夜会の紹介

「夜会」Vol.11「ウィンター・ガーデン」
2年振りの「夜会」。
今回は下で紹介しているよりも暗転が多く、全部で7〜8回あったでしょうか。それぞれが「短篇」のようで、まさに「反篇集」とひっかけているような感じ。でも、どれか1つが抜けてもちゃんとしたストーリーにならないような内容でした。
まず、印象に残ったことから。
第2幕の始めに、「犬」が「雪の粒はひと〜つ、雪の粒を数えて、ひと〜つ、ひと〜つ、みんなひと〜つ。だから雪の降る音はどこまでも寂しい・・・・」というシーンで、「ひとつ」と犬の鳴声を重ね合せて思わずほくそ笑んでしまいました。
また、谷山浩子さんの演技を見るのも始めてだったけど、すごく上手かったです。最後に「女」が泣くシーンでは、本当に涙を流していたそうです。(ご本人のHPの日記より)
しかし、今回の「夜会Vol.11」を見て最初に思ったのは、「みゆきさん、今回は楽してるな〜」でした(笑)。だって、衣装も2種類(犬の格好と、白いワンピース姿)しかなかったし、曲数も今までに比べて少なかった。しかも、谷山浩子さんだけが歌う歌もあったりして。
でも、一番人気の高かった「記憶」という歌では、みゆきさんの声に浩子さんの声がかき消されてました(笑)。改めてみゆきさんの声量の多さに驚きました。
あと、舞台装置(転換)も今までに比べて非常にシンプルだった感じでした。でも新生「夜会」なので、最初からそんなに凝った演出をしたらこれからが大変と思うので、丁度良いのかも。(笑)

第1幕

水琴窟(Instrmental)
騙(かた)りの庭
凍原楼閣(とうげんろうかく)(Instrmental)
朱色の花を抱きしめて
朱(あけ)を奪う紫
陽紡(ひつむ)ぎ唄
疑えばきりがない

ポタッ・・・・、ポタッ・・・・・、と雫が落ちる音が、開演前から聞こえる。少しずつ、少しずつ音が大きくなって、幕が開く。
白いフローリングの床、ガラス張りの大きな窓の、まるで温室のような平屋の大きな家。
そこは北海道。「女」が都会から逃れて、そして愛人と一緒に暮らすために買った家だった。周りは見渡す限りの草原(本当は湿原)。
自分の夢に一歩近づいた「女」はつぶやく。
「いないんです。私はどこにもいないんです。あの町にも、あの窓口にも。私は目立たない女でしたから、いてもいなくてもどうでもいい女でしたから。この町にも、この家にも、私はいないんです。いない私を探して捕まえることなんてできないんです・・・・」
家の外には大きな「槲」の樹が一本。新しく引っ越してきた「女」の運命を暗示するようにつぶやく。
「ここには新しいものしかない。樹も草も獣も、古くなるまでここに居られないからであります。全て新品の眺め、それは美しい眺めでありましょうか、恐ろしい眺めでありましょうか・・・!」
「槲」には傷が沢山ついていて、そしてなぜか家の方には枝が無い。「女」は「どうして?鳥が食べちゃったのかしら?それともこっち側だけ虫がいるのかしら!」と後退る。
その様子を見ている「槲」は言う。「『傷があって可哀相』と女の人は云う。『痛くはないのですよ』と応えても、女の人は『我慢なさって可哀相』という。そして自分にはそんな傷は無い、と言わんばかりに顔をしかめて後退り、私の体に傷があるのを知らしめる・・・」
引越しの荷物を取り出して、置物やカーテンの配置を考えている「女」の後ろから、突然赤い帽子(野球帽)を持った「犬」が現れる。
「おかえり、おかえり!ず〜っと待ってた、い〜っぱい待ってた、待ってて良かった、おかえり、おかえり。あんただ〜れ??」
「あれ、忘れちゃったのかな、誰を待ってるか忘れちゃったのかな、オレ。この人でいいのかな、それとも違う人かな、もっと待った方がいいのかな、それとも待たない方がいいのかな、どうしようかな、でも、とりあえずおかえりぃ!!」

