その他の小説


○神はサイコロを振らない(大石英司)
 10年前、突然消息を絶ったYS−11が、10年後の現在に突然現れた。乗員乗客は全員無事。しかし、それ(10年後に戻ってくる)を予測した科学者は「3日後にまた10年前に戻り、今度こそ墜落する」ことを予言する。3日間の命と知った乗員乗客とその周囲の人々は限られた日々を懸命に生き抜こうとし、そして運命の日が訪れる・・・。
 この小説を読んで感じたのは、まず登場人物が多いということ。ここまで大勢出す必要もあるのか?とも思うが、飛行機に乗り合わせた色々な人の人生を描くという観点がら考えると仕方が無いのかもしれない。ただ、そのせいか悪く言えば場面が目まぐるしく変わり、良く言えば無駄が少ないと言う感じ。
 物語自体は非常に良く、所々涙腺を緩ませる内容には久し振りに感動的な作品に出会ったという感じがする。登場人物の中には、3日後に過去に戻らない方法を調べる者もいるが、結局無駄に終わってしまう。そういう意味での運命は変えられないけど、生還した人物によって良い方向に運命を変えられた周囲の人たち。少々オーバーかもしれないが、努力によって変えられる部分もあると教えてくれる。
 TVドラマ化されているので、ビデオが出たらレンタルして見てみたいと思う作品であった。

○天空の蜂(東野圭吾)
 氏に作品の中では、あまり食指の動かなかった本なのだが、友人から借りて読む事に。
 子供を乗せたまま、大型特殊ヘリコプターが遠隔操縦によって盗まれてしまう。原子力発電所「新陽」上空でホバリングさせた犯人の要求は、新陽以外の原子力発電所を全て破壊せよ、ということだった。もし要求を飲まなければ、爆弾を積んだヘリを新陽に落とすと宣言した犯人の要求を政府は受け入れるのか?
 自分は以前に原子力の仕事をしていた事があるので、ウランとかプルトニウムとか、実際に出てくる発電所がある地名とか、懐かしい思いで読ませてもらった。
 実際にそれらの原子力発電所は本当に安全なのか?もし日本の原子力発電所が全て停止したらどうなるのか?
 最近は「クールビズ」というのが流行って(?)いて、ノーネクタイ、ノー上着とすることにより、職場でのエアコンの設定温度を2度上げよう、という動きがある。これは電気を使わない→CO2を減らす→地球温暖化を防ぐためであるが、電気を使わなければ、使わなくなる発電所もでてくるのではなかろうか。
 少し話しがずれたが、犯人のうちの1人には、原子力発電所についてもっと多くの人(日本の国民全て)に真剣に考えて欲しいという狙いががあって犯行に及ぶのだが、果たして実際に何人くらいの人が考えているのだろう。発電所の近辺に住んでいる人たちだけではないのか。事実、仕事をしていた自分でさえ考えていなかった。
 原子力発電所反対と言うのなら、夏に冷房、冬に暖房をしない生活うをすべきなんじゃなかろうか。今の日本人にそんなことできるのかね?
 なんだか、本の感想とは離れてしまったが、この小説を読んで考えさせられた例、ということで・・・・・

  ○古惑仔(チンピラ)(馳 星周)
 ええと・・・・・。2度と読まないはずの馳氏の作品をまた読まされる羽目になった。(苦)
 短編集であるせいか、前回の「夜光虫」と比べると暗黒色というか、主人公の身勝手さは非常に少ないので、そういう意味では少々読み易かったが、「鼬(イタチ)」と唯一女性が主人公の「長い夜」以外の話しは殆ど主人公が死んでしまう、エグい小説であった。それでも物語に深みがあればまだ良いのだが、それもあまりない。どうしてか考えてみると、話しが似たり寄ったりということもあるが、基本的に現在進行形で話しが進むからなんだと思う。普通なら話しが進むに連れて、例えば主人公の生い立ちや過去の出来事のエピソードが挿入されるものだが、この短編ではそれがあまり無いのだ。短編なのである程度は仕方ないと思うが、もう少しなんとかなりそうな気はするのだが?

○事故係 生稲昇太の多感(首藤瓜於)
 少し前に読んだ、色々な作家の短編を集めた本に収録されていたのだが、最後の各作品の解説の部分で、「本当は長編なのだが、ここでは第1章だけを紹介した」と書かれていた。その時全部読んでみたいと思い、立ち寄った書店で文庫を見つけたので購入。
 主人公は、警察署の交通課事故係に勤務する生稲昇太巡査、22歳。先輩である見目巡査部長と組み、日々事故処理に励んでいる。正義感が強いせいで時に周囲の人と反発するが、それを乗り越えて成長していく物語。
 警察署の話しなので、当然事件・事故についての話しが無ければ物語は進行しないのだが、主体はそれよりも、それをきっかけとしたヒューマンドラマという趣向になっていて、主人公の成長を描く青春ドラマといった感じ。主人公の怒り、悲しみが良く伝わってくる。章によっては悲しい話しも盛り込まれているのだが、最後はすがすがしく終わる感じ。
 歳のせいか、自分は先輩警察官の意見に同意したりしたのだが、もっと若い頃(主人公と同じくらいの歳)に読んだら、主人公の気持ちに同意したのかな。
 続編希望。

○真実の絆(北川歩実)
 余命数年と宣告された、子供のいない大富豪(まだ若いみたい)が、昔の恋人が自分の子を生んだかもしれないと、弁護士にその子を探すように依頼した。遺伝子の鑑定、はたまた遺伝子の偽造(!)まで行う者が出て、更には殺人事件まで発生。この人探しの裏に隠れた事実とは!?
 前半の各章は、それそれオムニバス形式のようなスタイルで書かれている。要するに、弁護士以外の登場人物はみんな違う人たちなのだ。が、途中から同じ人物達が各章に出てくるようになり、最終章へと進んで行く。
 しかし、正直言って難しい本だった。遺伝子の知識よりは、話しの主眼が目まぐるしく変わっていって、しっかり理解して読み進めないと「あれ?いつの間にこんな話しになってんの?」ということになってしまう。残念な事に、自分は理解して読んでいたとは言えないかな。

