Terrible Booing Soccer

アルビレックス新潟に軸足を置いてサッカーを論じる、時にブーイングを放つサイト。



●アルビレックス・ゲームレポート2008
第15節 vs名古屋グランパス(HOME) 2008/7/5


(文:オヤジ 2008/7/23)


 会心の出来だった。アルビはこの試合、前半こそ名古屋のサイドアタックに苦しんだものの、後半は素早く守備ブロックを整え、ボールを奪い、前線が高速に展開するカウンターで何度も名古屋を脅かした。アルビの攻守の連動性、破壊力にようやく手ごたえを感じてきた。アルビはようやく戦えるチームになった。
 しかし、この試合の名古屋は万全ではなかった。中2日での疲労、マギヌンの不在、その中で私はストイコビッチ監督の苦悩を見た。


ヨンセンの疲労、マギヌンの不在、成長の無い深井

 この試合の名古屋は深井・小川の両サイドアタッカーが幾度もアルビの両サイドを蹂躙し、チャンスを量産した。6分のヨンセンのヘディングは決めなければならないシュートであり、9分の小川のシュートは外れこそしたものの、無防備に奪われ、シュートまで持っていかれたアルビには反省を促したい。

 試合が進むにつれ、アルビのマークは危ない場面ではあるが水際でがっちり守る体勢が整って行く。千代反田と永田がヨンセンをしっかりマークし、玉田には低い位置に下がった千葉と本間が目を光らせている。始めは迫力のあった名古屋の攻撃は試合が進むにつれ、「何とか守りきれるかもしれない」と私に期待を抱かせるまでに劣化していった。
 特にヨンセンは時間が経つにつれ、疲労の影が色濃くなっていく。ストイコビッチ監督は35分頃にヨンセンに高い位置を積極的に取るように指示を出している。疲労によりヨンセンは前線の危険なポイントに入るタイミングが目に見えて遅くなっていった。ストイコビッチ監督は前半35分で既にその兆候に気付き、指示を送っていたが、ヨンセンは耐え切れなかった。ヨンセンの疲労は個人に留まらず、チーム全体の疲労感へ伝搬していった。

 そしてこの日の名古屋はマギヌンが欠けていた。マギヌンは実にテクニックあふれる選手で、長短のパスも巧い。名古屋のサイドアタックは単純にドリブラーがサイドで躍動するのではなく、マギヌンと中村直志が中盤をコントロールすることで成り立っている。

 そのマギヌンがこの日はいない。代わりに先発した深井はアルビに在籍した頃と全く変わっていなかった。ドリブルこそキレがあるものの、ラストパスを出すタイミングも悪く、精度も低い。マギヌンであれば素晴らしいクロスを放り込める場面であっても深井はドリブルで突っかけ、ボールを奪取されてしまう。深井は自らのドリブルを恃み過ぎたため、チームのリズムを崩してしまったのだ。

 深井のこの悪い癖はアルビに在籍した頃から変わらない。玉離れの悪いプレイスタイルが鈴木監督に敬遠され、出場時間が得られなかった。(2007年:18試合 深井としては自己最小出場数)。深井は出場時間を増やすために移籍したはずではないか。それにもかかわらず、また同じ過ちを繰り返している。深井と同じく、昨シーズンは不遇をかこった松下が鈴木監督の求めるサイドハーフ像に成長し、レギュラーを掴んだが、その一方で深井はなぜ起用してもらえないのかという問いに答えを出せないままでいる。深井はパスを磨かなければ、来年もまた別のチームだろう。

 深井・小川の両サイドが単調なドリブルに傾倒していったことに対しストイコビッチ監督は焦っていただろうと思われる。ハーフタイムでのコメントにその焦りがよく現れている。ストイコビッチ監督のハーフタイムコメントは以下の通り。

 1.質の高いパスを出していこう。
 2.ボールをもっと走らせよう。
 3.集中を保って100パーセントの力を出し切ろう。

 ストイコビッチ監督の焦りが1と2によく現れている。ストイコビッチ監督は両サイドから供給されるパスのアイディアの無さ、精度の低さに明らかに不満を持っていた。深井は後半開始時点ではそのまま起用されるがアルビが先制したことで交代を命じられた。ストイコビッチ監督も混乱していたのか、またはこの交代がルーティンとなっているのか、同じドリブラータイプである杉本を投入してしまった。杉本も深井同様、決定的なリズムを作ることができなかった。ストイコビッチ監督もこの試合でミスを犯していたのである。