(暗転)
「女」がお茶を持って部屋に入ってくる。「犬」がドアの真ん前にいる。爪のある生き物が嫌いな「女」は、「犬」をよけて部屋に入り、ソファーに座る。
「新品のスーツを着た男がこう言ったわ。『北海道の草原に建つ一軒家。リゾート開発の計画も進んでおり、将来ペンション経営を考えている方に最適です。頭金4000万円で即引き渡し可能。この情報はまだ一般公開されておりません』」
その不動産屋に電話をかける。「もしもし?ここのリゾート開発が実現するのはいつですか?この近くに高速道路が通るのはいつですか?あの人がここに隠れる計画が実現するのはのはいつですか?もう約束の秋なんです!もしもし?○×不動産じゃないんですか?え!?倒産したんですか!え?あたしの名前?無いんです!!」
「女」は漁協組合で、経理事務員として勤めていた。そこにお金を預けに来る老人達。お金を預けたことを忘れてしまう老人、老衰死してしまった老人達の”捨て金”を1日に1万円ずつ、13年もの間横領してきた。そのお金でこの温室のような家を買い、隠れるように引っ越して来た。そして、証拠である帳簿も当然持っていて、片時もそれを放そうとはしない。
「ティーンエイジャーだった頃、あの人は私の憧れだった。はしゃぐふりして抱きついた。そんなあの人も私の憧れの人から”お兄さん”になっていた。ティーンエイジャーでなくなった私は、もうはしゃぐふりして抱きつくこともできなくなった・・・」そう、「女」が待っている愛人は、姉の夫だった。
たまらず、姉に電話をしてみても夫(兄)は相変わらずだという。本当に彼は来るのか?疑いという名の虫が体を這登ってくる・・・・。

第2幕

ツンドラ・バード
氷の花(Instrmental)
街路樹
氷脈(ひょうみゃく)
水琴窟(Instrmental)
朱色の花を抱きしめて(Instrmental)
天使の階段
記憶
何を待っているの
六花(ろっか)
粉雪は忘れ薬

とうとう雪が降り始めた。
ある日、風邪をひいて寝込んでしまった。それとは知らず、「犬」はかまってもらおうとじゃれつくが「女」は相手にしない。すると、突然電話が掛かってくる。愛人からと思った「女」は電話に出るが、その電話は知らない女からだった。
「”ヤコブの梯子”っていうんだって。重い雨雲の切れ間からさし込む金色の光のすじのこと。私バカだから、『へえ、そうなの』しか言えなかった。最初のうちは『教え甲斐がある』って喜んでいたあの人も、だんだん喋らなくなった。張り合いが無くなったんでしょう。私、彼の話しに関係した事を何も返せなかったから。私は今でも”ヤコブの梯子”っていう名前しか知らないけど、他にも名前があるんでしょう。そして、それを知ってる女の人も。」
電話の向こうで他の人の気配がする。
「奥様、こんな所にいらしたんですか。もうあの家に電話をしても、誰も居ないんですよ。」
「でも、この電話、ちゃんと繋がっているわ。」
「そんなことは・・・。まさか、そこに誰かいらっしゃるんですか?もしもし、あなた、そこで何をしているんですか?まさか住んでいるんじゃないでしょうね?いいですか、できるだけ早くそこから離れて下さい。その家は1階の部分が湿原に沈んで、そこは建物の2階の部分なのです。きっと悪質な原野商法に騙されたのでしょう・・・・。申し遅れましたが、私はこの町の教会で司祭を務めておる者です。」
「そんな、この家はこんなに奇麗だし、第一この家は2階建てじゃなくて平屋です。なにかの間違いではないですか?」
司祭に代わって「槲」が過去の出来事を話し始める。
「それは仲むつまじい御夫婦でした。しかし出来心からか、御主人は余所に愛人を作ってしまわれたのです。ある夜、奥方がご主人にその事を問い詰めました。」
ここで「女」は1階へ通ずる階段を見つけ、下に降りていく。
「その日の夜遅く、その家の1階から火の手が上がりました。家の前にある槲の樹が、家の方だけ枝が無いでしょう?それは、その時焼けてしまったからなのです。幸い、通りかかった車の通報のおかげですぐに火は消し止められました。しかし、御主人は亡くなり、奥方は正気を失ってしまいました。それで私どもの教会でお預かりしているのです。今電話を掛けたか女性がその奥方です。」
「火事の原因は事故だったと聞いています。でもあの夜何があったのか、本当のことは誰も知りません。」
「御主人の愛人は、御主人が亡くなったと聞かされていなかったのでしょう。また、御主人からは近々離婚が成立すると聞かされていたのでしょう。待ちくたびれたその愛人は、誰もいないとも知らずに、とうとうこの屋敷までやってきてしまいました。ご主人の姿を探してさまよっているうち、氷の張った湖に迷い出てしまいました。そして、突然割れた氷のすき間から下に落ち、湖の底に沈んでいったのです・・・・。」

