戻る

二人の平和な一日は過ぎていった。


第2宮家

第四章 インターミッション

作:starbow


 玉司宮は、その日も朝からハードスケジュールに追われていた。
 「長官、今日の予定はどのようになっているのかしら。」
 「はい。午前中は、新しく採用した女官たちの面接です。午後は、赤坂でイスラエル大使との会見、夜は、御所にて陛下との会食です。」
 スケジュール帳を見ながら、長官がテキパキと答えた。
 「わかったわ。ところで、明日は予定を空けておくように以前いってあると思いますが、大丈夫ですか。」
 宮はそう言うと、机の上に置かれている封書を指でもてあそびながら手に取り、心ここならずといった雰囲気であった。
 「はい。それは大丈夫でございます。予定は、何も入っておりません。奈良旅行の準備日にしてあります。」
 「ところで、旅行の手配は済んでいますか。」
 「はい。滞りなく。」
 「それでは何かありましたら、上手く処理しておいてください。」
 「かしこまりました。」
 長官は、そっと部屋から出ていった。
 長官が退出すると、すかさず封書の内容をもう一度食い入るように見つめ始めた。
 封書の中には、一枚の和紙が入っており、神代文字に酷似した模様が並んでいた。
 横から見ても、縦から見ても内容は理解できないようである。
 「どうもよくわからない内容のようだわ。しかし、どうにかしないといけないわね。」
 宮は、独り言を言いいながら、考え込んでしまった。。
 「ヨウ君の意見では、これは古代の神々の言葉を表しているようですが、私になにをして欲しくて送られてきたのかしら。」
 「しょうがないわね。後でもうちょっと詳しく分析してみましょうか。」
 そういって、封書を開かずの間の祭壇の中に置き、研究所に転送したのであった。

***

 次の日、T氏は、研究所で一日行儀作法の練習に明け暮れていた。
 「ヨウ君。もう勘弁してくれよ。」
 「いいえ。だめですね。血となり肉となるまで繰り返し練習しなければいけません。」
 「もうだめだ。」
 「だめです。」
 「せめてもう少しゆとりを持って。」
 「もう少しで1週間になりますので、それまでにきっちり学習が終らないといけませんよ。」
 「もう十分だ。今のままでも完璧じゃないか。」
 「まだまだ95%です。100%になるまで続けなくては。」
 「そんなことは不可能だ。もうギブアップだ。」
 そういいながら、T氏は、床に大の字にへたばり込んでしまった。
 「そういうものの言い方がだめなんですよ。」
 「そうは言っても。」
 「今の内にきちんとしておかないと、後で後悔しますよ。いままでに100人以上教えて来たんですから。間違いはありませんよ。」
 「しょうがないな。わかったよ。」
 T氏は、立ち上がると、再度、座り方、食事の仕方、話し方、しぐさなどのメニューを地道にこなしていった。
 そして、4時間が経過したころ、ヨウ君が戻ってきて言った。
 「まいりましたね。先日の封書の分先ですが、ここの今の設備では、処理能力の容量不足のようですね。」
 「えっ!ここの設備の処理能力は、超スーパーコンピュータというように伺っていますが、それでも処理できないということですか。」
 「はい。そうですね。この封書の情報量は見かけによらず大容量なデータであるようですね。」
 「それでは、どうすればいいのかしら。ここの設備よりも優れているところが他にあったかしら。」
 「後可能性があるとしたら、量子コンピュータでもある時の図書館でしょうかね。」
 ヨウ君は申し訳なさそうに、T氏を見つめていた。
 「しかたないですね。時の図書館の力を借りるしかなさそうです。時の図書館のガウス館長に掛け合ってみることにしましょう。」
 
 T氏は、そういうと、祭壇に立ち印を示し、時の図書館の存在する空間とここを空間接続したのであった。 

***

  いっぽうのT氏(P)は、部長に昇進し、提案していた事業の実現に向けで忙しい日々をおくっていた。
 「きみ、この資料はあそこの棚に片付けてくれ。」
 「この提案資料のここを直して、印刷にまわしてくれ。」
 「あー。ここは違うよ。気をつけてくれよ。」
 てんやわにゃの一日がすぎ、その日も終るころT氏(P)は感無量といった顔であたりを見渡した。
 「これが俺の砦になる場所だ。さぁ、がんばっていくぞ。古代遺跡をモチーフにしたテーマパークを必ず完成させて、ほかのやつらを見返してやる。」
 そう独り言を呟き、窓の外を眺めた。
 外は、一面の夕焼けで空は真っ赤に染まっていた。
 なお、T氏(P)の明日の予定は、奈良出張となっていた。

***

 時の図書館の入り口は、仮想的であり、それを望めば静寂としたただ独りあるのみの空間にも、
 混雑とした雑然とした空間にもなりうるものである。つまり、個々に対して1対1の接続を提供しており、
 また、同時に多重に重複した空間となっているのである。