 ストイコビッチ監督はこの試合を落とすが、自らの選手起用のミスを認めるかのように次の試合では深井ではなくオールラウンダー性のある藤田俊哉を起用する。ストイコビッチ監督はおそらくこの試合で深井に見切りをつけただろう。
 この試合のアルビは確かに良いパフォーマンスを見せたが、それ以上に名古屋が自滅した観のある試合であるとも言える。次の対戦ではこう上手くは行かないだろう。


カウンター、そのベースはハードワークとポゼッション

 この試合のアルビは攻守の連動性が豊富であった。すばやく守備ブロックを作り、ボールを奪ってのカウンター。前線の4人は互いに自由自在にポジションを取りながらゴールに向かっていく。この試合をご覧になった方はアルビというチームがともするとカウンターばかり狙っているチームに見えたかもしれない。しかしそれは違う。この試合にアルビが良質なカウンターを幾度も発動させることができたのは、名古屋が攻守のバランスの悪く、前掛りになっている点を的確に突いたからである。アルビが的確にカウンターに持ち込めた背景には全員が攻守の運動量に労を惜しまないハードワークとこれまで推し進めていたポゼッション重視の戦術がベースにある。

 58分の松下のゴールもチーム全体のハードワークの塊のような得点であった。それまで一進一退の攻防の中、アレッサンドロはパスをキープできないが、必死にサイドの内田へ足を伸ばし、パスを出す。このプレイにアレッサンドロの執念を感じる。そしてパスを受けた内田は正確なクロスをペナルティエリアへフリーランニングしてきた内田へ放つ。松下はこのゴールを奪うために大変長い距離をフリーランニングするが、松下だけでなく、ペナルティエリアには松下を含めて3人が入っていた。クロスの的が遅れて入るヨンセンだけの名古屋とは大きく違う点であった。ハードワークの質と量の差がこの試合の結果を分けたのである。

 またカウンターをミス無く発動させるには的確な狙いのあるパスを素早く、かつ正確に落とすことができねばならない。鈴木監督はチームのコンセプトのひとつであるポゼッションを応用して、カウンターを効果的に発動させようと考えているように感じられる。

 ポゼッションを重視する中で、選手はボールを保持し、パスを回しながら相手の弱点を突く戦術を身に着ける。ボールを奪った瞬間に速い判断でこの戦術を実行することで、カウンターに結び付けている。

 カウンターというとリアクションサッカーの代名詞のように扱われ、カウンターが攻撃の中心になることをひどく嫌う方々が多い昨今であるが、ボールを奪った瞬間に相手の選手のポジションに不備や弱点のある場合に自軍の選手が高速で仕掛ければカウンター、相手が素早く守備を整えればポゼッションに移行するだけの話である。強いチームはどちらも高いレベルで実行できねばならないし、どちらを選択するかという瞬間的判断も誤ってはならない。
 チームとしてカウンターとポゼッションのどちらから育てるかは、まるで「鶏が先か、卵が先か」のような話であり、どちらから優先的に育てるかは指揮官の選択による。通常、弱小チームはカウンターから整備することが通例であるが(弱小チームはカウンターが戦術の中心であることがカウンターの印象が悪い理由はこれにある)、鈴木監督は通例に反し、ポゼッションからチームを育成した。そしてようやく現チームでも効果的なカウンターを発動するまでに至ったということである。この試合のような攻撃が続けられるのであれば、今シーズンのアルビの結果も明るいものになるだろう。しかし、怪我や累積警告で特定の選手が抜ければ、この攻撃が構築できなくなるのでは意味が無い。そのような意味で課題は依然として残っている。


おわりに

 余談ではあるが、この試合で鈴木監督は交代カードを使用しなかった。私の目から見ていても代えるほどの疲労のある選手もなく、チーム戦術の実行度から見ても代える必要性は感じられなかった。私は鈴木監督の交代カードの使い方には不満があるが、この試合の「使わない」という判断はこれで正解だろうと思われる。



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