○ダレカガナカニイル・・・(井上夢人)
 最初にこのタイトルを見た時は、「ホラー小説か?」と思った。だが、中身は全然ホラーではなく、SF、恋愛、推理小説を融合した内容になっている。
 ある騒動を起こして山梨に転勤になった警備員の西岡悟郎。新しい仕事場は新興宗教団体の拠点を村民の迫害から守る仕事だった。
 勤務に着いた初日の夜、祈祷堂が火事になり、中から教祖である吉野桃紅の死体が発見される。その時から西岡の頭の中から「ココハドコ?」という声が聴こえ始め、自分が燃えている夢を見るようになる。その夢の情景から、声の主は吉野桃紅で、彼女は殺されたのではないかと、”声”と一緒に犯人の手がかりを探し始める。それを吉野桃紅の娘である葉山晶子に相談してから、2人は恋に落ちてしまう。
 確かに、SFでもあり、恋愛小説でもあり、推理小説でもある。が、どちらかと言うと推理の要素は少し薄めという印象。でも全ての要素が盛り込まれていて、お得度は高いかも。
 状況設定が設定だけにあまり感情移入はできないが、衝撃の、そして悲しい結末は、読む人を「もう少し他に方法が無かったのか?」と思わせる。

○夜光虫(馳 星周)
 ”暗黒小説”と作家自身が謳っているだけあって、かなりダークな内容で、途中で何度も読むのを止めようかと思った。なぜそんな本を読み始めたかというと、職場の隣の席のヤツに半ば強引に押し付けられたのである。(苦笑)
 台湾でプロ野球選手となった加倉は、黒道(台湾のマフィア)に言われるままに野球賭博に足を踏み入れ、放水(八百長)に手を染める生活を続けていた。ひょんなことから、所属しているプロ野球チームに八百長の疑いがかけられ、自分の身を守るために弟分である俊郎(台湾人)を殺害してしまう。黒道から自分の身を守るため、そして自分の欲しいものを手にするために殺人を犯し、その嫌疑を逃れるために嘘をつき、また殺人を犯し、という堂々回りに陥ってしまう。加倉に未来はあるのか??
 本当、読んでいてこんなにも嫌な気分になる小説は初めてだ。主人公の身勝手さに辟易した。しかも長い(800ページある)し、読み終わった時の疲労感といったら。でも、「ああ、やっと終わった〜」という安堵感もあったかもしれないが。(苦笑)
 とにかくこの著者の本は自分には合わないので、もう2度と読まないだろう。

○片想い(東野圭吾)
 はい、ついに念願の文庫化で。飛びつくように買いました。
 11月。大学でアメリカンフットボール部に籍をおいていたメンバーの同期会が毎年行われる。会がお開きになったあとに西脇哲郎の前に現れた元女子マネージャーである日浦美月は、男の姿をしていた。彼女(彼?)は、性同一性障害であること、そして人を殺したと哲郎とその妻に告白する。2人は美月をかくまうことにするが、その2人の前から美月は姿を消し、更に元アメフト部で大学時代美月の恋人だった中尾も姿を消してしまう。その失踪の裏には・・・・・・
 この本を読み始めて暫くは「片想い」というタイトルの意味がわからなかった。しかし、読み進むにつれて様々な「片想い」が姿を現す。もちろん、一般に使われる意味での「片想い」も無くはないが、それよりももっと違う「片想い」が描かれている。例えば、勝負の世界で女が男に勝っても事件でなく、男が女に負けても恥でなくなる社会になるように望む「片想い」。男の心を持った女が、男の姿が欲しい(あるいはその逆)と望む「片想い」。一般に少数派と言われる人達が、それを排除する社会ではなく受け入れる社会に変わるように待ち望む「片想い」。
 男と女は基本的に染色体がXYかXXであるというだけ。心の中がどうなら男っぽいとか女っぽいというのは人それぞれ基準があるかもしれないが、その定義は誰が決めるのか?決めることができるのか?
 登場人物の1人に、卵巣も睾丸も持つという、真性半陰陽の女子高生が登場する。この物語の中で最も印象に残ったのは彼女のセリフである。「私以外の人はみんな男と女に分けられる。でもそれだけのこと。分けることに意味なんてない」
 考えさせられる内容であった。

○家族狩り 全5部(天童荒太)
 この話しはう〜ん、すごい。ただその一言につきる。
 沢山の人物が登場し、沢山の人間模様を見せる。タイトルの通り、大きなテーマは家族の崩壊とその修復なのだと思うが、崩壊に対しては「家族だけが悪いのではなく、現在の社会に問題がある」という意見が出てくる。確かにそうだけれど、この社会を作るのもまた家族なのだ。最近、子供が巻き込まれる事件(加害者としても、被害者としても)をみていて「ああいう親じゃなぁ・・・」なんて思ったりもすることもたまにはある。結局は”卵が先か、鶏が先か”なんだろう。
 また、この小説にはある殺人者達が登場する。崩壊した家族の絆を「修復する」目的で殺人を繰り返す。彼等は過去に(正確には彼等の息子が)いわれもない誤解を受けて苦しむのだが、その苦しみを知っている張本人である彼等が、今度はある人物を「あの人は未熟だ」と言って(その人物の努力や悩みを知らずに)誤解する場面がある。人の痛みがわかるはずの人たちが、同じ過ちを犯していることにも気付かない。自分もそういう風に人を色眼鏡で見ている可能性もあるので、気をつけねば。
 結果的に自分を変えられた人、変えられなかった人ということで明暗が分かれる結末になって いて、変えられた人たちは、周囲の努力だけでなく、自分自身の努力も必要であると気付かせてくれる。
 単に”面白い”とか”つまらない”では評価できないし、沢山の人に読んでもらいたい作品。

○担任(新津きよみ)
 臨時採用教員として小学校4年のクラスの担任をすることになった角松直子。その教室には1年前から行方不明になっている少女の机が置かれているのだが、次第に直子の目にその席に座る少女の姿が見えてくる。少女は一体何者なのか。そして1年前の失踪事件の真相は?
 とりあえずハートフルホラーものと思って購入。事件の真相は想像していたものに少々近かったが、あまり感動はできなかったかな・・・・。
 主人公は”臨時ではなく正規の教員を目指して勉強中であるが、何度も試験に落ちてしまっている。が、子供達に接する姿は他の教師以上に真剣であることがと伝わって来る。正規の教員でなくても優秀な人材はいるんだよ、と風刺している事も作者の意図なのかもしれない。

○もう君を探さない(新野剛志)
 やもすると、甘〜いトレンディー小説か?とおもうようなタイトルだが、内容はまるで違うし、読み終わって初めてこの小説にはこのタイトルしかないな、と実感する。
 女子高教師の高梨は、以前家庭教師をしていた頃の教え子で、ヤクザの幹部になった本間と交流を続けていた。高校が夏休みに入ったある日、生徒が家出をしたという連絡が入り、高梨はその生徒を見つけだそうと走り回り、本間にそのことを相談した直後、本間は何者かに殺害されてしまう。組の幹部に「でっちあげでもいいから事件の真相を白状しろ」と脅迫されて調べるうち、家出した生徒、7年前に自殺した高梨の教え子、そして様々な謎が事件に絡んできて・・・・。
 事件が終わって、高梨が森の中を徘徊するシーンがあるが、作者がこの小説で最も訴えたかったのはこの部分なんだろう。とてもさわやかに、そして感動的なしめくくりとなっているのがとても良い。

