●特集「俺たちはJリーグで6番目に強いチームじゃない」(1)
(文:オヤジ 2007/12/22)
2007年12月1日 なぜ喜べるのだろう
また今年も最終節を飾れなかった。なす術も無く大分に0-2の敗戦。しかも慎吾に1ゴール1アシストのおまけ付きときた。最終戦後のセレモニーではひどい試合が嘘だったかのように、中野社長は「来年はタイトルを狙います」と宣言。あらかじめ用意していた言葉なのだろうが、こんな試合内容の後では夢や目標どころか冗談にすら聞こえない。社長の発言はあまりに空々しく、虚しいものだった。
私はその後、録画ながら浦和の絶望と鹿島の歓喜を十分に堪能したのち、ヤケ酒に繰り出したのだが、この日の新潟駅南のとある居酒屋はアルビサポで埋め尽くされていた。彼らもきっと私と同様に悲嘆にくれているに違いない…と思いきや、店は馬鹿騒ぎだった。 今から思えば、サポーター同士の忘年会も兼ねているだろうから慰労の意味も込めて騒いでいたのかもしれないと冷静に考えることも出来る。だがその時の私は愕然とした。6位に滑り込んだとはいえ、今シーズンのアルビが抱える弱点を全て露呈させた試合を見て、あなたたちは何も感じていないのか!俺たちはJリーグで6番目に強いチームじゃない。ただ順位が6番目だっただけだ…。
やり場の無い怒りがこのサイトを立ち上げるキッカケになった。
ではこの日のアルビは何が悪かったのか。
(1)大分のカウンター対策をしていたにもかかわらず、効果が全く現れていなかった。(2)大分の十分想定される守備陣形(マーク等)について攻撃の研究が成されていなかった。(3)(1)と重複するが、大分の得点パターンを分析していたようには思えない。(4)全得点に鈴木慎吾が絡んでいる。 以上の4点である。順に説明したい。
(1)大分のカウンター対策をしていたにもかかわらず、効果が全く現れていなかった。 大分のカウンターの基本は高松へのロングボールだ。これを高松がポストプレイすることが基本パターン。その際に山崎、梅崎のどちらかはスペースを突くように飛び出す、または高松の近くに寄りポストのボールを受けるように動く。もちろん、高松を経由せずに山崎と梅崎はスペースを突く動きをすることもある。また両サイドはポジションチェンジをする事はほとんど無く、精力的な上下動から前線に絡む動きをする。またその配球元はボランチのエジミウソンであることが多い。そして複雑なパス回し(ポゼッションをねらう志向)は多くなく、また効果的でないことが多い。
大分のセットプレー以外での攻撃パターン(カウンター含む)をまとめると以上になる。文字にしても僅かだ。アルビの能力を考慮してもとても抑えられない攻撃ではないと思う。結果的に流れの中から点は取られなかったものの、2点目の慎吾のFKの起点とされ、また高松や梅崎にいいように決定機を作られてしまった。
ではどのように抑えればよいのか。天皇杯5回戦のガンバのディフェンスを例として説明したい。高松へのフィード対策として、播戸を中心にフォアチェックを怠らない。これでフィードの質が落ちる。また山口、シジクレイは高松のポストを研究しているのか、抜群のタイミングで高松との競り合いを制す。高松と山口で身体能力にそれほど差は無い。だがこの試合で高松は山口にポストをさせてもらえなかった。また梅崎には橋本がマンマークし、見事に封殺。加地と安田は攻守で慎吾と藤田を圧倒した。
この試合は結果的に高松の素晴らしいミドルシュートで1点を取られたものの、大分の「基本」パターンの攻撃は見事に抑えきった。アルビに出来ないことではないと思えた。アルビの行った「対策」とは一体何だったのか。
(2)大分の十分想定される守備陣形(マーク等)について攻撃の研究が成されていなかった。 大分の守備はまるでテストの山を張るように優先度を設けて集中して守る。大分の張るテストの山は
優先度1位:エジミウソン(背後霊ガツガツマークで対応。きわめて嫌がる)
優先度2位:リシャルデス(必ず複数人数でディフェンス。1対1で対応しない)
優先度3位:矢野貴章(貴章のポストプレイはアルビオフェンスのバロメータ)
以上の3点で十分。バックに下がった坂本は前線の3人が活性化しなければ怖くは無いのだ。この3点を重点的にマークし、それ以外でやられるのなら仕方が無いというようなディフェンスをする。
当然ながら、先の天皇杯におけるガンバのようにグッドプレイヤー(個人での仕掛けを持つ)が十分に揃うチームではテストの山が多くなりすぎ、大分ディフェンスは破綻する。ちなみにこの日2点を叩き出した寺田のミドルシュートはいずれも、何故か大分ディフェンスが穴をつくり、それを見事に突いたように見えるのは上記のようなディフェンスのプライオリティーの破綻による(バレー、遠藤、二川、播戸、加地、安田とマークしなければならない選手は多彩だ)。
アルビは大分が山を張るようなディフェンスをしてくることを研究した上でオフェンスをひとひねりする必要があった。例えば第31節FC東京戦から寺川が左MFとして先発しているが、ディフェンス面はともかくオフェンス面で奏功せず、むしろ停滞をもたらしていた。この寺川に代えて河原を先発させてもよかったのではないか。河原では鈴木淳監督の求めるボール保持能力はないのだろうか。
