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神々の世界でだんだん過去の記憶が明らかにされていく


第2宮家

第六章 ヒューマン・ボディ

作:starbow


玉司宮が、神社の空間が保持している記憶の中に入って行った瞬間、
宮の体は、量子ジャンプにより、時空を越えていた。
しかし、外からの観測者からは、時間が無限に引き伸ばされて見えるため、
宮の姿は長官の目には、立ち止まっているように見えていた。

***

神社の空間が保持している記憶に入った瞬間、周りの景色が一変した。
周りは、木々が生い茂り、大気には芳香が満ち、粘り気があった。
そう、ここは4500年前の世界の記憶の中。
まだ地球が厚い雲に覆われていて、空が青くない時代。
ノアの大洪水が起きる前の時代。
まだ、月がない時代。

玉司宮のオリジナルにとって、懐かしい光景が浮かんでいた。
周りは、神々の世界が広がっていた。
「ここは、イメージとして神々の時代だわ。それにしても、一体この時代になにがおきたのかしら?」
玉司宮は、周りを見渡しながら、一人呟いた。
それにしても、ここが日の本かと思うぐらい、広々としていた。
しばらく歩いていくと、そこには銀色に輝く大きな建物があり、神々がひっきりなしに出入りしていた。
耳をそばだてていると、2柱の神が会話する声が聞こえてきた。

「もうどうしようも手の施しようがありません。いったん起きてしまったことを戻す方法はありません。」
「しかし、それをどうにかするのが、ミカエルの仕事だろうが。」
「ガブリエルさま、できたとしてもすぐにはできません。なにしろ、シンクロ率が500%を超えていますので、このままですと、この世が潰えるときまで元に戻りませんよ。」
「なにか良い手立てはないのか。シンクロ率を下げるとか、侵食を遅らせるとか、なんでもいいのだが。」
「残念ながら、今実行できる唯一の方法は、メモリのアクセスを阻害する機構を装着して、記憶を封印することだけです。」
「それしかないのか?」
「最後の手段です。」
「アマテラス様にとって、残酷だと思わないのか。」
「それが一番適切な処置です。」
「しかし、その封印を解く鍵はなににするつもりだい?」
「それは、決まっています。元の実体とリングです。」
「だが、一体どうやってそれを後世に伝えるのかい。」
「強制的に、ここの住民の王に代々伝えさせます。」
「だがこのような野蛮なやからに伝えさせるには、安全機構がいるぞ。」
「それにに抜かりはありません。バックアップシステムも作っておきます。」
「それでは、そうしてくれ。アマテラス様にとって、それが一番よいのかもしれないな。」
「承知しました。」

***

神々は、物質的な実体がなく、コザール体だけの存在であるため、
物質地球に存在する人間とのインタフェースとして、ヒューマン・ボディをその代として使っている。
つまり、ニュートリノを媒介として神と代がシンクロすることで、人の目に見える存在となるのである。
しかし、神々も万能ではなく、時には事故がおきる。
つまり、ニュートリノにメビウス現象が発生して代であるヒューマン・ボディに神が囚われてしまうのである。

アマテラスもその一人だった。
もともと、アマテラスは、男子を代として人々の前に姿を現していた。
しかし、その男子の肉体が事故により怪我を負ってしまい、肉体の再生期間中の暫定措置として、
女子の体を代とした。

2,3日は特に何事も無く過ぎていった。
だが、4日目に事故が起き、アマテラスは女子の体にとらわれてしまった。

***

その後、2柱の神は、アマテラス神の休まれている神殿に向かった。
玉司宮もその後についていった。

アマテラス神は、寝台で横になっておられた。
その御姿は、清らかな乙女の姿だが、その言動はがさつであった。
「アマテラス様、お体の具合はいかがでしょうか?」
「ミカエル、この代のリンクを解く手立ては見つかったか。」
「恐れながら、100%の解はありませんが、50%の手立てはあることが判明いたしました。」
「申してみよ。」
「今のシンクロの状態を直ぐに解除する方法はありませんので、進行を遅らせることとします。
過去の事故例から、推察しますところ、メモリの特定のバンクにアクセスが発生すると進行が早まることが判っています。
そのため、その箇所のメモリアクセスを阻害する機構を付けていただきます。」
「それだけか?」
「はい。ただ、その箇所が問題でして。」
「申してみよ。」
「自身の性別を判定するメモリでして、それを封印すると、代の性別に左右されることとなりますので、アマテラス様のメモリの大部分が封印されることになります。それでも行われますか?」
「それ以外の方法はないのだな。」
「はい。」
2柱の神は揃えて答えた。
「ところで、解除方法はあるのか?」
「あります。この代のDNAを伝える家系と解除するキーをDNAのイントロンに封じ込めた家系を作ります。
そして、ここの住民の王に、ヒントを伝えさせます。」
「それから」
「次に、解除キーをもつものと代がリングを交換することで、リングがDNAのキーとイントロンのキーから封印を解除します。」
「途中で継承者が絶えてしまわないか?」
「それにはぬかりはありません。全てをバックアップする秘密結社を作っておきます。」
「それでは、しかたがない。やってくれ。」
その後、ミカエル神は、メモリアクセスを阻害する機構の開発を急ピッチで行った。
2,3日後、2つのリングを持って、アマテラス神の元にやってきた。

天の岩戸は、アマテラス神のメモリを封印したことを原住民に悟られないように神々が仕組んだ大仕事だった。
その後から、アマテラス神は、女神として祭られることとなった。

***

玉司宮は、その一部始終を見ていた。
そして、いま何をすべきかを悟った。
そして、神社の空間が保持している記憶から抜け出したのであった。

***

秘密結社 金枝教は、太古の昔から、アマテラス神を奉ってきた。
そして、日の本の政治経済を裏から操ってきたのである。
しかし、最近、おかしな出来事ばかりあり、
首領は、悩んでいた。

「玉司宮とはいったい何者なのか?
放った刺客は、全員記憶が途切れている。
まるで、アダプテーションされたようにだ。
そもそも、なぜ陛下がそのように敬う人物なのか?
たかが、女子ではないか。
それにしても、あの姿は、金枝教の本尊のアマテラスに良く似ている。
陰謀か?
不敬な、なにものぞ。」
首領は、考えを巡らした後、手下の者に命令した。

「玉司宮をやれ。」
手下は、頷くと、音も立てずに退出していった。


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