○田舎の事件(倉阪鬼一郎)
 1編の長さが20ページ前後という、超短編が13編集まった短編集で、タイトル通り全て”田舎で起こった事件”が収録されている。
 文庫本の帯の「都会の人も田舎の人も笑えます」という文句につられて購入したのはいいけれど、いざ読んでみたら全然笑えない。なにせ、普通に暮らしていた人があることがきっかけで狂気を帯び犯罪を犯す、もしくは人生を踏み外す、というのが殆ど統一された内容なのだ。こんなんじゃ全然笑えないよ。強引にオチをつけたのもあるし。唯一笑ったのは第十話の「源天狗退散」の最後のセリフくらいか。はぁ・・・・

○ネバー・ランド(恩田 陸)
 冬休み、実家に帰らずに男子校の寮に居残ることにした3人の少年と、「家にいても誰も居ないから」と毎晩寮に遊びにくる1人の少年の、計4人を中心に話は進んで行く。ひょんなことから1人の少年が自分の秘密を告白し、その夜に起こる事件。そしてそれぞれが自分の秘密を告白しはじめる。
 悲惨な生い立ちの少年もいるんだけれど、最終的には少し爽やかな感じで終わるのが、救いかもしれないし、逆に話がうますぎ?という感じも受ける。
 初日の夜(正確には2日目の朝)の事件はサスペンス風で引き込まれるが、その後の展開はごく普通に少年たちの私生活の話が重点的になるため、個人的にはもう少しサスペンス的な色を維持して欲しかったというのが大きな印象。
 状況の設定が設定だけに、ひょっとしたらボーイズラブ系の内容なのか?と思ったが、(多少そういう話は出てくるが)まぁ普通の内容ではあった。どちらにしても、あまり印象に残らなかったなぁ、というのが正直な感想。

○ドグマ・マ=グロ(梶尾真治)
 「黄泉がえり」のような雰囲気をちょっと期待したのだけれど、こちらの方がとてもホラー色が強く、かなり恐ろしいです。幽霊あり、人食い怪物あり、もう大変。
 新人看護婦の由井美果が初めての夜勤の日に事件は起こった。病院内の秘密組織が企んだ計画の影響で生まれた人食いアメーバが病院内を徘徊し、人々をむさぼり食う。この怪物を退治できるのか?また、組織の計画とは一体何なのか。
 本格ホラーではあるが、登場人物が非常に多い。主人公の他、秘密組織のメンバー、瀕死の入院患者、その付き人、入院中の老婆達、警備員、よからぬことを企んで病院に忍び込んだ若者、忘れ物を取りに来た看護婦、戦時中に人体実験されそうになり、命からがら逃げ出して病院内に住み着いている米兵、そしてその米兵に殺された軍医の幽霊。これだけ多いのに、しっかり登場人物が描かれているのがすごい。
 また、気色悪い(ホラーだからね)だけでなく、後半には笑いあり、ちょっとした感動ありでそれなりに楽しめた。でも、こういう怪物ホラー系が好きな人にはいいけど、そうでない人には断然「黄泉がえり」の方がお勧めだろう。

○複製症候群(西澤保彦)
 西澤氏の作品は”当たり外れ”があると、どこかのサイトに書いてあった。う〜ん、確かにそうかもしれない。
 地球上にいくつか出現した、虹色に輝く巨大な円筒形の光の壁。その壁に触れると、触れた者のコピーが作られてしまう。突然現れたその物体の中に取り残された高校生達たちの身に起きる連続殺人。はたしてこの壁の中から出ることができるのか?
 この話はムチャクチャですな(笑)。人間が複製されちゃうっていうのも現実味がないし、登場人物は殆どみんな殺されちゃうし。
 小説内のニュース番組でも話題になっているくらい世界的に問題(?)になっている現象なんだけど、複製された人は素っ裸=衣服は複製されないのなら、全身を何かで覆えば(たとえば宇宙服とか)壁に触れないんだから外に出られるぢゃん?と思ってしまった。(笑)

○慟哭(貫井徳郎)
 下で紹介した貫井氏のデビュー作。ご本人曰く「自分の小説は慟哭から読んで欲しい」そうだが、自分は下の「転生」を初めに読んでしまった。ごめんなさい。
 東京で幼女誘拐事件が起こり、死体が発見される。怪しい人物、車などの目撃情報が寄せられるが、全く捜査は進展しない。そしてまた幼女が誘拐されてしまう。また東京のある場所では”心に穴の空いた”男が、その穴を埋めるために新興宗教にどんどんはまっていく。その行き着く先は・・・・・・。
 文庫本の帯に「最後にびっくり!」みたいなことが書かれていたせいもあって、3分の1くらい読んだ所で誘拐事件と宗教の話がどう関係してくるのかがわかってしまったし、その想像は正しかった。至る所に布石があったから、途中で気付いく人も結構おられるのではなかろうか。
 誘拐事件の捜査と、宗教の話は短い間隔で交互に出てくるので、飽きることなく読み進めることができると思う。
 自分がこの小説のトリック(犯人当てという意味ではなく、作家が読者に宛てたもの)を早々に見破ってしまったせいか、話自体が自分の守備範囲と微妙にズレていたせいか、自分はこれよりも下の「転生」の方が好きだなぁ。

○転生(貫井徳郎)
 裏表紙のストーリー紹介を読んだ時、「東野圭吾氏のパラレルワールド・ラブストーリーと化身を足して2で割ったような感じか?」と思った。
 大学生の和泉は、心臓を患い、移植手術を受けないとあと数年の命と宣告されていた。ある日ドナーが見つかり手術を受けた和泉は、食べ物のし好が変わったり、恵梨子という見知らぬ女性の夢を見るようになる。これは心臓の記憶なのか?アメリカの事例からその女性がドナーであると考えた和泉は、禁止されているドナーの家族と接触しようと試みる。果たしてドナーは恵梨子なのか?それとも・・・・・。
 いやぁ、とても面白い本だった。臓器移植というのは賛否両論、色々な考え方がある。また、それだけでなく、臓器をどのレシピエント(臓器を移植される人)に移植するか、の選定方法の問題についても自然に折り込まれているので、現在の移植の問題について奥深く、それでいて自然に考えさせられる。
 移植された臓器がドナーの記憶を持っていた、というのは小説内でも触れられているように実際に起こっていることのようだけど、もし自分が臓器を移植されたとして、その臓器に記憶が残っていたらどう感じるだろう?この主人公にプラス方向に変わればいいことかもしれないけど、もしめちゃくちゃ性格の悪い奴の臓器だったら嫌かも・・・・。(^^;
 ミステリアスなストーリーにはついつい引き込まれるし、ラストもハッピーエンドを臭わせて後味もすっきりする作品なので安心して読めると思う。

