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物事は、彼の都合に関係なく、進んでいった。


第2宮家

第二章 第2宮家の創設

作:starbow


T氏は、AZ研究所にあるSさんのベッドですやすやと”Sさんの姿”で眠っていた。
しかし、物事は、T氏の都合に関係なく、進んでいた。

Sさんは、継承の儀式が終ったあと、この世のすべてとつながってる時の図書館に赴き、T氏の個体情報を元にT氏の代理サービスを設置していたのである。
「ガウス館長。この世界の地球を彼に任せるにあたり、今までの因果律はそのままにしておく必要がありますので、彼用の代理サービスの起動を宜しくお願いします。」
「うむ。わかった。わしに任せておきたまえ。」
そう言うと、ガウス館長は、杖を一振りした。
杖から虹色の光が立ち上ると、図書館の奥で閃光が一瞬光った。
「これで、この世界の地球で、彼の代理存在が午前2時過ぎから存在することになる。もちろん、バックグラウンドで実際の処理をするのは彼自身なので問題はないはずじゃ。」
「いつも、ご苦労をかけます。ありがとうございます。」
「しかし、彼の任期が切れるときには、元に戻るぞ。単に図書館にあるアカシアック・レコードにパッチを当てているだけじゃからな。」
「はい、それは十分に承知しております。」
「あと、代理存在には、本人と区別するためにPマークを付けておいた。」
「ありがとうございます。それでは、わたしは、妖精次元の地球へ行きますので。」
「気をつけてな。たまには、ここによってくれんかな。わしも暇なのでな。」
「はい。時々お邪魔します。」
「それじゃ、元気でな。」
Sさんは、人差し指と中指で空中に弧を描き、次元を接続すると、次元の壁の向こうに消えていった。
「あの子も、大変じゃな。いくら地球神の代理人だからといっても、まだ子供じゃからな。」
次元を超えて去っていくSさんを見送りながら、ガウス館長はぽつりと独り言をいった。

ここは、T氏の会社のオフィス。
今まさに、T氏が音の発生源を探しに部屋を出て行くところだった。
しかし、T氏(P)は、何事もなかったように、部屋に戻ってきて、原稿の執筆を続けた。
「しかし、さっきの音はなんだったんだろう。急に聞こえなくなったけど。まーいいか。
原稿もできたことだし。おっと、もう4時を過ぎているじゃないか。とりあえず寝るかな。」
T氏(P)は、机の周りの椅子を一列に並べると、その上に寝転がり、眠りに就いた。

T氏は、原稿の執筆をしている夢を見ていた。
「この表現だと回りくどいな。ここは削って、このグラフを差し込んで。
次に、インターネットから拾ってきた統計情報を入れて、完成だ。
今日の予算説明用の資料はこれで良し。」
T氏は、夢を見ながら眠り続けた。

***

リンリン。目覚ましの音が鳴り響いた。
その音で、T氏は、徐々に目を覚ましていった。
「あれ、わたしはどうしてたのかな?もう昼じゃないの!
きょうは、K総理と13:30に会見して、引継ぎの説明をしないといけないし、
16:00に宮中に参内して陛下に引継ぎの儀式が完了したことをご報告しないといけない。
慌ただしい一日になりそうだわ。」
眠気を払いながら、いつもの癖で、傍に置いてあるリングを身につけた。
とたんに、バックアップされていたBRCにあるT氏の自我が連結され、ドドット、T氏の記憶も意識に戻ってきてしまった。
「あれ、寝てしまったのか。資料を作っておかないとボスに怒られてしまうな。」
慌てて飛び起きるT氏。

そのとき、T氏の視野に前にある姿見に映る自分の姿が目に映った。
目は細め、鼻は高く、顔の色は薄いピンクで、顔は丸顔、髪はストレートで薄く茶色が混じった黒髪、
そして、すらっとした長身で、薄桃色のパジャマ姿のSさんがそこにいた。
手をあげると、鏡に映っている彼女が手をあげていた。
首を傾けると、彼女が首を傾ける。
笑うと彼女の顔にかわいいえくぼができて笑っていた。

「え!」
T氏は、悲鳴を上げた。
「おれは、どうなってしまったんだ!
この子は、Sさんじゃないか!
なぜ、ここにいるんだ。ここはどこだ。」
T氏は、ベッドの上に倒れこんでしまった。