再度「婦人」の声が響き渡る。
「あなたにあの人は渡さないわ。どんなことをしたって、絶対に渡さないわ・・・。」
(暗転)
白いドレスを着た女性(みゆきさん)が現われる。
「ねぇ、どこにいるの?ずっと待ってたのに、全然こっちに呼んでくれないんだもの、あたしとうとう来ちゃったわ。驚かそうと思って隠れてるんでしょ!ねぇ、どこにいるの?ねぇ、どうしてここは誰もいないの?どうしてここはこんなに寒いの?どうしてここ(ソファーの埃を払うしぐさ)はこんなにススけているの?」
「ずっと前から、あなたがグランドでボールを追いかけてた頃から、あなたを見てた。いつかナイターに連れて行ってくれた。大きな声で声援して、ナイスプレーに抱き合って喜んだ。その時にあなたがプレゼントしてくれた赤い帽子、ずっと前からあなたを見ていたことを覚えていてくれたみたいで、嬉しかった。それからこの帽子が私の宝物になったの。」

高く掲げた赤い帽子が、突然の突風で飛ばされ、湖面に突き出た氷山の頂きに引っかかってしまう。それを取ろうとする「女性」は足を滑らせ、湖へと消えていく・・・・。
そして少し後、その帽子を持った犬が現われる。
(暗転)
「女」が姉に電話をする。
「もしもし?ううん、別に用事があるわけじゃないんだけど・・・。え?びっくりすること?まさか、離婚・・・・じゃ・・・。え?赤ちゃん?もうあきらめてたじゃない。そう、9ヵ月になるの・・・。あの人も喜んでるんでしょうね。」
「あのね、わたしわかったの。私の見る夢が誰にとっても大切なわけではないんだ、って。おめでとう、お姉ちゃん。あの人にもおめでとう、って言っておいて!」

電話を切る。
「私、いない女になろうとして、いつの間にかあの人にとっても”いない女”になってた・・・」
泣き出す「女」を慰めようと近づく「犬」
「そうかなぁ?本当にみんな敵かなぁ?2人の愛を守ろうとしてみんな敵に見える。相手の愛を守ろうとしてみんな敵に見える。本当にそうかなぁ?」
「女」は帳簿を手にする。
「長い間帳簿をつけてたせいで、なにもかも帳簿に付けるのが癖になってた。この帳簿で、いない私がいる私になれる。・・・私はこれをごこに持って行けばいいかを知っている!」
コートを取りに行く「女」。それに驚く「槲」と「犬」
「地吹雪を御存知ない!危険!」
「地吹雪を御存知ない!危険!雪つぶどもが目を覚まし、首をもたげはじめる!!」
「地吹雪は降る雪のおよそ100倍!襲い来る雪に視界を奪われ、歩くことすらできない。危険!!」
「女」がコートを着て戻ってくる。帳簿を手に取り、出て行こうとするその前に、「犬」が立ち塞がろうとする。
「女」は「犬」を突き飛ばす。が、「女」は、犬が嫌いだったはずの「女」は「犬」に近寄り抱きしめる。そして片方の靴を脱ぎ、犬の顔の前で2〜3度上下してからおもむろに投げる。「犬」は嬉しそうにそれを追い、拾って戻ってくる。「女」はしかし、それを受け取らず、代わりに赤い帽子を犬の手から取る。そして更に残った靴を投げ、「犬」はまた嬉しそうに追いかける。
「女」は決心したように帳簿を捨て、首に巻いていた水色のマフラーを置いて出ていく。車のエンジンの音。
何かがぶつかるような激しい音、そして火柱。
音に驚いて戻って来た「犬」は、火柱を見て愕然とする・・・・。
(暗転)
「犬」が水色のマフラーにじゃれついている。ときおり窓から顔を出しては、あきらめてまた部屋の中にもどる。

−幕−

ひとつ残念なことは、文章ではストーリーを説明できても、その場の雰囲気というか、情景の隅々まで説明できないことですね。特に楽曲の歌詞やBGMのメロディーが非常に重要ですから。
だから、今回の「ウィンター・ガーデン」の良さを、10%もお伝えできないだろうというのが非常に残念です・・・。

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