○涙 上・下(乃南アサ)
 東京オリンピックの年、刑事の奥田勝と結婚を予定していた陶子。しかし、結婚式を目の前にして、奥田は陶子に「もう会えない。自分のことは忘れてくれ」と電話をして行方不明になってしまう。それからほどなくして、奥田とペアを組んでいた韮山刑事の娘の他殺体が発見される。その遺体のそばには奥田の定期券が落ちていた。果たして奥田が犯人なのか?奥田を探して全国を旅する陶子が旅の果てにたどり着いた嵐の石垣島で打ち明けられた悲しい真実とは!?
 あとがきを書いたのはあのおすぎさん。「涙で本を読み進めるのが大変だった」って書いてあったけど、自分はそんなことはなかったかな。もちろん悲しい話だけれど、どちらかといえば”やりきれない話”という感じがする。
 それよりもこの作品で感心したのは、ある事が起こった時、”その当事者の気持ちが分かるのはその本人だけ”ということがとても上手に書かれている。例えば、婚約者の行方が分からなくなった陶子に対しては、周りの人間は「気持ちは分かるが、早く忘れて新しくやりなおせ」と言っても、陶子にしてみれば「奥田が失踪した理由もわからない、こんな中途半端な形のまま忘れることなんてできるはずない」と反発するし、過去に数えきれないほど”肉親を失った者の悲しみ”を見て、残された者の悲しみを理解しているつもりだった韮山刑事も、実際に娘が殺されて初めてその怒りと悲しみを実感した、という具合。
 乃南氏の作品は本書を含めて3冊程読んだが、これが一番良く出来ていると思うし、一番好きな作品である。

○黄泉がえり(梶尾真治)
 映画が感動的だということで、原作が気になって読んでみた。うん、確かにいい小説だった。
 ある日突然、熊本市とその付近で死んだ人達が蘇るという現象が発生。これは、エネルギーを求めて宇宙をさまよっているエネルギー体が熊本の地下にたどりついたために起こった現象だった。そのエネルギー体が大きな地震を予知し、そのまま居れば自身が崩壊してしまうため、その地震のまえに熊本(地球)を去らなければいけない。どちらにしてもその時には黄泉がえった人も消えてしまう。Xデーはだんだん近付いて来て・・・・。
 ちょっと都合が良いような話の流れもあるけど、この小説に関しては全然気にならない。それよりも黄泉がえった人を迎え入れた人々の喜び、戸惑い、そして別れを迎える人々の悲しみがひしひしと伝わって感動する。
 背表紙に「泣けるリアルホラー」って書いてあったけど、全然ホラーという感じはせず、逆にヒューマンドラマという感じがした。久々にいい小説に逢ったかな。

○Jの神話(乾 くるみ)
 前に読んだ「怪文書殺人事件」が心理攻撃で難しかった(疲れた)ので、あまり頭を使わず楽に読める推理小説はないかと思って手にしたのがこれ。なにせ全寮制の女子高の話だしね。
 しかし、この期待は裏切られることになった。まず推理小説と思って買ったし、途中までそのつもりで非常に面白かったのだが、4分の3を過ぎたあらりから怪奇的なムードが漂ってきて、自分の描いている推理小説の定義とは全く別の方向に行ってしまった。(だから「その他の小説」の方に入れてみた)もう1つは女子高の話だから頭を使わないと思ったら全く逆で、この小説には”発生学”の話が出てくる。この”発生学”は東野氏の「分身」にもでてきたが、こちらの方が(その必然性もあって)深く掘り下げた話になっており、結構難しかった。
 全寮制の女子高に起こった2つの事件。1つは屋上からの飛び下り自殺、もう1つは生徒会長の胎児無き流産ともいえる失血死。この2つの事件は”ジャック”という言葉で繋がっていた。また、生徒会長の父兄から事件の調査を依頼された鈴堂美音子は生徒会長の姉も同じように死亡ていたと知らされる。
 まぁ結果的にはちょっと救いがないような感じがするので、そういう意味ではあまり好きな作品ではなくけど、発想がユニークというか、奇抜というか、そういう意味では結構面白い。ただ、電車の中で読むにはヤバい部分があるので要注意・・・・・。(笑)

○シェエラザード 上・下(浅田次郎)
 この本でまず興味を惹かれたのはタイトル。「シェエラザード」というと、リムスキー=コルサコフの有名な管弦楽組曲を思い出す。何か関係があるのかと思い裏表紙のストーリーの紹介を見てみた。どうやら船の沈没の話らしい。「船の沈没の話?ってことは「タイタニック」みたいなもん?」と、まずは思った。でも実際に読んでみるとかなり違った、かな。
 謎の中国人、宋英明と名乗る老人から、大戦中に沈んだ弥勒丸を引き上げて欲しいと依頼された町金融の業者の軽部。彌勒丸は豪華客船として製造されたにもかかわらず、赤十字の病院船として徴用される。条約で安全が保証されていた弥勒丸が攻撃を受け沈んでしまったのはなぜか?その謎を昔の恋人を巻き込みながら調べていくうちに、彌勒丸に起こった悲劇が明らかになってくる。
 弥勒丸を調べる現代と当時の乗組員の様子が交互に描かれている。調査して真実が次第に明らかになって行く場面と、沈没のXデーに向かって時間が流れて行く緊張感が重なって効果的。
 小説の中ではリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」の美しい調べが出てくる。これは話の中に第2楽章「若い王子と王女」のようなラブロマンスもでてくるし、終楽章の船の難破も当然暗示しているので、そういう2重の意味で本のタイトルになったのだろう。
 読み終えてまず思ったのは「これ、映像化されないかなぁ」であった。兵士を主役にした映画は沢山あるけど、このように違う視点から捉えた戦争の悲劇を訴える映画があってもいいのではないだろうか。

