地裁八王子支部(提供:亜細亜大学法学部町村ゼミ生による写真) |
辻内さん傷害致死事件 裁判の記録 |
東京地裁八王子支部 初公判(2001.2.26) |
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控訴審(日程未定) |
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2002.1.21 辻内さん傷害致死事件第13回判決公判のご報告
今回も多数の傍聴の皆様のご協力を得て、概要を中野がまとめました。 午後1時10分開廷の予定が少し遅れて、2分間、法廷のテレビ撮影を行ったあと、判決公判が始まりました。 水野憲一被告に対して、岡村稔裁判長が、判決の主文を言い渡しました。 主文「被告人を懲役7年に処する。未決勾留日数240日をその刑に算入する」 このあと、裁判長は、およそ次のような判決理由を言い渡しました。
罪となるべき事実 被告人は、全国赤帽共同組合多摩支部に所属して運送業を営んでいたが、平成12年12月4日午後7時30分ころ、神奈川県相模原市内での仕事を終え、軽四輪貨物自動車を運転して帰宅途中、同日午後8時22分ころ、東京都国立市内のJR国立駅付近で停車していた際、自転車に乗っていた男性から運転席の窓を叩かれるなどして、狼狽し、車を運転してその場から逃れつつ、携帯電話で110番通報して車を叩く人がいる旨訴えたものの、要領を得た申告ができず、呼びかけにも応答せずに、男性から追いかけられているという恐怖感を抱いたまま、東京都国分寺市光町1丁目5番地2所在みふじ幼稚園の東側の一方通行道路を逆行して北方向に走行し、同日午後8時25分ころ、同幼稚園正門前で対向車両とのすれ違いのため停車したあと、同じ場所を自転車で北方向へ走り去る被害者(辻内鏡人)を認めて、同人が車を叩くなどした男性であって追いかけてきたと思いこみ、一気に憤激して、直ちに自らの車を北方向に急発進させ、前方に同人の姿を確認すると、同人に車を衝突させようと決意し、幼稚園正門前から約35.6メートル先の地点である冨士本1丁目25番地2所在A方の西側路上において、辻内鏡人が運転する自転車の後部に、時速約30キロメートルの速度で自車右前部を衝突させて、同人を路上に転倒させ、同人を自転車もろとも轢過して、同人に多発肋骨骨折および肺挫傷などの傷害を負わせ、同日午後9時51分、都立府中病院において、上記傷害にもとづく緊張性気胸により死亡させた。以下、事実認定の補足説明をします。 まず弁護人の主張であるが、被告人の軽四輪貨物自動車が、自転車で走行中の被害者と衝突し、死亡させたことは争わないが、被告人は故意に衝突させたわけではないので、傷害致死罪は成立しないとしている。 これに対して当裁判所は、本件の衝突現場、被告人の車、被害者などの客観的状況に関する証拠に、現場で事情聴取した警察官、目撃者らの証言や供出を総合すると、被告人が傷害致死罪を犯したことは明らかであると判断する。 1 現行犯逮捕の経緯 被告人は、110番通報していた相手の松田洋警察官に「みふじ幼稚園の近くで、自転車に乗った人とぶつかって、交通事故を起こした」と応答した。 指令により最初に来た光町交番勤務の大沼隆光警察官に対して、被告人は、車を運転して事故を起こしたことを認めて、赤帽の車を指さした。 ところが、その後やってきたパトカー勤務の小林憲吾警察官が大沼警察官とともにさらに詳細を尋ねると、被告人が「車でぶつけた」と言うので不審に思い、パトカー車内に被告人を同行すると、「国立駅付近で停車していたら、自転車に乗った人が因縁を吹っかけるようなことをしてきたので、怖くなって発信して、信号待ちで止まったら、車の窓ガラスを叩くから、また怖くなって裏道へ逃げた、それでも後をついてくるから、自転車が車の前に出て、曲がったときに、後ろからぶつけた」旨を述べた。 そこで小林警察官は、交通捜査係の津田警察官に被告人の供述の概要を話すとともに、被告人を傷害の現行犯として逮捕した。被告人は素直に逮捕に応じた。 このような経緯があることについて被告人は争わないが、被告人は国立駅付近ではなくシャンボール島田の北側の東西に通じる道路上でトラブルを起こしたと主張する。また津田警察官に「わざとぶつけたんじゃないか」と大声で言われて、傷害の容疑に反論できなかったと主張する。 しかし、被告人が自転車の人とトラブルを起こした場所について、小林警察官は公判で「国立駅付近と聞いた」と証言している。その場所は被告人が供述しなければ警察官には分からないことであり、警察官にとって国立駅付近でなければならない事由などなく、虚偽証言をする必要性もない。これに対してシャンボール島田前は事故現場のすぐ近くであり、そのような説明は用意で明確にできたはずであり、また被告人がトラブルを起こしてから、北方の自宅に向かわず、シャンボール島田の区画を一周するかたちで現場に至ったというのも、怖さで慌てていたという点を考えに入れても不自然である。また同所は、被害者の帰宅経路から外れることになる。