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小ネタ2 TOPにもどる/小ネタTOPにもどる 前置き。 ご面倒でしょうが、とりあえずお読みくださいませ。 *以下の前文に少しでも引っかかった方は、お戻り下さい* 拙作『はだまもり』の師匠一人称バージョンの名残に手を加えました。 師匠とその友人の会話で、弟子本人は出てきません。 いつも以上に話の筋はありません。 私設定満載の上、えちぃ話でもございません。 ……よござんすか? ↓ ↓ ↓ ■危難の海 この先また同じようなことが起きたら──そう思うと胸が締め付けられた。 「あいつの為を思うなら、呼び寄せてはいけなかったんだ」 ぽつりと呟くと、見舞いに顔を見せたはずの友人は、無遠慮にも面白がるような表情を隠そうともしなかった。 「怪我のせいで弱気になったか? まあ、あいつに対しては昔っから過保護だったが……」 「茶化すな。あいつは何の迷いもなく敵の矢面に飛び出した。下手をしたら死ぬところだったんだ」 友人はため息をつき、寝台の傍らの椅子に腰掛けると、低い声で言った。 「──そんなことは覚悟の上だろう。権謀術数のなかに身を置きながら、いつだってお前はそれを遊戯のように楽しんでいるように見えていたが」 「俺は、な」 だがあいつは小国の清廉な王子や厳格な騎士の元で育てられてきた。大国の中枢に巣食う老獪な者どもの悪意や穢い駆け引きに馴れていない。 俺の元にいるということは、戦場以外でも常に危難に晒されるということ。 そして敵を知ろうとするならば、きれいなままではいられない。 「二度の戦役を国主の側近くで過ごした歴戦の騎士だ。敗走の屈辱も、意に沿わない戦いも知っている。もう子どもではないぞ。 それに……今さら手放すことができるのか?」 乳母も、武術の指南役も、俺が親しんでいたが故に遠ざけられた。思想や振る舞いに影響が及ぶことがないようにと。一族の不利益になるやも知れぬ芽はことごとく摘みとられ、いつしか俺は人を頼むことを止めた。 それでも側に残ったのは、俺と似た気風をもつ元許嫁の女騎士と、一族の圧力すら跳ね返した気骨のある男と──俺を師と慕う異国の少年騎士。 「無理だな。何と言われても」 「それなら、観念して早く抱いてしまえ」 意外な言葉に驚きを隠せなかった。 「お前が他人の色事に口出しするとは……」 「騎士団の今後に関わることだからな。生半可な気持ちでいられては困る。 あいつは全て承知の上でここに来ている。お前を信じ、身も心も……命すら預けるつもりで。 覚悟が足りないのは、お前の方だ」 覚悟……か。 「真に豊かな国を目指すんだろう。あの日のお前の言葉を信じて、俺もミディアもここにいる」 ゆめゆめ、忘れるな── 旧友はそう言って部屋を出て行った。 忘れるはずがない。あの方にも誓った、この国の良き未来を。 だが、そのために犠牲にして良いのか分からない。あの真っ直ぐな笑顔を。 「……ああ、そうか」 俺は純粋で素直なあの子どもに惹かれていたんだ。自分の側にいることで、黒く染めてしまうことを厭うていたのか。 欲に任せて触れてしまえば、想いのかたちは変わってしまうのだろう。この輝きを失ってしまうのかもしれない。 ──元には戻りませんよ。 ここに、大きな穴が空いてしまいますから。 いつかのあいつの言葉が思い出された。 俺たちは出会ってしまった。出会う前には戻れない。ならば、前に進むしか手立てはない。 ふっと心が軽くなった。 進み行くは危難の海。だが、強い風に流される黒い雲間からは、眩いまでの日が射しているように感じられた。
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