○分身(東野圭吾)
 北海道に住む氏家鞠子は、両親に全く似ておらず、そのせいで母親から避けられていると思い悩んでいたが、中学の時に自宅が火事になり、母だけが逃げ遅れてしまう。ひょっとしたら事故ではなく母は無理心中をしようとしたのではないか?大学生になった鞠子は、自殺の原因を調べようとするうちに、自分と瓜二つの女性の存在を知って・・・・・。
 父親のいない小林双葉は、東京でアマチュアバンドのボーカルをしていた。漠然と将来のことを考えていた時に、バンド仲間からテレビ出演の話をもちかけられ母親に相談したが、「ダメ!」の一点張りで仕方なく内緒で出演する。それから数日後、母親が何者かにひき逃げされてしまう。自分がテレビに出演したのが原因なのか?全く似ていない母と自分。出生の秘密を調べ始めた双葉は、自分と瓜二つの女性の存在を知って・・・・。
 小説は鞠子の視点と双葉の視点が交互に書かれていて、テレビドラマにしたらすごく面白そう。二役をする女優さんはちょっと大変かもしれないが・・・・。(^^;
 最も感動するシーンは、鞠子の父親が鞠子に宛てて書いた手紙の、火事の真相の部分かな。ラストシーンはもう少しひねりが欲しかったような気もするけど、ああいうあっさりな終わり方も変な余韻が残らなくて良いかもしれない。

○誘拐者(折原一)
 いやあ、これはすごくエグい小説だった。なにせ殺される人の数がえらい多いのだ。しかも内容の割に話が長く、読み進むうちに少々疲れてしまった。
 ストーリーは・・・。う〜ん、紹介が難しい。簡単に言うと、ある夫婦の子供が誘拐され、半狂乱になった母親が家を出てしまう。それから少しして子供は帰ってくるが、母親は帰らず・・・。という話。ただ、物語はそれから20年後の追う女と追われる男という感じで進行し、誘拐云々というのは過去の回想的に登場する。
 面白いとかつまらないとか、そういう感想は持たなかったのだが、個人情報が漏れるというのはとても恐ろしいことだと感じた作品。そういう意味で、カメラマン(小説に登場する、個人情報を漏らした人)に良識があれば、この小説は成り立たないんだろうね。(笑)

○理由(宮部みゆき)
 これは奥深い。基本的にドキュメンタリー(インタビュー含む)の形式を取っているいるので、小説と思って読むと「あれ?」と思ってしまうだろうが、事前にそうと知っていれば特に違和感なく読むことができると思う。
 とある超高層高級分譲マンションで起こった一家4人殺し。殺されたのは誰で、殺したのは誰か?その事件が解決してから、隠された謎を究明したり誤解を解く、いわゆる”真実を明らかにする”ためにルポライター(かな?)が関係者から詳しく話を聞く、というような内容。
 読んでまず「事実と真実は違う」ということをしっかり書き込まれている小説の良い見本だな、と思った。例えば事件の起こったマンションの持ち主の妻は、主人の姉からは「派手で贅沢。あの女が浪費するからマンションが競売にかけられたんだ」と言われるが、「一度も”マンションの支払いがきびしい”と言わなかった主人が悪い」と妻は言う。個人的には義姉の言い分が正しいと思うけれど、妻の言い分も一理あると思う。このように、1つの”事件”も、それを見る人が変われば考え方が全く違う。それは当たり前なのだが、今の新聞や週刊誌は果たして1つの事件を多方面からみているのだろうか?そういう不安を感じさせた小説でもある。

○パラレルワールド・ラブストーリー(東野圭吾)
 個人の色々なサイト等で評判が良かったので読んでみたのだが、正直言ってそれほど感動しなかったかな?いや、もちろんとても良かったんだけど、読む前に植え付けられた知識のせいで、期待が膨らみ過ぎていたのかも。
 恋人と同棲している主人公は、今の現状と食い違った光景を思い出すようになる。今一緒に暮らしているのは昔から愛し合っていた女性のはずなのに、時折垣間見える(思い出す?)光景では親友の恋人として登場するのだ。今の記憶が作られたものなのか?それとも思い出す光景が作り物なのか?調べていくうちに、ある失踪事件に関ってきて・・・・・。
 主人公らが働いている会社では「記憶の改ざん」の研究が進められている、という設定なので、結末は容易に予想できるだろう。だが、この小説ではそういうSFチックな話しよりも「愛の形」について問題定義しているのだ。愛は奪うものか、その人の幸せを願って身を引くものなのか。登場人物の行動に現れている通り人それぞれで考え方も違うし、同じ人でも状況によって変わるかもしれない。
 主人公の親友の選んだ道は感動的なので、読んで損はないだろう。

○迷宮(清水義範)
 どうやら自分は漢字2文字の熟語が好きなようである。考えてみると、みゆきさん(宮部さんではなく中島さん)の歌も結構多い。しょっぱなから話しがズレてしまったが、この本をが目に止まったのはまずはそういう理由からだと思う。
 ある日、記憶喪失の青年の所に”治療師”が現れる。彼は”治療”と称して青年にある犯罪の記録を読ませる。それは犯罪記録であったり、週刊誌の報道であったり、その犯罪の興味を持ったとある作家の手記であったり、犯人や被害者の周囲の人物の証言であったりする。なぜ青年にそれらを読ませるのか、治療師は本当は何者なのか、青年の記憶は戻るのか?
 このような設定が面白かったので買って読んでみたのだが、感想としては「なんかイマイチぱっとしないなぁ」だった。このオチなら作家の手記を青年に読ませる意味がわからない。折角面白い設定なんだから、もう少しひねればもっと面白くなっただろうに。
 ただ、週刊誌の記事と、実際の周囲の人物の証言の食い違いの書き方は見事だし、現実でもそういうふうに食い違いは起こっているのかもしれない。

○白夜行(東野圭吾)
 この本を読んでいて一番困ったのは、その本の厚さである。なにせ800ページ以上あるのだ。普段、昼食に行く時は本をスーツのポケットに入れるのだが、この本はその厚さのせいで不可。ちょっとやっかいだった。また、その長さのせいか、東野センセの小説にしては珍しく3分の1程読み進んだ所で少々食傷ぎみになってしまった。(でも面白かったけど)
 内容は別々に生きている2人の男女が、小学生の時から30才(かな?)になるまでの19年間の物語なのだが、視点はその周りにいる人物からのものであり、その主人公と言える2人の視点で描かれている部分は一瞬も存在しない。2人が小学生の時から話が始まり、中学、高校、大学など、それぞれの年代での印象的な事−例えばオイルショックの時のトイレットペーパー買い占めや、インベーダーゲームのヒットなど−を交えながら、彼等の周囲で起こる事件を映していくので、自分の年代の者にとっては懐かしささえ感じられるし、現実味がある。(ただ1つ、内容に「現実的でないかも?」と思ったことがある。それは”庭の土を使ってサボテンを鉢植えにした”という部分。普通、庭の土質がサボテンに合うかわからないので、サボテン用の土を園芸店から購入して使うような気がするのだ。まぁ、この指摘は重箱の隅的(ガーデナーならでは?)だし、その時代を考えるとサボテンの用土なんて今程簡単に手に入らないのかな、という気もする。どちらにしても、この小説の本質とは関係のない話である)
 小説ではこの2人が一緒にいる場面も出て来ないに等しいが、読んですぐに「何か、どこかで接点があるに違いない」と読者に”わざと”分からせるように書いてあるのがニクイ。
 タイトルの「白夜行」は、小説の中程で主人公の男の方が「俺は白夜を生きている」と言うシーンがある。が、その時点では意味不明。その意味は物語りの最後の方で、主人公の女性によって語られる。なるほど、だから”白夜”なのか、
 この物語は1人の(元)刑事の執念を描いたもののようにも見える。そういう意味では、ラストシーンではなんとなく宮部みゆきセンセの「火車」を思い浮かべたし、別の見方をすれば、1度も一緒にいるシーンのない男女の、純愛の物語りとも取れるのではないだろうか。