(3)(1)と重複するが、大分の得点パターンを分析していたようには思えない この日の先制点は鈴木慎吾のFKから森重が頭で合わせるものだが、これは11月4日の天皇杯4回戦(千葉vs大分)で見せたものと全く同じものだ。FKの位置からその軌道、森重の入り方まで同じものだった。つまり、大分にとって森重をねらう事はセットプレーのパターンではかなり優先度の高いパターンである可能性が高く、それをケアできない形で千葉と同様の失点を喫すること自体、アルビレックスの分析能力に疑問が出てくる。もしかしたら選手はビデオすら見ていないのではないかと疑いたくなる。まさかとは思うが。
(4)全得点に鈴木慎吾が絡んでいる さてご存知の通り、鈴木慎吾はアルビからレンタルされている選手だが、慎吾がこの日のピッチに立っていること自体がそもそもおかしいのである。Jリーグではあまり見られないが、海外リーグでは選手を同リーグ内で期限付き移籍させる際にはそのレンタル元と対戦する場合は出場させないという特約条項が付くことがある。なぜアルビはこの特約を付けなかったのか。甚だ疑問だ。新潟のサッカーをよく知っている慎吾を敵に回すことを恐ろしいとは思っていないのだろうか(同じく神戸にレンタル移籍したデビッドソン純マーカスにも同様にこの特約は無い)。新潟のフロント陣のプロ意識を疑いたい。ちなみに今シーズン、神戸から横浜FCに移籍した三浦淳宏にはこの特約条項がついており、三浦は神戸戦に出場していない。
慎吾の移籍にこの特約を付けて仮にアルビに入るレンタル料が200万円下がるとしよう。結果論でしかないが、この特約を付けなかったばかりに我々は大分に惨敗を喫しているのだ。順位を争う他チームが負けたからいいようなものの、これで柏や横浜FMが勝っていたら順位ボーナスが1000万円単位で異なる。この点でもフロントはプロ意識を持って勝負に徹してほしい。
なぜそもそも慎吾は移籍したのだろうか。チームは戦術上の問題で出場機会の減る慎吾を手を変え品を変え説得する必要があり、また慎吾を鈴木監督の戦術に適合するようにガイドすべきだった。アルビは今シーズン、J1最少人数で挑んでいた(※)わけで、余計なレンタル移籍などを行う余裕など無かったはずである。浦和の相馬や広島のリ・ハンジェなどは明らかに飼い殺されているにもかかわらず、慎吾とは同じ状況に至っていない。誰かが彼らを上手く説得して(または騙して)いるに違いない。事実、リ・ハンジェは「今年、チームも個人も成長している。(起用されなかったことへの)わだかまりも、監督と話すことで解けた」と
語っている。
また、選手には辛いだろうがフロントは「飼い殺す」という非情なる決断すら取ることもできたはずである。さて、慎吾は何故移籍できたのか。努力が足りなかったのはフロントか監督か、一体誰なのだろうか。
駆け足で12月1日のアルビを振り返ったが、これを読んでいるあなたは私がまるで愛の無い表現をし、アルビの揚げ足を結果論で取っているように感じられるかもしれない。だがしかし、上記4点を試合中に私が指摘していることを本サイトの編集人であるさとさん氏は証明してくれるであろう。そしてこの日のアルビレックスに良い所を見つけるほうが難しかったと思われるが、いかがだろう。
アルビが6位になり、史上最高位でフィニッシュしたことは確かに大変めでたい。今年は人数が少ない上に、怪我人も多く、またカード累積による出場停止も試合内容に大きく響く一年だった。現場スタッフのやり繰りの上手さが光る一年であり、その中で確かに鈴木淳監督の標榜する「ポゼッションを中心としたアグレッシブなサッカー」が浸透しつつあることは来シーズンへの福音のように思える。
だが来年、エースのエジミウソンはいない。またゲームの展開上でアクセントをもたらしたシルビーニョも不在だ。この状況は2002年に天皇杯を取り成熟を迎えた京都、2005年に最終節まで優勝争いを演じたC大阪が翌年に降格した状況と酷似する。どちらも戦術上のキーマンが抜けたため(京都:パク・チソン C大阪:ファビーニョ)に起こったことだ。特にセレッソは代役のピンゴや山田卓也が全くの期待外れだった。
しかしながら、アルビレックスがこの2チームと同じ軌跡を辿ると決まったわけではない。サポーターは(もちろん現場スタッフも)アルビレックスの弱点と問題点をきちんと認識する必要がある。アルビサポは善良であることで知られ、特にチームに対する批判に類するもの(またはそのように受け取られるもの)を表現することは大変なタブーとされているように見受けられる。だが私はあえて本サイトでそのタブーに挑戦してみたい。アルビレックス新潟を愛してやまないから、私は誰もが口にしない批判をあえて書き連ねる必要がある。何度も言う、私はアルビレックス新潟を愛しているのだから。
(※)2007シーズン当初の新潟の登録選手は25人。J1の18チーム中最少だった。
次に少ないのは大宮・横浜FC・大分の28人。逆に最多は神戸の41人。