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前置き。
面倒でしょうが、とりあえずお読みくださいませ。
「シルバーウィークSP企画!」と銘打って、2011年9月に一度サイトに上げたものの、「BでもLでもないし、こういう話は誰も読みたがらないだろうな」と思い直し、半日で下げたという、いわくアリな物件です。
先日見返しましたところ、「うちのサイトなら、特に浮くってワケでもないか」と考えを改めました。
まあまあ、いつもの通りのちょっと病んだぽえむです。
ただ、後味が悪いと感じる方もおいでかもしれません。
*以下の前文に少しでも引っかかった方は、絶対に読まないで下さい*
限りなく「死にネタ」に近いというか、ある意味それよりタチの悪い「老後ネタ」。しかも捏造系後日譚です。
毎度ながらのしみったれた会話劇ですので、特に筋はありません。
そして相変わらずおままごとカップルです。
……よござんすか?
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■歳月
長い夢を見ていた。暗い道を、誰かに寄りかかり歩いている。
「ご存知でしょう? ぼくは夜目がきくんです。大丈夫。絶対にあなたをお護りします」
繰り返し語る声と、このぬくもりには覚えがあった。
目覚めると枕辺に人の気配がした。
「……ゴードン……?」
ようやく搾り出した自分の声は掠れていた。いつも近くに控えている弟子の名を呼ぶと、耳に馴染んだ声が返ってくる。
「目が覚めましたか? 今は思うように体が動かないでしょうけど、我慢してくださいね。ご用はぼくが承りますから」
「……迷惑をかける」
「いいんですよ。早く元気になって下さいね」
「ああ……」
頬に温かな手が添えられ、気持ちが良い。
「おやすみなさい、ジョルジュさん」
その温もりに引かれ、緩やかに眠りに誘われていった。
* * *
「……あれで良かったでしょうか?」
不安げに見上げる少年に、私は笑顔を返す。
「上々だ。……すまないな、こんなことを頼んで」
「いいえ、お役に立てて嬉しいです。父も騎士団の方々もおっしゃいますけど、ぼくはそんなに似ていますか?」
どこか頼りなげにこちらを伺う様子に心中で苦笑する。なるほど、これは確かに子犬のようだ。
「ああ、そっくりだな」
「じゃあぼくも歳をとったら、今の伯父上のようになるんでしょうか」
「そうだろうね」
弟の末子にあたる少年は、表情豊かな緑の瞳で私をじっと見つめると、満足そうに息を吐いた。
「……悪くないですね」
「大人をからかうな」
いつもあの人がしていたように、くしゃくしゃと髪を掻き混ぜると、少年は笑い声を零す。
「お姿と言えば……ジョルジュ団長……今でも立派なご容貌ですが、お若い頃はとても美々しくていらしたんですね。広間にある騎士団創立時の肖像画を拝見しましたよ」
「その分、艶聞にも事欠かない方でね……だから……その……」
どう取り繕ったものかと逡巡していると、悪戯っぽい笑みを浮かべて少年は言葉を引き継いだ。
「ちょっとしたおふざけがあるかも、でしょう? お二人は仲が良かったと聞いています。ぼくも先輩騎士の方々にはしょっちゅうからかわれているクチですから分かりますよ」
「本当にすまないな」
「頭を下げないでください……“アカネイア自由騎士団の創立者とその片腕”は、弓を手にする者にとっては憧れの……伝説の存在なんですよ。お二人の役に立てて、ぼくは本当に嬉しいんです。見込まれたのが弓の腕じゃないのは残念ですけど……」
ああ、この子もそこにこだわるんだな。
今は大きな戦争もない平和な時代で、幼い頃から武芸に励む者は少なくなっている。
それでも必要以上に力の研鑽に傾倒してしまうのは、やはり血筋だろうか。
「もちろんそれも込みで……だよ。実戦経験は少ないが筋は良いと聞いている。後で稽古をつけてあげるから、他の仕事は早めに済ませておきなさい」
「はい!ありがとうございます!」