しばらくして、部屋の扉が開き、Sさんの飼っていたペットの羊のヨウくんが現れた。
「まだ寝ているんですか?もうそろそろ起きて頂かなくてはいけないのですが。」
「ヨウくんが喋っている。」
「落ち着いて。落ち着いて。」
「これは夢か、幻か。」
「いいから。」
。。。。。。(しばらく経ってから。)
「ここはどこなんだ。」
「判るでしょう。」
「なぜ、おれはここにいるんだ。」
「判るでしょう。思い出してください。」
T氏は、記憶の中を探った。
夜中の出来事。Sさんの儀式の無理やり参加させられて。
そして。。。
Sさんの記憶もフィードバックしてきた。
『あなたが、Sさんですよ。これからあとの、この世の管理を宜しくお願いします。
わたしは、妖精次元の地球にいくことになっています。』
そうか。この世の管理を強引に任されてしまったたんだ。しかし、姿、形まで引き継ぐとは。
「今の科学の知識で簡単にいうと、あなたのDNAの一部を強制フィールドで書き換えています。
また、脳内の視床下部、下垂体、松果体などの内分泌器官の強化、海馬などの記憶領域の強化・BRC外部システムへの接続がされています。
さらに、エーテル体、アストラル体などの魂に付随する部分についても、時の図書館のバックアップシステムに連動しています。
そうすることで、わたしの主人であるSさんの全能力を継承することができるようになったのです。」
。。。。。(唖然とするT氏。)
「しかし、Sさんとはいったい何者なんだい。」
「あまたの次元に存在する地球を統括する地球神の代理人です。」
「なんだい、そりゃ?」
「そのとおりです。」
「もうちょっと、説明をお願い。」
「しょうがないですね。あとで、記憶のなかで探してくださいよ。
地球は、太古からこの宇宙の中心に存在していました。
そして、この世界がビッグバンによって成長していったとき、地球自身の成長の結果、地球神が誕生されたのです。
しかし、1億年まえにまだ霊的存在であった、古代ムー文明が過ちによって次元分断装置を暴走させたために、地球は、あまたの次元に存在するものになってしまったのです。
偶然にもその結果、地球神自身が、量子コンピュータとして動作することで、地球という巨大なライブラリ 時の図書館ができたのです。
しかし、それにはどんどん分解していく次元を管理し、あまたの次元にある地球を一括して管理していかないと、いけなくなったのです。
そのとき、地球神は、ある次元の地球で、一人の少女と出会い、自分の力をいつでも使える代理人としたのです。
それが、この世界では、Sさんと名乗っていた存在です。
彼女は、あまねく次元を飛び歩き、自分の継承者を次々に作っていっています。
そして、来るべき災厄に備えているのです。
そして、この世では、あなたがその継承者です。」


「あ、ところで、おれがここに、この姿でいるということは、おれは無断欠勤、失踪ということになってしまうのか?」
「えーと、それに関しては、代理存在をSさんが立てておきましたから大丈夫ですよ。」
「なんだそりゃ?」
「本来のあなたの運命を代理として担うものですよ。ただし、あくまで代理ですので、実際の思考は、起きているときも、寝ているときもあなたがすることになります。
もちろん、今の力を使えば、今までの何十倍も早く、意識下で済んでしまいます。実際、寝ているときに仕事の夢を見ていたでしょう?」
「それはそうだが。」
T氏は、寝ているときに見ていた原稿執筆の夢を思い返していた。
「それでは、納得して頂いたところで、今日のスケジュールをお忘れなく。」
「そういわれても、どうすればいいんだ。」
「思い出してください。」
「判ったよ。」
「では、起きて、支度をしてくださいね。」
T氏は、ベッドから起きると、記憶を辿りながら、パジャマのまま部屋を出て、右手にある洗面所で顔を洗い、シャワーを浴びた。
着替えの場所、服の仕舞ってあるところなど、次々に辿っていった。
もちろんT氏にとっては初めてであり、ドキドキの連続だった。
「しょうがないな。これでは、身が持たないや。なにかいい手立てがあるかい。」
「そうですね。それでは、リングのモードをハーフに切り替えてください。」
「こうかい。」
身に付けていたリングの側面にある模様を撫ぜると、T氏に意識がバックにいき、Sさんの擬似意識が表面に現れた。
「さっさと、用意しなくっちゃ。」
Tシャツとスカートに着替え、髪を梳かし、キッチンで遅い朝食を食べ終えると、K総理にあうために、サマースーツに着替えはじめた。
着替えを終えると、化粧台に向かい、UVカットのファンデーション、アイシャドウ、マスカラ、口紅などで化粧をしていった。
姿見の前に立つと、うら若き乙女の姿がそこにあった。

「それでは、間違いがないように気をつけて、行ってらっしゃい。」
ヨウくんは、そう言うと、祭壇に立ってるT氏に向かって、言葉を送った。
T氏は、人差し指と中指で空中に弧を描き、空間を接続すると、首相官邸の地下にあるSさんの専用室に道を開き、中に進んでいった。
中は、薄桃色一色の部屋であった。

