●アルビレックス・ゲームレポート2008
第16節 vs横浜F・マリノス(AWAY) 2008/7/13
(文:オヤジ 2008/8/4)
マリノスはこの試合で敗れたことにより、桑原監督を解任する。桑原監督は解任されて当然のサッカーしかできなかった。なぜマリノスは勝てなくなったのか。桑原監督も選手も理解できていないようだ。しかし、観客席から眺めるとその理由が良くわかる。
サッカーにおいてフォーメーション(布陣)の存在意義とは何か
いきなり大風呂敷を広げてみるが、サッカーにおいてフォーメーションの存在意義とは何だろうか。
このレポートのシリーズでも何度か触れているが、まずは自チームにどのような選手がいるか、ということが大前提。選手全員の特性を把握した上で、攻守においてチームパフォーマンスが最大となるような選手の配置の方法、それがサッカーにおけるフォーメーションの存在意義であると私は考える。
さて、マリノスの桑原監督は今シーズンの開始から3-4-1-2を採用してきた。しかし、5月17日の中断以降は4-2-2-2を採用した。変更した背景には6節終了時は3位であったが、その後、順位は徐々に下降線を辿り、9節以降勝利の無い状態が続く。その中で生まれた閉塞感を打開する狙いがあったに違いない。
しかし、メンバーを考慮するとマリノスには3-4-1-2が適しているのである。
ここで注意したいのは3バックのほうが4バックよりも適していることを指しているのではない。バックラインの布陣はどちらでも良い(どちらもある程度ハイレベルに実現可能)。私が3-4-1-2のほうが適していると判断する理由は3-4-1-2の1の部分、つまり「トップ下」というポジションが存在する点にある。
マリノスにはロペスがいる。ドリブルにはスピードとテクニックがあり、シュートも実にパワフル。トップ下をやるにはうってつけの選手である。ほかにも山瀬功治がおり、彼もトップ下を高いレベルで担当可能だ(厳しいマンマークを受けるとプレーが萎む印象があるが)。3-4-1-2で臨むには良質なトップ下の存在が不可欠である。マリノスはこの条件を見事に満たしている。
3-4-1-2はとかく昨今の布陣論の中では3バックであるということが取り沙汰され、守備的布陣の代名詞のように扱われ、忌み嫌われているが、このフォーメーションの特徴は「トップ下」が存在するということに尽きる。
トップ下の存在により、どのポジションからも三角形のパスコースが作りやすく、2トップへの攻撃面でのサポートが実に強力に実行可能なのである(だから一時期はファンタジスタ系の選手がこのポジションを担当することが多かった)。
桑原監督は良質なトップ下を有する中で当然のように3-4-1-2を選択した。ここまでは実に正しい。しかし、桑原監督はフォーメーションの中でフォーメーションを忘れた。トップ下が2トップのサポートを行いやすい、つまりトップ下と2トップのコンビネーションの確立が容易であるはずにもかかわらず、桑原監督は確立を怠った。それは3-4-1-2の最大の特徴を放棄してしまったことに他ならない。
これでは選手の特性もフォーメーションの特性も活かすことはできない。シーズンが進むにつれ、マリノスの攻撃は個人技頼みとなり、他チームから見れば、守りやすい相手になったのである。これでは勝てない。
桑原監督はそのことに気付かず、3-4-1-2を諦め、4-2-2-2にトライした。4-2-2-2は攻守において選手同士のサポート(コンビネーションの確立)が難しい。桑原監督はコンビネーションの確立を置き去りにしたまま、確立がより難しいフォーメーションへ移行してしまった。そしてチームの攻撃はますます個人技頼みへ傾倒し、勝利から遠ざかってしまった。
マリノス低迷の原因は攻撃のコンビネーション確立を怠ったことばかりに起因しない。フォーメーションに適した守備組織・コンビネーションの構築も疎かにしたのである。その結果がこの試合で、マリノスがアルビをファウルでしか止めることができなかったことにつながるのである。
