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■休日

 ドアを開ける音に気づき、読んでいた雑誌を放り出してパジャマのままで玄関まで迎えに行くと、軽く抱き寄せられキスされた。

「えっと……お…おかえりなさい。お仕事お疲れさまです」
「ただいま」
「夕食は、お済みなんですね?」
「ああ。シャワーを浴びてくる」

 今日は土曜日で学校は休みだけど、ジョルジュさんはお仕事だった。
 学校の先生をする傍ら親族の経営する企業にも籍をおいていて、普段はPCや電話を通じて仕事をこなしている。私立の学校だし、理事も了承済みで、特に問題はないらしい。

 ただ、月に一度の役員会議だけは直接会社に出向く必要があり、それが毎月第一土曜日になっていた。会議後の親族との食事会までがセットになっているこの集まりを彼は苦手としていて、帰ってくるといつも気疲れしている様子だった。

 寝室のベッドに二人で座り、湯上がりの彼の髪にドライヤーをかけながら、背後から声をかける。

「お疲れのご様子ですね」
「いつものことだ」
「軽くマッサージしましょうか? ジムでトレーナーさんに教わったんですよ」

 髪を乾かしてから、ベッドにうつ伏せになったジョルジュさんの上に乗る。あまり力は入れないように両手のひらを広く当て、各部の循環を意識しながら、首から腰にかけてさするように緩く揉む。バスローブ越しに感じる背中の筋肉に、ちょっとドキドキした。強張っていたそれが、次第に柔らかくなっていくのを感じる。

「バキッとやらないのか?」
「ちゃんとした知識と技術のない者は、力を入れる施術をしちゃダメですって。強張りを緩めてリラックスさせるのが大事なんだそうです」
「なるほど……温かい手で触れられるだけで心地よいものだな」

 神経質なところのある彼は、他人に触れられることを極端に嫌う。こうして無防備に触れさせているのは珍しいことなのだと、人づてに聞いた。

「きもちいいですか?」
「ん……ちょっと腰を浮かせろ」

 重かっただろうか、と慌てて彼を跨いだまま膝立ちになると、その下で寝返りをうって仰向けになった彼がこちらを見上げる。

「こういう眺めも新鮮だな」

 そう言って、ぼくの腰を両手で支えて、位置をずらし落ち着ける。ちょうどバスローブの下で反応を示しはじめている彼の中心に、パジャマの下で同じようになっているぼくのものが当たるように。

「ジョルジュさん……」
「準備しているんだろう?」
「はい……」

 毎月の定例会の後、“慰労”にと体を求められるのは慣例となっていた。一人で待っている間に、準備を済ませておくことも。
 無理をさせたくないからと、いつもぼくを大事にしてくれている彼の、数少ない我儘。もちろん、ぼくに拒む理由なんてない。そんなことで良ければ、いつだって。

「労ってくれるか?」

 定例会に臨む“壮行”と称して前夜にも抱かれた体は、内に熱を宿したまま彼を求めている。
 恥ずかしさから目を合わせられないまま、ゆっくりと自分でパジャマのボタンを外していくと、彼の昂りが増していく。腰を浮かせてズボンと下着をいっしょに脱ぎ一糸まとわぬ姿になると、我慢できないといった様子で腕を引かれた。
 導かれるまま彼に覆い被さり、互いの中心を擦り合わせながらキスをする。息をつく合間に幾度も呼ばれる自分の名は、とても甘い響きをもち、体の底からぞくぞくと震えがおこる。

「……今日、ジムに行ってきたんだな」
「ええ……昼間は暇でしたから……」
「体は辛くなかったのか」
「軽いランニングだけにしましたよ。クールダウンにストレッチをしていたら、たまたま顔見知りのトレーナーさんが話し掛けてくれて……」
「そうか」

 あれ……?
 顔は笑っているけど、なんだか怒ってる……?
 ぎしりとベッドが軋んだと思ったら、体が返された。彼が身を起こし、仰向けになったぼくを見下ろしている。

「そいつがお前に触れたのか? それとも、お前がそいつに、こんなふうに跨がったのか?」
「ちゃんと服を着てたし、向い合わせに乗ったりなんかしません」
「当たり前だ。冗談でもそんなことをしたら……」
「お、男の人でしたよ!?」
「余計に悪い!!」

 首筋にきゅうっと痛みを感じた。彼が強く吸いついている。

「待って、見えるところには付けないって約束じゃ……」
「恋人がいるってアピールするには見える場所じゃないと意味ないだろう。お前は無自覚だろうが、俺が抱いた後は妙な色気があるんだよ」
「はぁ!? そんなものあるワケないでしょう!」
「あるんだ。もうお前ひとりでジムに行くのは禁止」

 勝手なことを言うと思いながらも、子どもみたいに拗ねた様子は可愛くて、頬が緩む。

「信じてください。ぼくは、あなたしか欲しくない」
「そんなことは知っている。ただの嫉妬だ」

 ちゅ、ちゅ、と音をたてて唇がぼくの肌に熱を灯す。
 ゆっくりとぼくに被さってくる彼の体の重み、その温かさ、すべてが愛おしくて。幸せなのに、なぜだか泣きそうになる。

「ねぇ…早く……」

 ああ、だめだ。視界がにじむ。

「泣くほど、俺が好きか?」

 焦らすように意地悪く口の端を上げながら訊いてくる、そんなところも。

「……好きです」

 彼のバスローブの帯を解き、そこに延ばそうとした手を掴まれ、ベッドに押しつけられた。もどかしさに腰を揺らしてねだったけど、彼はそんなぼくの様子を見つめながら、耳許で低く囁く。

「もっと言え」
「好きです、ジョルジュさん」
「もっと」
「欲しいのは、あなただけです」
「もっと」
「大好きです、ジョルジュさん。ぼくが欲しいのは、あなただけです」

 俺もだよ、という小さな囁きは、空耳かもしれない。
 ぎゅっと抱きしめられてキスされただけで、心臓が爆ぜそうになって、後はもう夢中で覚えていない。
 温かな腕の中で、ただただ繰り返した。

 ジョルジュさん、あなたが好きです。




20140217up

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