○クロスファイア 上・下(宮部みゆき)
 主人公の青木淳子は、短編(というか中編)小説集の「鳩笛草」に収められている「燔祭」にまず登場する。物語り自体は燔祭とは別のものだけれど、クロスファイアで”過去の事件”として燔祭の話が頻繁に出てくるし、同じ登場人物も出て来る。そのため、クロスファイアを読む前に、まず燔祭を読む事を強くお勧めする。
 上巻ではかなり残酷な大量虐殺のシーンがあり、そういうのが苦手な人にはちょっと読むのがしんどいかもしれない。しかし、そのシーンがあってこそ下巻での主人公の心の変化を表現できるんだろうな。
 私刑を題材としているのもでは「スナーク狩り」を通ずるものがあるが、内容的には違うものだし、それとくらべてテンポが少しゆっくりめ。他に共通する点は悲劇的な結末、というところだろうか。
 宮部女子の映画化された作品では「模倣犯」がもっとも新しいけれど、その前身となった作品のような気がする。この「クロスファイア」も是非見てみたい。

○眠れぬ夜を抱いて(野沢尚)
 野沢氏の小説はよくテレビドラマ化されているようで、本書は最新のものであるから、御存知の方も多いかもしれない。ドラマは興味あったけれど結局見ずじまい。本書を買った理由はドラマに興味があったというのもあるけれど、他の人の感想をネットで見たら「面白かった」というのが多かったから。
 物語りはマイアミで起こった銀行強盗事件から始まる。と思ったら、急に10年後の日本、新興住宅地に引越して来た3組の家族に話は飛ぶ。そして起こる失踪事件。誰かに拉致されたのか、それとも自主的な失踪か?10年前のマイアミでの銀行強盗に話しは繋がって行く。
 感想を簡単に言うと「まあ、確かに面白かったんだけどねぇ・・・・・」という感じか。小説の語り手(ある意味その場面での主人公)が合計4人くらいの現れるのがちょっとツライ。この小説はできたら1人の語り手だけて統一した方がもっとスリリングになったような気がする。ただ、逆に言うと語り手が多いとテレビドラマ化しやすいのかも、とも思った。
 あと終わり方にもう一工夫欲しかった。ちょっと都合がいいような印象を受けたのが残念。

○逆襲(東直己)
 「ハードボイルドの短編集」と解説されていて、ハードボイルドの短編というのは初めてだったので、興味を持ち購入。
 しかし、正直言ってあまり面白くなかった・・・・。ほとんどの小説の終わり方がブラックなので、読後に楽しい気分になれなかった。短編なのだから、そういうのも1作品くらいは取り入れて欲しかった。
 また、全体を通して、著者が読者に対して何を言いたかったのかも理解できなかった。この短編の作品を1つ読み終える度に、自分の頭の中はクエスチョンマークで一杯になった、という印象。具体的に言葉にできない感情、感動、喜びや悲しみなであっても、何か心に残るものがあれば「いい小説だった」と思えるんだけど・・・・。
 ただ、短編集のタイトルになっている「逆襲」は、まあまあだと思う。が、もう少し書き込める所(例えば、登場人物の心情や行動など)は書き込んで中編くらいにしたらもう少し面白くなったろうなぁ。
 自分の観点からすると全然ハードボイルドではないので、出版社に騙された感じがする。

○人間消失(姉小路祐)
 姉小路氏の小説を読んだのは、この作品が初めてである。感想としては宮部みゆきさんの作品になんとなく似てるかな?思った。宮部女史の「火車」を彷佛とさせる作品だったからかもしれない。
 ”何でも屋”を営む大淀鉄平のもとに、ある日依頼人が訪れる。正体不明の人物に脅迫されているので、取り引きの時に自分を尾行して欲しい、というのが依頼内容だった。その通りに尾行を行うが、依頼人が大阪城の中で消えてしまう。これが第1の消失。また、別の所では戸籍操作をして、ある人間(依頼人)を全く別の人間にしてしまう話しが進んで行く。これが第2の消失。この2つの消失が交わって・・・・。
 話しには無駄が無いせいかスピード感があり、読み易かった。また、追う側と追われる側の心理描写も良い。結末は悲劇的ではあるが、一番自然な終わり方だろう。
 姉小路氏の他の作品も読んでみたくなった。

○蒲生邸事件(宮部みゆき)
 う〜ん、宮部みゆき2連発・・・・・。(^^;
 予備校受験のため東京を訪れた尾崎孝史は、謎の男平田に命を助けられる。が、つれて行かれた先は昭和11年、二・二六事件の真っ最中の、半蔵門にある蒲生邸だった。
 その朝、蒲生伯爵が自決するのだが、その場所から拳銃が紛失してしまう。これは本当に自決なのか?それとも・・・・・?
 実はこの本、二・二六事件を扱っているということで、最初は敬遠していたのだけれど、何を血迷ったか購入してしまった。しかし、血迷って良かった。(^^;
 過去にタイムトリップというと、パラレルワールドというか、歴史が変わってしまうと考えられがちだ。この小説にも当然その話が出てくる。しかし、歴史が大きく変わるのではなく、細部が変わるだけ、という説。例えば、この小説で例として語られるものでは、昭和60年の日航のジャンボ機墜落事故。平田はタイムトリップしてその事故を食い止めたのに、その二日後に他の飛行機が墜落してしまった。墜落する飛行機は変えられるが、飛行機が墜落するという出来事は変えられない、ということなのだ。
 主人公は未来から来た人物だから、二・二六事件の結末も、これから起こる戦争の事も知っている。しかし、街を歩く人々に「これから恐ろしい戦争が来るんだぞ!死ぬかもしれないんだ」って叫んでも耳を貸す人はいないだろうし、仮に居たとしても”戦争が起こり、日本が負けるという事実”は変えられないのだ。そういう主人公の無力感と悲しみがひしひしと伝わってくる。また、主人公は現代に戻ってきてからも蒲生邸での日々を思い返す。それは、僕らが過去の出来事を懐かしく思い返すのとスケールが違うだけで、心情としては同じなのかもしれない。そういう描写がしっかり書けていて、読んだ後に違和感が残らず良かった。
 ぶ厚いけれど、お薦めです。