この試合でのマリノスの守備は実に曖昧であった。自分たちがどのような守備をしたいかという守備コンセプトが見えなかった。リトリートして網をかけるわけでもなく、前線から激しいプレスを仕掛け、高い位置で奪い、速攻につなげるわけでもない。マリノスの守備には統一されたものが無かった。
また、アルビの攻撃パターンに対して、自分たちがどのようにマークを付け、ボールを奪うかという守備組織のその試合ごとのアレンジという点においてもはっきりしなかった。その結果、個人個人で動きがバラバラになり、危険な芽を摘むにはファウルを犯すしか方法が無くなるのである。
そして、これらの状況下で、チームが一向に好転しないイライラも募り、マリノスの選手は不要なファウルを繰り返すようになる。前半終了間際に松田が松下に犯したファウルはそこで行わなければならない類のものではなかった。また小宮山が故意に突き飛ばしたことについては田辺主審が見逃していただけで、本来ならばカード(退場でもおかしくないだろう)に相当する行為であったはずだ。
チーム思考が停滞し、病状が末期となったときにこのように暴力を行使することのみで守備を行うケースはJリーグだけでなく、ヨーロッパなどでもよく見られる。それだけマリノスの症状も重いのである。
フォーメーションは数字遊びではもちろんなく、また選手がその配置に従って居ればそれでいいというようなものでもない。桑原監督のフォーメーションは昨今のフォーメーションに対するサッカー評論家の言と同様に数字だけが一人歩きしているものであった。だから選手が機能不全に陥っていたのである。マリノスが低迷から脱出するの鍵は単純にフォーメーションを変更することよりも攻守のコンセプトを明確にし、そのコンセプトに従って11人がひとつの生き物のように動くことができるようにすることではないだろうか。
寺川について
この試合は前半終了間際に松下が負傷したことにより、寺川が左サイドに起用される。この采配は正しかったと思う。
寺川は浮き足立ちそうなチームを落ち着かせ、後半かなり攻めこまれたものの、見事に逃げ切ることに成功した。 「チームを落ち着かせる」と「逃げ切る」というアイディアの下、寺川を投入し、寺川はそれに答えた。
しかし、考えなければならないのは松下のいない後半のアルビの攻撃はまったく迫力が無いものになってしまったということである。この試合は逃げ切らなければいけない状況下であったため、寺川投入は正解であるが、それは「松下の次に優先されるべき左サイドハーフは寺川である」ということを意味しない。寺川の起用については、次節ジェフ戦レポートで考察する。
おわりに
この試合の翌日、桑原監督は解任され、木村浩吉が新たに監督の任に就いた。この監督はさらにマリノスの病状を悪化させようとしている。
監督就任会見でこの人物が絶望的であることがわかる。
(引用)
「皆さんもご存知のように、チームには日本代表が2人、五輪代表候補が1人、U-19代表選手もいます。外国籍選手もいます。他のチームと比較しても、見劣りはしないと思います。その選手たちで勝てない、あるいは引き分けが続いたりすることで、自信を失っている。まず、その自信を取り戻してやりたい。まずは、何か一つ切っ掛けをつかめば、必ず連勝していく、あるいは連敗しないチームになっていくと思います。
戦術的なことについては、とくにバランスを崩して攻撃に出て行って、カウンターを食らってピンチになる場面が非常に多く、昨日の新潟戦でも26本のシュートを打ちながら、非常にバランスが悪かった。そこを修正していきたい」
マリノスに必要なのは自信ではなく、攻守における連動性であろう。しかし、この人物にはそれが理解できていない。また低迷の原因としてあげているものが「バランスの悪さ」という極めて曖昧で表面的な見方であることがチームの現状に対する理解の浅さをよく表している。
木村新監督の改革は実に的が外れている。低迷の原因をロペスとロニーに被せ、彼らをベンチにすら入れていない。そしてフォーメーションの数字遊びに迷い込み、意味の無いシステム変更に着手した(結果として連動性の全く無い3-6-1が出来上がっただけ)。
昨年は広島が飲み込まれた負のスパイラルが今年はマリノスを飲み込もうとしている。そうなれば、J1は面白くなる。