嬉しそうに駆け出す背中を見送りながら感傷に浸る。
私もかつてはああいう子どもだったのだろう。見える道を信じて、真っ直ぐ全力で進むだけの。
「ゴードン……いるか?」
隣室からの声にどきりとする。
「すみませんジョルジュさん……あの子は今……」
頭を切り替え、“ゴードン”の離席を伝えなくては……と思ったが、寝台の上の師は私の顔を認めて微笑んだ。
「夢を見ていた。団を結成したばかりの頃に、俺が大きな怪我を負ったことがあったろう。まだ子どもみたいなお前に看病されている夢だった」
「私が……分かるのですか?」
「何を言っている?」
「……いいえ、なんでもありません。早く元気になってくださいね」
数日ぶりに自分に注がれる温かな視線を感じながらこちらに伸べられた手を握ると、彼は安堵したように小さく息を吐く。
つい先刻まで、私にゴードンを呼んでくれと頼んでいたのは昔のあなたで、そして今も変わらずこの手を求めてくれるならば、私は応えるしかない。
それはこんなことになるまで気付かなかった、あなたが私だけに委ねていたもの。
「好きですよ、ジョルジュさん」
指に口づけながら呟く。
今と昔が混ざり合い、やがて昔だけに生きるようになった人たちを幾人も見てきた。
あと何度、この口からこの言葉を伝えることが許されるのか。そしてあなたに受け止めてもらうことができるのか。
「……さっきの夢……」
「はい?」
「何かが違うと思った……その言葉がなかったな」
「そうでしたか」
夢の中でのことを言われましても……と返しながら、あの子にどう説明したものかと苦笑する。
「結局この歳になっても俺には愛だの恋だのはよく分からんが……お前に言われるのだけは特別だった。温かくて良い気持ちになる」
自分が間の抜けた顔をしているのは分かったが、仕方のないことだと思う。
「……そんな話は初耳です……」
「ああ……初めて言った」
「世間ではそういう温かい気持ちを愛と呼んだりしますけど……」
「じゃあ俺はずっと、お前を愛していたということになるな」
そう言うと、握られたままの手を軽く引き、私の指に唇を寄せてから、微笑んでゆっくりと見上げる。その瞳の青さと笑顔の眩しさ。
……本当にこの人は、狡い。長い付き合いだというのに、いつも不意討ちを喰らってしまう。
口許をもう片方の手で隠して咳払いを繰り返し、なんとか平静な表情を繕う。
「この歳になっても、色々と知ることがあるんですね」
「お互いにな」
二人して掠れた声で笑った。言葉にして確かめ合ったからといって、今までと何ら変わることはないけれど。
私たちはただひとつの想いを抱きつづけてきたのだ。
「ずっとお傍にいます。大好きですよ、ジョルジュさん」
頬に軽く口づけると、師は薄く微笑み目を瞑る。
その寝顔には決して平坦ではなかった永の歳月が刻まれているが、美しいことに変わりはない。
出会いの瞬間、心に生まれた光に導かれ、私はここまで歩んで来た。
後悔はない。あなたと出会えたこと、共に道を歩めたことを、ただ幸いにこそ思う。
たとえ時が戻ったとしても、きっと同じ道を選ぶのだろう。
何度でも。
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- 20110730更新のトーク中の老々介護ネタをこね回していたら、えらく悲観的な展開になってしまったので、自分を落ち着かせるためにハッピーエンド系で形にしました。
若ゴードンはこの後ジョルジュさんの養子になります。そうしてジョルジュさんとゴードン×2は、いつまでもしあわせにくらしましたとさ。めでたしめでたし(とりあえず、こんな方向で)
- 騎士団本部の建物の大広間には、創立当時の中心メンバーの集団肖像画が飾られています。弓師弟と仲良し夫婦の四人が正装姿で描かれており、なかなかに美しい隠れた名画と評判。
という、無意味な私設定。
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