○龍は眠る(宮部みゆき)
 以前から読むかどうか迷っていて、最近決意して(オーバーだが)買った本。
 雑誌記者の高坂昭吾は、嵐の晩に高校生の稲村慎司と出会う。彼は、高坂の過去を言い当てたサイキックだった。
 それから数日後、織田直也という青年から、過去を言い当てたのはトリックだったと聞かされる。どちらを信ずるか悩む高坂だが、高坂に送られる脅迫状の正体を探るうち、彼等を巻き込むことになって・・・・・・。
 「スナーク狩り」や「レベル7」に比べるとちょっとだけ物足りないように感じるけれど、それでもかなり読みごたえがあるし、どんどん物語に引っ張り込まれる。
 もしこのようなサイキックがこの世に実在するなら、本当に生活しづらいんだろうなぁ。人の心には楽しみや喜びだけでなく、怒りや憎しみ、悲しみだってある。そういう感情を読んでしまったら、自分だってたまらない。

○ブルース(花村萬月)
 久し振りにハードボイルドでも、と思って買ったのがこれ。
 3分の1ほど読んで、正直もう先を読み進むのが嫌になってしまった。なにせ暴力シーンや殺人のシーンが多く、読んでいて気分が悪くなる。今まで読んでいたハードボイルドなんて、お遊びとしか思えないくらいだ。
 日雇い労働者の村上と、彼に好意を持つゲイでヤクザの徳山、ブルースシンガーの綾を中心に話が進んで行く。
 結末は想像した通りハッピーエンドではないし、読んでも何も残らない。ただ、物語りの最後の方に村上と徳山の決闘シーンがあり、徳山がわざと日本刀を折るのだが、それはその終幕を予想して折ったのかもしれないと思うと、少し胸が痛くなる。
 あまりオススメはできないかな・・・?

○秘密(東野圭吾)
 少し前に、広末涼子さん主演で映画化された作品。
 この東野圭吾という作家は、とにかく色々なジャンルの作品を書いている。本格推理もあれば、犯人探しとは違った推理もあり、そしてこの小説のようにサスペンス系ではない小説もあり、多才な作家だとつくづく感心する。とにかく設定が変わっていて、よくこういうアイデアが浮かぶものだと思う。
 杉田平介は、夜勤明けの自宅で見たテレビのニュースで、妻と娘が乗ったスキーバスが転落事故を起こした事を知る。
 妻は平介が病因に駆け付けるとすぐに亡くなり、娘だけが意識を取り戻す。が、目覚めたのは妻の直子であった。身体は娘の藻奈美であるのに、精神は妻の直子。直子は藻奈美として学校に行き、成長していくが、そんな生活にも終わりが近付いて・・・。
 この小説の設定に関して言えばありがちとも思えるが、もし本当にこのようなことが起こったとしたら、実際こんなふうになるのかもしれないな、と思えるほど自然に話は進んで行くし、また、杉田家についての描写だけでなく、なぜスキーバスの運転手は事故を起こしたのかを解明するなど、サスペンス的な要素も含まれていて、かなり面白い。
 涙もろい方は、人前では読まない方が良いでしょう。僕も苦労しました。基本的に泣かない性質なんですが。(笑)
 とにかくおすすめの1冊です。

○THE GODS of WINDS・零のかなたへ(今井雅之)
 作者の今井氏は、御存知の通り俳優である。
 最初は舞台用に書かれ、外国でも上演されたそうで、数年前に映画化もされた(はず)。
 物語りは、2人組の売れない漫才氏が、自転車に2人乗りしている時に事故に遭ってしまう。その2人が意識を取り戻したのは、第2次世界大戦の真っただ中、しかも実在する特攻隊員と入れ代わって、という話し。
 過去に飛ばされてしまった2人が、仲間がどんどん特攻して行く中、なんとかして現代に戻ろうとする意識と、特攻隊員としての人生に身を委ねようとする意識の葛藤は、正直言って泣けます。特に、金太(漫才氏の片われ)が特攻を志願した理由を語る場面は、(短い描写だけど)今思い出してもうるうるしてきます。
 小説的にも短いので簡単に読めるし、おススメ度はかなり高いです!

○近未来パニック・ケースD(糸川英夫/未来捜査局)
 この小説は、古本屋で文庫版を偶然みつけて購入。実は高校生の時、学校の図書室で読んでいたのだが、読破せずに卒業してしまったという、因縁(?)の本なのだ。当時はタイトルが少し違っていて、「見えない洪水・ケースD」だったと思う(単行本版)。
 舞台は1999年夏。内容はかなり難しい。オイルショックやら国連やらOPECなど、果ては実在の人物の名前まで出てくるのだ。マジ難しかった。(苦笑)
 では、なぜそんなに難しい本をアホな高校生の時(今でもアホだけど)に読んだのか。それは、主人公である大和佐満人が、幼少の時に死んだ父親の死の真相を探るという、いわゆる推理小説だと思ったからである。
 しかし、その真相は「○○という薬を飲まされたようだ」とか「○○という集団に殺されたに違いない」という曖昧なもので、推理小説とは違うと思ったので「その他」の方に載せた次第であります。
 ただ、「ノストラダムスの大予言」に出てくる”恐怖の大王”を、このようなパニックという形で表しているのは面白かった。

○ハルモニア(篠田節子)
 ジャンル分けすると、”音楽ホラー小説”らしい。「ホラーは苦手なんだけど、ま、いいか」と思って買ってしまったのだが、実際に読んでみるとホラーとは程遠い内容だ。確かに人が触れていないのにガラスが割れる、物が飛ぶ、などの超常現象は登場するが、ホラーというには軽いし、基本的にこの小説は娯楽ではないのだ。
 ストーリーは、脳に受けた傷のために言葉と、そして人間の感情を失った由希と、彼女にチェロを教える事になったプロのチェロ奏者、東野。由希はどんどん上達し、技術的には東野をはるかに超えることになったが、彼女の奏でる音楽はあるチェロ奏者の、寸分違わぬコピーだった。由希に自分の音楽を演奏させようと東野は試みるのだが・・・・。
 この本は、色々な意味で勉強になった。内容が内容だけに、音楽については勿論のこと、人間の人格、個性についてもさらっと、それでいて深く考えさせられる作品だ。
 結果をハッピーエンドと考えるか、そうでないと感じるかは人それぞれかもしれないが、奥深い作品である。

