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■夕景

「ジョルジュさん!」
「……なんだ? 血相かえて……」

 教科準備室に入って来るなり真剣な顔でこちらに詰め寄ってくる少年に気圧されながら訊ねると、予想だにしない言葉が返ってきた。

「ぼくたち、まだちゃんと夫婦になってなかったんですね!?」
「はぁあ!?」



 なんでも、事情を知る友人と、少々立ち入った話題になったらしい。そして、遠回しな会話ながらも、うっすらとそのことを察したようだ。
 男同士で愛し合うときの一般的なやり方のひとつを、まだ自分が経験していないことに。
 ちゃんと夫婦に、って……そもそもこんなことに正誤があるわけじゃない。互いが気持ち良く楽しめれば、それで充分だろう。
 ぷうと頬をふくらませ、拗ねた様子で文句を言う。そういうところが実際の年令よりも幼い印象を際立たせていて、可愛らしくもあるのだが。

「ちゃんと夫婦になれるなら、ぼく、痛くても平気です。それとも……ぼくがまだ子どもだから、本気じゃないってことですか?」
「本気じゃなけりゃ、誰が結婚宣誓書にサインなんかするか」

 幸い本国では同性婚が認められているが、未成年相手の場合、面倒な手続きがある。もちろん両親の許諾も必要だったが、そこはすべて正式に手順を踏んだ。
 教師と生徒という立場上、学校では公言していないが、歴とした婚姻関係にある。内々に理事会にも報告をした。

「じゃあ、なんでちゃんと……してくれないんですか? ぼくたち、事実上は恋人同士ですらないんですか?」

 さすがに、この段に至り、聞き流していられなくなった。
 イスから立ち上がり、ドアに鍵をかけ、部屋の灯りを落とす。外はまだ日が残っているが、部屋の中は薄暗い。これで窓越しには見えないはずだ。
 突然のことに慌てる相手の体を壁に押しつけ、強引にキスする。

「んっ……ジョ…ジョルジュさん?」
「じゃあお前は、恋人ですらない奴に、いつもこんなことを許しているのか?」

 膝を相手の脚の間に割り入れて、中心を刺激しながら、首筋に唇を這わせた。
 力の抜けていく体を支えながら、相手の腰の線をなぞっていく。脇腹は弱すぎるので、そこには触れないように慎重に指を運ぶ。

「……だって、おままごとだ、って言われました……」
「俺はそんなつもりはないが?」

 シャツのボタンを外して露にした胸を、身を屈め舌でねぶる。周りの肌とあまり変わらない薄い色の突起は、すぐにぷるりと艷めいた桜色に染まった。
 むしゃぶりつきたい衝動を抑え、小さな粒を指先で優しく刺激しながら、唇をもう片方に移す。わざと音を立てながら吸えば、耳からの刺激にも反応し、吐息に熱がこもっていく。

「でも…お遊びだ、って……」
「お前もそう思うのか?」
「……それは……」

 ベルトを外し、下着ごと制服のズボンを膝まで下げ、頭をもたげてきた可愛らしい中心を握る。怯えさせないよう緩く扱きながら跪き、先端を一舐めすると、ひときわ甘い声が上がった。

「ジョルジュさん…っ」
「お前は素直に感じていればいい」
「やっ…こんな所で……」

 幼さの残るそれを、口中に深く飲み込む。頭を上下させながら緩急をつけて吸っていると、がくがくと脚が震え出した。

「ダメ……」

 壁に背を預けたまま、ずるずると力なく床に座り込む。涙声で抗議はするものの、拒絶する素振りはない。恥じらいながらも与えられる刺激を甘受し、高みに至ろうとしている。
 いちど口を離し、下着ごとズボンを取り去ってから、その体を抱き上げソファに座らせた。きっちり並んだ膝頭にキスをして視線を合わせると、顔を真っ赤にしながら自らそっと足を開く。
 膝から脚の付け根までキスをしながらさらに大きく開かせる。唇が肌に触れるたび熱い吐息が漏れ、びくりと内股に震えがはしる。
 中心にたどり着くと、見せつけるように根元から先端までゆっくりと舌を這わせてから顔を埋め、遠慮なく追い詰めた。

「やぁ…あっ…ぁ…ジョルジュさん…ジョルジュさ…ん!」

 ぶるぶると身を震わせながら達するときに呼ばれる自分の名は、この上なく心地好い。うっとりとした気持ちで、苦い露を飲み下した。

 ソファの隣に腰掛けると、身を預けてきた。肩を大きく揺らし息を乱したまま、涙を溜めた目が俺を映す。
 額に一つキスを落としてから背に手を回すと、頭を胸元に擦り寄せてくる。
 もう片方の手で膝を撫でると、指先を絡めてきゅっと握ってきた。

 上気した頬と艶めいた唇、白い肌に淡く色づいた胸の蕾、シャツの裾からのびるしなやかな脚。

 もう、何も知らない子どもではない。
 愛される悦びを知る体。快楽に溺れる心。
 ようやく、ここまで堕とした。

 ただ体を繋ぐのは簡単なことだ。でも、そうしたくはなかった。
 じっくりと時間をかけて少しずつ行為を深め、その無垢な体を快感という甘い毒で優しく蝕んできた。
 俺以外には目もくれないように。自ら望んで、俺だけを求めるように。

「……俺は、お前を傷つけたくない。心も体も」

 こくりと頷き、絡めた指に力がこもる。

「とても大事にして頂いているのは分かります。でもぼくは、早くあなたと対等になりたいんです」
「急ぐことはない。この先ずっと一緒にいるんだ。ゆっくり大人になればいい」
「はい……」

 小さな声で答えると、まだ力の入らない体で、ふわりと抱きついてきた。

「待っていてくださいね」

 胸許で呟かれた言葉に応えるように、ぽんぽんと背中を叩いた。

「また同じようなことを聞かれたら、痛いことはしないけど、気持ちいいことはしていると言っておけ」

 抱き合っている相手の表情は見えなかったが、くすりと笑いを溢しながら、頷く気配がした。

「……大好きですよ、ジョルジュさん」

 計算している訳ではなさそうなのに、こいつはこんなタイミングでこんなことを言う。
 頬に手を添えると、されるがままに、うっとりとした瞳でこちらを見上げる。その表情を見て思い出す。
 初めて会った日のこいつの告白も、キスも、この部屋で、こんな時間だった。
 夕陽の射す薄暗い教科準備室。日常の片隅の、他と切り離されたこの部屋で、俺たちの関係は始まった。

 軽いキスを幾度も交わす。
 それだけで胸は満たされ、熱に浮かされたように頭がぼうっとした。

「愛してる」

 するりと自然に口をついて出た言葉に、腕の中の体が小さく震えた。自分でも驚く。心から溢れる想いが、こんな言葉にしっくり合うなんて。使い古された陳腐な言葉なのに、他に似つかわしい物は見つからない。

「ねぇ、ジョルジュさん…もっと……」

 せがまれたのは言葉の方かもしれないが、気づかぬ振りでキスを繰り返す。
 今はただ穏やかに互いの温もりを感じていたかった。

 もういちど口にしてしまったら、自分を抑えられなくなりそうだったから。



20140517up

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