 そのなかで、T氏は、長く続く回廊のなかをひたすら歩いていた。
 「たしか、ここに入り口があるはずですが、なかなか見つからないわね。」
 ただ、足音だけが響いているだけであった。
 「ここかな。この印だわ。」
 そういうと、印のあるところから視点を上に向け、今度は、垂直に進んでいくのであった。
 本当に、迷路のようなところである。
 しばらくまたひたすら歩いていくと、大きな白い門に辿り着いた。
 「ここだわ。Sさんから引き継いだ記憶によるとここに館長が居られるはずです。」
 門の認証キーは、そのままのようで、T氏が近づくとすっと門は消えていった。
 そして、目の前にガウス館長がよく来たというように笑みを浮かべていた。
 「お願いがあって、参りました。実は、。。」
 その言葉を遮って、
 「はるばる、ごくろうさまということじゃ。」
 「はい?」
 「あの封書は、ワシがお前さんに謎がけをして、ここに来るようにしむけたものなのじゃ。」
 「え!?」
 「実は、Sさんに時期がきたらお前さんをここに導くことを頼まれていたのじゃ。」
 「そういうことだったのですか。それならそうといってくださればよかったのに。」
 「いや。ここに自力でこれなければいけなかったのじゃ。」
 「それは何故でしょうか?」
 「あなたの力の継承状態をモニタするためなのじゃ。」
 「それでは、ここに至るということは、クリアできたということでしょうか?」
 「そうじゃ。」
 「ところで、それはどういう条件ですか?」
 「Sさんの思考パターンと適合するかということじゃ。」
 「すると、わたしは?」
 そのとき、空間に揺らぎができ、Sさんのホログラムが現れた。
 「Tさん、ごめんなさい。いまでは、いろいろとご迷惑をお掛けしていることでしょうね。この世界を救うにはどうしてもTさんの助力が必要なのです。
 わたしの存在は、写し身であり、この世にあってないものなのです。そのため、この世界に生を受けたかたにわたしの代になっていただくかたが必要だったのです。
 そこで、あの日わたしは、この世界に祈りを上げ、わたしの代に見合う人がくるようにしたのです。そして、それが偶然あなただったのです。
 わたしは、非常に悩みましたが、余地はなく、あなたを寄り代としたわけです。ぜひ、この世界を守ってください。お願いします。」
 そういうと、Sさんのホログラムは、消えていった。
 「そういうわけじゃ。わしからも頼みましたぞ。」
 「はー?はい。」
 すると、時の図書館もガウス館長も陽炎のごとく、姿を消していった。
 消えていく空間の狭間からSさんの声も聞こえたようであった。
 「全てが済んだときにまた合いましょう。」
 一瞬で景色が変わっていった。
 気が付くと、そこは祭壇であり、時間は1秒も経っていなかった。

***

  次の日、宮は、遺跡の視察で奈良を訪れていた。
 「今日は、暑いですね。」
 「そうですね。秋だというのに。異常気象でしょうか。」
 宮に同行している長官もハンカチで汗を拭きながら、宮の言葉に頷くのであった。
 「それにしても、ここの遺跡は大きいですね。」
 「はい。いままでで発掘されたなかで、最大級のものだと伺っています。」
 「ここに例のものがあるそうですね。」
 「はい。なんでも、畿内で発見されたのは初めてだそうです。」
 「その実物を見るために、ここまで来たのです。ここの発掘している責任者に会う手はずは整えていますか。」
 「はい。問題ありません。そこでお待ちになっています。」
 「手配、ご苦労様です。」
 「どういたしまして。宮様のお役に立てて光栄です。」
 そういいながら宮は、手袋をはめた手を額の前にかざして日光を遮りながら、現場で待っている五十嵐教授を見つめた。
 「初めまして。玉司宮と申します。五十嵐教授でいらっしゃいますか。」
 「はい。そうです。ここの発掘をしている五十嵐です。お目にかかれて光栄です。」
 「今日、ここに来ましたのは、ここで最近出土した鏡を見るためです。案内していただけますか。」
 「よろこんで、そうさせていただきます。」
 教授は、宮に足元を注意するように言うと、発掘現場の中央にあるテントの方へと案内した。
 入り口近くには、所狭しと入りきらなかった遺物がおいてあり、助手たちがせっせと番号付けをしていた。
 「宮様、こちらにへどうぞ。」
 「お気遣い、ありがとうございます。」
 そういうと、宮は、長官を従えて、教授のあとに続いてテントのなかに入っていった。
 教授は、出土した鏡を丁寧に手に取ると宮の近くに持っていった。
 「これが、今回機内で初めて発見された鏡です。」
 「これは、遺跡のどのあたりから出土したのですか。」
 「遺跡の一番中心です。」

***

 一方、T氏(P)も予定にあったとおり、遺跡テーマパーク事業を進めるために、奈良に出張していた。
 そして、宮が遺跡の入り口に差し掛かったとき、T氏(P)がタクシーから降りたところであった。
 そして、遺跡の出口で偶然にも玉司宮とT氏(P)はすれ違った。
 すると、お互いがはめている指輪が一瞬光りを放った。
 びっくりしてお互いが振り向いた。
 宮は、びっくりした。
 T氏(P)は、Sさんがなぜここにいるのかといぶかった。
 「きみは、瀬野さん?」
 T氏(P)は、恐る恐るたずねた。
 「あなたは、どちらさまでしょうか。わたしは、玉司宮です。ごぞんじありませんかしら。」
 「はい。存じ上げております。わたしは、津田と申します。人違いだったようです。間違いましたことを平にご容赦ください。」
 T氏(P)は、最近ニュースで見た、宮様のことを思い出して、冷や汗をかいた。
 そして、ぼうぜんとT氏(P)は、その場に立ち尽くした。
 そこに、長官が所要から戻ってきた。
 「本日は、この後の予定は入っておりませんが、いかがなさいますでしょうか。」
 「わたしは宿に戻ります。」
 「はい。わかりました。お車のほうは用意できております。」
 「用意がいつもいいですね。」
 「それは、いつものことでございますから。」
 そういいながら、2人の影は、車のほうに消えていった。
 後には、T氏(P)が独り残されていた。


 その夜の深夜、遺跡のなかに謎の物体が現れた。
 それは、しばらく鈍い光を放ちながら、しばらくすると地中に消えていった。


All Rights Reserved.Copyright (C) 2002,starbow.

戻る