○天国までの百マイル(浅田次郎)
 この著者は「鉄道員(ぽっぽや)」の作者であるので、知らない人はいないだろう。
 氏の本も以前から読みたいと思っていて、でも「鉄道員」は有名になり過ぎたし、と思って手にしたのがこれ。
 経営していた会社が倒産し、兄弟にも見放され妻子にも出て行かれた男性が、心臓病を患った母を百マイル(160キロ)離れた病院に連れていき、手術を受けさせようとする。
 読み終えたあとの感想は、とにかく「すっごくいい小説だった」である。人を好きになるって色々な形があると思うけど、登場する「マリ」のように、「傷ついてあたしの所に来た男達は、良くなるとみんなあたしから離れていったけど、好きな人が幸せになったんだから、あたしも幸せ」って言えたらどんなにいいだろう。

○美人女優と前科7犯(佐々淳行)
 この著者の本は、前々から1度は読んでみたいと思っていた(賢明な皆さんなら、理由はお分かりでしょう。(^^;)。古本屋で見つけて、早速購入。
 内容は著者が目黒署捜査係(内勤)勤務の時代に、実際に遭遇した事件について書かれているエッセイ風のもので、小説ではない。
 この著者の本は”難しい”という先入観があったが、この本はまったくそんなことはなく、文章もサラッとしていて非常に読みやすく、それでいてホロリとさせられる場面もある。また、自身の良い点、悪い点なども正直に(客観的に?)書かれているのが好感が持てる。
 著者には捜査係以前に派出所(外勤)時代があり、それについても本を出版しているので、そちらの方も読んでみたいものだ。
 余談ではあるが、佐々氏も美人には弱いらしい・・・・・。(笑)

○北の狩人(上・下)(大沢在昌)
 秋田から東京に出てきた梶雪人。12年前に潰れた暴力団について調べる彼の目的は、13年前に殺人犯を新宿署から秋田に護送する際に、何者かに殺された刑事の父親の、死の真相を調べるためだった。新宿の暴力団だけとおもいきや、中国マフィアや台湾の組織がからんできて・・・・・。
 内容が内容だけに、以前紹介した「走らなあかん・・・」とは比較できないくらいの量の血が流れるが、終わり方がとてもよい。また、登場人物の心理が、台詞から伺うことができるので、映像化しやすいと思う。もし映画化されたら観に行きたいと思う作品だ。
 東京に出てきて知り合った、キャッチバーのエサの少女との恋物語というサイドストーリーもあり、思わず「こんチクショー、うらやましいぞ、コノヤロー!」と言いたくなる。

○スナーク狩り(宮部みゆき)
 最近、彼女の小説を結構読む。その中で(現時点では)一番最近読んだもので、おすすめの作品。
 銃を盗んで金沢まで向かうオッサン、それを追うことになったオッサンの知り合いの若者と、初対面なのに一緒に追うことになった女性、また、銃を盗まれた女性と、全く関係が無いのに事件に巻き込まれた家族が中心になって話しは進む。
 悲劇的な結末ではあるが、ホッとする内容もあって、結構感動ものでもある。
 宮部女史の小説は、事件が起ってさあ犯人は誰?という推理小説よりも、これからこの事件がどういう風に発展していくのだろう?というようなサスペンス小説の方が多く、つい引き込まれてしまう。

○いとしのリリー(栗本薫)
 栗本薫の小説は暫く読んでなかったのだが、たまたま古本屋で見つけて購入。
 もともとこれはミュージカルのために書き下ろした作品で、当時は小説化の予定はなかったらしい。ミュージカルという舞台を意識したせいか、登場人物は非常に少ない。
 二重人格の青年ジョー(もう1つの人格は女性=リリー)と、リリーを愛してしまった青年ケンのラブストーリーで、ケンの視点で物語は進む。
 突然ケンの前に現われたジョーの婚約者のぞみ。彼女の出現でケンとリリーの嘘の生活にも終わりを迎えることになる。その別れのシーンは哀しく感動的。
 あとがきで述べられているが、栗本薫自身、5〜6の人格をもつ本格的な多重人格者だそうで、そのせいか二重人格(もしくは多重人格)になる原因がしっかり説明されていて、興味深い。

○走らなあかん、夜明けまで(大沢在昌)
 タイトルからも分かるとおり、大阪を舞台にしている小説。
 以前、大阪に出張や遊びに行った時に通った地名が沢山出てきて、懐かしく感じられた。
 著者の名前を聞いてすぐに思い出す方もいらっしゃると思うが、「新宿鮫」の作者だと言えばお分かりの方も多いのではないだろうか。その作者ゆえにこの本もハードボイルドの内容になっていて、喧嘩や脅しのシーンは出てくるけど、想像したよりはずっとソフトな内容である。
 ストーリーは、東京から大阪に出張に行ったサラリーマンが、ちょっとしたことから企業秘密の入ったカバンを間違いで持ち去られ、それを追ったがためにヤクザ同士のイザコザに巻き込まれてしまう、というもの。
 この小説の中で、1人のヤクザが「この世の中、力の強いもんが勝つんや。カタギはやくざに暴力反対なんてゆうとるけど、会社だって同じや。強い会社が勝つんやで」と言うシーンと、カタギだけどやくざの中では有名な人が「世の中力や、なんて言うのは嘘や。大切なのはいつも自分が胸を張って生きてるかどうかや」と言うシーンが出てくる。僕はどちらの考えも正しいと思った。

○羊をめぐる冒険(上・下)(村上春樹)
 ある生命保険会社の広告に起用した牧場の写真。その中に、背中に星形の斑紋のある羊が写っていたことから主人公(その写真を起用した張本人)が、その羊を探す旅に出る事になる。たどり着いた北海道の牧場で明かされた事実とは?終わり方は結構感動的。
 村上春樹の文章は、特に物の表現の仕方に非常に個性(クセ)がある。それを嫌う人もいるだろうが、自分は結構好きである。
 この「羊をめぐる冒険」の他に、同じ登場人物を登場させて書いた小説もあるので、時代事に順番に読んで行くのも面白いだろう。

○キャバレー(栗本薫)
 もう10年以上前に映画化(邦画)された作品。確か、野村宏信のデビュー映画だったような・・・・?(^^;;
 場末のキャバレーでサックスを吹く主人公をとりまく人間模様。ホステス、バンド仲間、ヤクザとの生活を通じて成長する主人公の姿が描かれている。こちらも感動作品。
 自分はこの小説がとても好きで、何度か読み返したほど。映画は見なかったけれど、シナリオを読んだら・・・・。(--# (←この表情で分かってね)



ホームに(て)