けやきの思い出

1998/9/23


 私が1年生の間だけ通った小学校のことは今でもはっきり憶えている。
 近所に新しい学校が出来たので1年間しか通わなかったが、 校庭には懐かしい物がたくさんあった。
 木造平屋建ての校舎。消しゴムを落としてしまった床の節穴。 ビーズが挟まり込んで取れなくなる板の廊下。ボールが落ちると2度と 使いたくなくなる汲み取りトイレ。

 中でも大好きだったのが、樹齢100年を越えると言われていたケヤキの木だった。
 学校が変わったのに、卒業文集にはこのケヤキの絵を描いた。
 中学になっても、高校になっても、時々行っては眺めていた。

 だから、就職が決まって久しぶりに報告に行ったとき、 そこにケヤキが無かったことはとても悲しかった。
 近くに通ったバイパスの公害が老体には応えたのだそうだ。
 今はそこには彼女の記念碑とともに、その子供が大切に育てられている。

 そんなおり、私は初めて行った親戚の家の庭で、記念樹ともなっているという 巨大なケヤキの老木を見つけた。
 何かとても懐かしく、うれしい気持ちがした。
 場所もあのケヤキとそう遠くなく似たような樹齢だし、案外兄弟だったのかも しれない。


 しかし、昨日電話があった。そのケヤキが折れてしまったそうだ。
 この台風に耐えられなかったのだという。

 少なくとも今度は自然の力でいったことが、せめてもの慰めである。