被告人は津田警察官から傷害容疑を押しつけられたと言うが、小林警察官に対して被告人が進んで「後ろからぶつけた」と述べていることからして、信用しがたい。 シャンボール島田に居住するB証人は、「当日、本件道路を北に向かって歩行していると、赤帽の車がみふじ幼稚園正門前で対向車とお見合い状態で停車し、対向車を通過させていた」こと、「午後8時24分ころ、その横を通り、自宅マンションの2階通路を歩いていたところ、みふじ幼稚園の方から車が急発進する音を聞き、さらに自宅ドアを開けたときに、ガシャンという音を聞いた」と述べている。また、現場近くに居住するC証人は、「当日、帰宅途中に、白い車が赤帽の車と鉢合わせしていたため止まっていた」とき、「自転車に乗った男性が北向きに普通の速度で走ってきて、目の前の交差点を通過し、交差道路をわたりきったあたりで赤帽の車が急発進したのが分かり、タイヤが砕石を踏むようなズズズっという音が聞こえ、車が近くの砕石を敷いた駐車場に入ったと思った」と述べている。両名の証言は、自らの体験を記憶の範囲で明確に述べている。両名とも本件関係人と知己・利害関係はなく、ことさら虚偽や誇張を述べる必要はなく、十分信用することができる。被告人は赤帽車をみふじ幼稚園正門前で停車させ、対向車とすれちがった後、北方向に急発進したことが認められる。 さらにC証人の検察官調書によると、「自転車に乗り、シャンボール島田手前の交差点を左折して北方に走っていたところ、後方から明かりが近づき、車のヘッドライトと気がついた。振り向く間もなく、後方でガシャガシャという大きな音が聞こえた。クラクションや急ブレーキの音などは聞いていない。赤帽車は、私の横を通り過ぎて停止し、後ろを見ると、自転車と男性が、自転車を下に、男性が上に重なって倒れていた。赤帽の男性に、警察に電話しましたか、と声をかけると、しましたと言いながら、向こうが飛び込んできたなどと言い訳がましいことを言っていた」と述べている。C証人も本件関係人と利害関係はなく、虚偽を述べる立場にはなく、その内容に不自然、不合理な点もなく、十分信用できる。被告人が争わない、本件衝突現場の状況と被告人車両、被害車両の各損傷状況などの客観的事情とあわせて考えると、被告人は何らの回避措置もとらずに衝突させたばかりか、衝突後、ただちに制動せず、被害者と自転車を轢過してようやく停止したことが認められる。 被告人は、みふじ幼稚園正門前から発進するさい、自転車で北方向へ走り去る辻内鏡人をみとめて、同人が車を叩くなどした男性だと思い、赤帽車を急発進させて、同人を追い、後方から故意に衝突させたものと認められるのである。
量刑の理由を述べます。
本件は、被告人が、夜間の住宅街の裏道で、自転車で走行する被害者に運転中の自動車を故意に衝突させ、路上に転倒した被害者を轢過して死亡させた、大胆かつ凶悪な事犯である。 被告人は、動機について、被害者が一方的に言いがかりをつけてきたかのような供述をしているが、被害者がトラブルを起こした自転車の男性であると断定できる根拠もなく、また理由もなくそのようなことをする者がいるとは考えがたいのであって、被告人がつまびらかにしないことには動機は明らかにならないのであるが、運転中に起こったことから推測すると、被告人が危険または迷惑な運転行為をし、もしくは交通違反行為をしたことを見とがめられ、注意をうながされたことを逆恨みし、追いかけてきたと思いこんで憤激したとも考えられる。したがって被害者が本件のきっかけを作ったとか落ち度があるとは認めがたく、動機に汲むべき点はとぼしい。轢過までしているから、悪質きわまりない。 被害者は妻と二女と平穏で幸福な生活を続けるとともに、大学教授として研究と教育に励み、同僚や学生らに敬愛されていたのに、突如、理不尽ともいえる被害に遭遇したのであって、その無念さは察するに余る。遺族は途方に暮れ、落胆の日々をおくることを余儀なくされているばかりか、被害者が死亡するにいたった理由を知りたいのに、それも明らかになっていないことに焦燥感を抱き続けているのであって、このような心情を考慮に入れないわけにはいかない。被告人は厳しい非難を免れることはできず、その罪責は重い。 他方、鬱病に離間して治療を繰り返してきた生育歴があるなどの被告人の生い立ちが、被告人が他人からの働きかけに適応できずに過度に反応してしまい、強い思いこみから激情的な行動をとる傾向をもつことになったものとも考えられる。それが犯行に及んだ一因となり、捜査や裁判審理への対応にも影響していると認められる。本件は偶発的な事情が重なって行われたこと、正式の裁判を受けるのは今回が初めてであること、実母の助力を得て遺族への賠償として394万円余を供託しているなど、被告人のために酌むべき事情もある。以上の諸事情を全て考慮に入れて、主文のとおり量刑するのが相当であると判断した。 このように当裁判所は被告人の主張を認めなかったわけですから、あなた(被告)には控訴する権利があります。控訴期間は14日間ですから、よく考えて対応してください。 それではおわります。
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