましたが、「付近の地図」を示さずに質問を進めたため、裁判官は地図を示すように弁護人に注意、被告人の自白調書の添付図面を利用して質問が行われ、おおむね弁護人の冒頭陳述に沿った証言を行いました。


 弁護人による被告人尋問に時間がかかったため、裁判長は予定されていた6月27日の前に弁護人による補足尋問と検事による反対尋問を行うこととし、期日を6月7日(木)午後1時30分から4時、場所は同じ305号法廷と決定しました。