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ちょっとした好奇心が物事の始まりだった。


第2宮家

第一章 偶然の選択

作:starbow


ふと時計に目をやると、既に午前2時を過ぎていた。
「締め切りは、今日だというのに、まだ原稿が完成しないぞ!
また、ボスに怒られるな。これじゃ。」

T氏は、独り言をいいながら、眠たげに目をこすり、お気に入りのカップにコーヒーをなみなみと注ぎ、一口ふーとコーヒーをすすった。

そのときであった。

どこからか、ウォーンという音がした。
普通ならば、そんなことはお構いなしに仕事に打ち込むT氏であったが、なぜか気になってしまった。

「何だ!」

手に持っていたコーヒーカップを机に置くと、上着とセキュリティーキーを持って、音の発生場所を探し始めた。
音の発生源は、今いるフロアーより下のフロアーであった。

周りに警戒しながら、5階、4階、3階と階段を降りていった。
3階を回りを見渡しながら進んでいくと、音源はそこにあった。
音の発生源は、いつも締め切られているAZ研究所であった。
だが、今は扉が開いていて、隙間から光とともに、騒音が漏れ出していた。

好奇心からT氏は、扉を少し開け中をのぞいた。
部屋の中は、がらんとしていたが、中央に祭壇が据え付けられていて、そこには「しめなわ」が張ってあり、鏡がひとつ置かれていた。
鏡は、扉の方に向いており、T氏の顔が映りこんでいた。

「しまった。見つかるぞ。説明をどうしようか?」

T氏は、瞬間パニックに陥ってしまった。
しかし、そこに現れたのは、T氏がひそかに思いを寄せている知り合いのSさんであった。

「なぜこんなところに君がいるのかい?」
「ここは、わたしの研究所ですよ。」
「え。!」
「君はまだ大学生ではないのか。」
「それは、世を忍ぶ仮の姿です。本当は、見た目よりも一桁以上年をとっていますよ。
そんなことより、今日は、Tさん。あなたに用があるの。協力してくれる。」
「なんだよ、いきなり。わけを説明してくれよ。」
「じつは、いままでわたしが収集し、守ってきた、この世界の叡智を継承できる人を探していました。
ここに置かれている祭壇は、その叡智を継承できる力を持って生まれてきた魂を呼び寄せるものなのです。
その選択権は、偶然という名の必然です。
そして、あなたがここにいるということは、あなたがその該当者ということになります。」
「そんなこといわれてもな。」
「これは、あなとがこの世にうまれてきたときからの使命なのです。そこをわかってください。」
「そういわれても、仕事がまだ残っているし。」
「それは、あとで解決します。」
「しかし。」
「もう4時を過ぎている。日の出まえまでに、継承の儀式をしないと。。。」
「なんだいそれ。」
「善は急げです。そこに立ってください。」
「しょうがないな。」
「それでは、始めます。」

儀式は、光と音を伴い、Sさんのすべての記憶・叡智・情報が絶え間なくT氏に流れ込んだ。
Sさんがいままでに赴任してきたあまたの次元の地球、太古から続く未来の記憶、この次元の初めから終りまですべて、
めまいがするほどの量の情報がいっきに転写されてきたのであった。

T氏は、すべての記憶の記録の海にただよっていた。
記憶の渦のなかに飲み込まれ、浮かび、また飲み込まれていった。
T氏の記憶は、かなたに飛び去っていった。

1時間後、儀式は終った。

普通の人間であれば情報量の多さに頭脳がパンクしていまうところであったが、T氏の頭脳には通常の人よりも余白領域が多く、かろうじて入ることとなった。
少しの不足分は、BRC(バイオリレーションサーキット。自己拡張機能がある、神経細胞を素材にした集積回路。)に暫定的に記録された。
そして、T氏のもともとの記憶もBRCに移行されてしまっていた。

!?

継承の儀式。それは、Sさんの持つすべての叡智をT氏に委譲するとともに、その責任をも押し付けるものであった。
要するに。Sさんは、この次元の地球からほかの次元の地球に転出するため、この世界の管理権をT氏にお任せしたのであった。

そして、終ったあとには、Sさんがいなくなり・現れて、T氏が消えた。

後には、一片薄紫の紙片だけが残っていた。

「あなたが、Sさんですよ。これからあとの、この世の管理を宜しくお願いします。
わたしは、妖精次元の地球にいくことになっています。

あすは、K総理との会見のあと、宮中に参内する予定です。よろしくね。
だいじょうぶですよ。あなたはわたしですから。」


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