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企画TOPにもどる/小ネタ2 TOPにもどる/小ネタTOPにもどる ■いいふうふ 金曜の夕方、最近寒くなってきたし鍋でもしませんか? と言ってみたら、車を出してくれるというので、徒歩で行くには少し遠い大型のショッピングセンターまでいっしょに買い出しに行くことになった。 明日は休みだし、夕飯が多少遅い時間になっても大丈夫。 気の早いクリスマスのイルミネーションに彩られた夜の街のドライブは、ちょっとしたデートみたいで、わくわくする。 「最近は何でも安易にこじつけるんだな」 呆れ気味の彼の声に振り向くと、ショッピングセンターの壁に貼られた『11月22日は、いいふうふの日』のポスター。 そうか、こういうイベントものは嫌いなのか。 新しく知った情報を心の中でメモする。 ガラガラとカートを押しながら並んで歩いていると、お酒のコーナーで大々的に試飲をしているのが見えた。 「ヌーボーですって。赤ワインお好きでしたよね?」 「浅いのは好みじゃない」 「……そうですか」 また、マイナス。あ、さっきのはぼくの発言じゃないから、まだひとつだけか。セーフ……だと思っておこう。 卑屈になるのはやめようと思った。 ぼくなんか、と考えるのは、ぼくを好きだと言ってくれる人に対して失礼だから。 彼が望む以上のパートナーに、いつかなれればいい。落ち込むヒマがあるのなら、そのために努力しようと。 でも、ちょっとしたはずみで、すぐにネガティブのしっぽが出る。 ぼくはまだ未成年だから、お酒の味なんか分からない。 免許だって持っていないから、車の運転も任せっきり。 勢いで告白したぼくを可愛いと言ってくれて、傍にも置いてくれているけど、本音はどうなんだろう。 一緒に暮らすようになって、もう半年になる。 ……考えたくはないけれど、もしかして、もう…… 「肉は、鴨にしていいか?」 「あ……はい! それなら、ネギをたくさん入れると甘みが出て美味しいんですよ。これなんか、ポロ葱みたいでしょ?」 笑顔をつくり、北関東産の有名な極太ネギをカゴに入れる。……ちょっと不自然にはしゃぎすぎただろうか。 「お前、俺といて楽しいか?」 ぽつりと呟く横顔を見上げると、彼は棚に並ぶ食材に目をやりながら、独り言のように続ける。 「俺は学校帰りに一緒にファストフードに寄ったりしないし、同じ映画を見て泣いたりもしない。勉強や将来就きたい仕事の話も、同じ目線では話してやれない。 ……同じ時を過ごしていても、見ているものは、ずいぶんと違うんじゃないか?」 少し前に同級生と下校途中に寄り道していたときに鉢合わせしたことがあった。 中学の頃から部活が一緒の彼女には、れっきとした想い人がいて、しかも相手が教師だから色々な意味でぼくと話題が合うのだと説明したし、ジョルジュさんも納得してくれた。 ただ、お前はまだ16なんだよな、とだけ言われた。この人との距離みたいなものを感じてしまって、なんだか切なくて、そのときは何も返せなかったんだけど……。 「ね……こんなふうに一緒に買い物をしたり、家で鍋をするのって……夫婦っぽくないですか?」 小声で耳打ちすると、彼がこちらを見た。ぼくは精一杯の笑顔を返す。 「ジョルジュさんだって、まだ25でしょ?」 事情を知る人に『ままごと遊び』と揶揄されたことを、気にしていない訳じゃない。 それでも、相手を縛り、傷つけ、奪うのが本物の大人の愛だというなら、ぼくはそんなものは欲しくない。 ただこんなふうに穏やかに、ふたりの時間を重ねていきたいと思う。 たとえば10年、20年が経ったとき、こんなふうに夕飯の材料を買いに出る──そのときは、ぼくの運転で。 そんなありきたりな日々を重ねていくのは、きっととても素敵なことだと思う。 言葉にしない想いを察してくれたのか、ふっと表情を緩めた彼が、むにっとぼくの頬を引っ張った。 「俺はまだ24だ。失礼な奴め。誕生日は来月だ」 「ごめんなひゃい」 舌たらずになってしまったぼくの声に、ふたりで大笑いした。 |