ひとりごと・・・

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そもそも目に見えない淡い星の光を捕らえるのに、
天体写真ファンの人はどうしてこんなに努力を惜しまないのでしょうか。

古くからフィルムの冷却、水素増感、特殊な現像、高度な暗室作業、
いまや高価な光学系、追尾装置、オートガイド、
コンピューター画像処理に、ピクトロをはじめとするデジタルプリント。
そして今後の主役となるであろう冷却CCD・・・・・。

Kuroの学生の頃にゃ、やっと買った小さな赤道儀にカメラを載せて、
ガイド鏡で目で星のずれを追いながら寒さと戦い・・・。

昨今メジャーな撮影地に新月の頃行けば、
クルマが買えるような機材にでかい鏡筒を載せて、
防寒着に身を包んでノートパソコンを操作する人達に巡り会えます。

いまや天文雑誌を飾る入選作品は、
例えば美しい星雲の写真なら、
ペンタックスかボーグあたりの明るい短焦点屈折の光学系、
赤道儀はタカハシのEM-200、当然ST-4でオートガイド、
カメラはペンタ67のB無電源改造+吸引加工で、
フィルムはコダックのE-100SかE-200のブロで
1時間以上の露出、4倍くらい増感、画像処理してピクトロ出力・・。

すごい惑星写真や系外星雲なんかは、
大口径の長焦点シュミカセあたりで、冷却CCDで数十画像の撮像、
ステライメージあたりでのコンポジット処理、ピクトロ出力。

しかし、かく言うわたくしKuroも、気づけば似たようなものです。
(中古品とはいえ)学生の頃には憧れるだけだった高価な機材を、
クルマ一杯に積み込んで、晴れた月の細い週末には、暗い山へ出かけるのですから。


そう、あれだけの機材を使えば、誰だってすごい写真を撮れるよ!
と、思ってました。以前は。羨望と嫉妬のまなざしで。

確かに高価な機材が無ければ、雑誌に入選するような作品は撮りにくいでしょう。
でもね、機材が大がかりになればなるほど、複雑で、重いし、
暗く寒く眠い現地でそれを思い通りに操作するのがいかに大変なことであるか・・。

素晴らしい星空の下で暮らしている人は幸運でしょうが、
そうでない大多数の日本人は星空を求めて暗い山などに遠征しなくてはならない。
まして社会人であれば大抵は週末にしか出かけられず、
新月周辺の週末でなくては撮れないから、チャンスは月に1度か2度。
それも雨や曇りは論外。晴れといっても、数時間に渡って雲が全く横切らない
快晴状態でなければ撮れません。風が強くてもダメ。

晴れてると思って出かけても、機材を組み立てても、
空が悪くてただただ朝を迎えた晩がどれだけあったことでしょう・・・。

上手くチャンスに恵まれて撮影を開始しても、観光地のそばだったりすると、
ハイビームのライトを付けたクルマがやって来たり、走り屋さんがやって来たり、
あるいは家族連れの方々が望遠鏡を見せて下さいー(笑)

そんな苦難を乗り越えて撮影していても、眠いし、寒いし、
夜露でレンズが曇ったり、温度や湿度の変化でフィルムの平面性が失われたり、
ピントがずれたり、機材がたわんだり、ガイドが流れたり・・・。
なかなか成功率は低いんですよ、これが。

だから、機材がなきゃ撮れないけど、あってもなかなか撮れないんです。
まさに趣味と道楽の世界ですねー。驚異でしょ?


そう、費用と労力をかけて少ないチャンスで成功するために、みんな努力してるんです。
だから、せめて一番簡単に選べる備品である撮影フィルムくらいは、多少お金がかかっても、
満足のいくモノを使いたいわけです。失敗しないために、実績のあるのを選びたくなるのも当然です。

そんなわけで(笑)昔からフィルムに、並々ならぬ関心を持っていたKuroは、
幸か不幸か写真会社でカラーフィルムを開発する職場に配属されて、
感材の新製品開発なんかを業務としていたりするわけです。

むかし愛用してたあのフィルムはあの人が作ったのかー、とか
開発者に意外と天文ファンが多いじゃないかー、とか
こういう事情でああゆう性能になったのねー、とか
新人の頃はマニアの視線を代表しておりました。
とにかく低照度不軌の少ない、Hα光が写るのを作れとか・・。


でも、メーカー側の立場になると、
天体写真なんてメーカー側の保証品質外の領域を使っているわけですよ。
想定してるのはせいぜい数十秒程度まででしょう。そんな何時間も露光するのは想定外です。
正しい使い方ではないわけです(笑)。薬なら「用量用法を守って正しく服用下さい」って感じです。

散光星雲が赤く綺麗に写るのだって、
たまたま星雲の輝線のHα光が赤感光領域の長波側にかかっていたわけで、
通常の写真を撮る上で重要ではないこの領域は、むしろない方が良いのかもしれない。

天体専用フィルムを作るならともかく、一般的な高性能を要求されるアマチュアフィルムにおいては、
「超」低照度もHαもあまり重要ではないわけです。他の性能との取り合いになれば特に。
性能に余裕があればともかく、どこの業界もそうでしょうが、開発陣はそれこそギリギリで・・。
より大企業ならできるのかと思いきや、当社より大手の某社の開発者に言わせると、
ますます融通が利かないらしく、それこそ(小回りの利く?)そちらの方がやりやすいでしょうと。

まあ、そういうわけで(どういうわけだ?)、少数派の天文ファンの仕様は、
もちろん知ってはいるものの、なかなか一般的な製品の性能には反映されにくいわけです。
よって、天体写真適性に優れたフィルムが出来たとしても、たぶんタマタマでしょう。
基本性能が高いものが、想定外の使用にあっても性能の劣化が少なかった、とか
それこそ偶然、天文ファンが好む方向へ性能が崩れてた、とか。

だからこそ、メーカー側が想定していない使用領域だからこそ、
フィルム毎に性格や性能の差が大きく表れて、選ぶ楽しさが増すということもあります。
いち天文ファン、いちユーザーとして興味が尽きないところです・・・。

かくして、Kuroはヨドバシで新しいフィルムを見つけては、夜空に向けたくなるわけです。


でも趣味と仕事を兼ねて、これだけ撮影感材に関する知識を得たところで、
一向に自慢できるような作品は撮れないです・・・。
ま、いいんですよ、趣味なんだから。道楽なんだから。

・・・ところで、ここまで読んでくれる奇特な方はいらっしゃるのでしょうか(笑)?
是非、掲示板にでも名乗り出て下さいませ!あはは。

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