K総理は、悩んでいた。
首相に着任したときに、この世を治めているという存在に初めてあったが、その見た目は二十歳前後のうら若き少女であった。
しかし、陛下の紹介によると、歴代の帝の即位の時に必ずその承認者として、祭事を取り仕切るという。
今日は、その存在が引継ぎの説明をしに来るという。
いったいなにの引継ぎなのか?さっぱりわからないのだ。
そこに、秘書が慌ててやってきた。
「総理、お時間です。」
「判った。今すぐ行く。」
「相手はいったい誰なんです?」
「極秘会見だから教えられない。」
「しかし、地下の開かずの間でとは」
「む。」
「開かずの間は、内側からしか戸が開かないのですよね。
いったいどうやって中に入るのですかね。」
「きみ、そこから先は、口をつぐみたまえ。」
「申し訳絵ありません。」
K総理は、秘書を置いたまま、首相官邸の地下へ続く階段を一人で下っていった。
地下が立ち入り禁止の区域なので人が通るわけでもなく、あたりはシーンとしていた。
しばらくすると、開かずの間にたどり着いた。
(ここまでくると、皇居の近くまできていることになるな。)
そう、一人ごとを考えながら、開かずの間の入り口の戸をノックすると、中から少女の声がした。
「開いてますので、お入りください。」
K総理は、そっと戸をあけると、中に入っていった。
そこには、以前会ったときと寸分変わらない、乙女が立っていた。
ただし、今日は、サマースーツ姿であった。
「女神さま、お久しぶりです。」
「始めまして、K総理」
「女神さまには、以前お会いしましたが、覚えていらっしゃらないのでしょうか。」
「いえ、わたしは、今日初めて、会いましたよ。」
「え。1年前にもお会いしたと思いますが。」
「いえ、違います。今日からわたしがこの世界の管理を引継ぎました。以前のかたとは、違いますよ。」
「それではいったい、前の女神さまはどこにいかれたのですか。」
「別の次元に行かれました。」
「今後、政府は、女神さまに対してどのように対応していけばよろしいのでしょうか。」
「ほとんど、いままでと同じです。ただ、ひとつだけお願いがあります。」
「なんでしょうか。」
「このあと、殿下と会を設けます。そこで決まったことに対して、臨時の閣議で了承していただきたいのです。」
「わかりました。かならず通すようにします。」
「それでは、またお会いできる機会がありますように。」
そういい残して、K総理の目の前から忽然と乙女は姿を消していた。
後には、乙女がいたことを示すほんのりと香水の香りが漂っているだけであった。
K総理は、それを恐怖にうち震えながらただ呆然と見ていた。

T氏は、元の祭壇の上に立っていた。
ヨウくんが駆け寄り、声をかけた。
「うまくいった?」
「うまくいきましたよ。今度は、殿下に会いに行かないといけないね。着替えてくるね。」
そう言うと、T氏は、祭壇から降り、着替えをするために、部屋に戻っていった。

「今度は、正装で行かないといけないのか?
今後も、着替えがいろいろと大変だな。」
そういいながら、T氏は、宮中に参内するための正装に身を包んだ。
着替えに時間を費やしたため、着替えが終ったのは、予定時刻の直前であった。
メイクを少し直して、これでよしと納得すると、そのまま、祭壇に立ち、空間を接続すると、宮中に道を開き、中に進んでいった。

目をあけると、そこは、宮中にある開かずの間であった。
中は、同じように祭壇があり、周りは、薄桃色一色であった。
そのとき、外から声がかかった。
「お見えになられたかな?」
「はい。殿下、どうぞお入りください。」
「それでは、中にはいりますよ。」
そっと戸をあけ、殿下は部屋の中に入った。
そして、即位のときに会って以来、14年ぶりなのに、姿、形が変わっていない乙女の姿を懐かしい目で見つめた。
「あなたさまは、何年たっても変わらないのですね。」
「それは違いますよ。
わたしは、以前のわたしではありません。
わたしは、今日からこの世界の管理を引継いたものです。」
「やはり伝承どおりなのだね。姿、形は同じでも別の存在ということですね。」
「その通りです。」
「ところで、今日はそれだけのためにお見えになられたのかな?」
「実は、折り入ってお願いがあります。」
「なんですか?」
「今ある宮家のほかに、わたしを宮とする第2宮家を作っていただきたいのです。」
「それはまた、急なことですな。いままで一度も俗世間にかかわることはなかったと聞いていますよ。」
「この先、この世の表にわたしが現れないといけない事象が発生するからです。」
「それは、あの預言書に書かれていることかね。」
「はい、そうです。そのために、今まで通りに裏からこの世界を見守るほかに表での活動が必要になります。
そのためには、宮家を創設するのが一番であると結論がでました。」
「判りました。早急に手配しましょう。
それでは、あなたさまを、第2宮家 玉司(たまぐし)の宮としよう。」
「ありがとうございます。
それでは、いつものようにご連絡ください。お待ちしています。」
そういうと、乙女は突然と姿を消した。

「古代よりわが先祖から伝わる隠されたる3種の神器をも表に出す時期が近いということか。」
考え深げに、殿下はつぶやくのであった。


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