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■うつつの夢

 繰り返し呼ばれる自分の名前が、甘く耳に落ちてくる。
 彼の唇と指先が体中に這わされ、触れられたところから次々に熱が拡がっていく。

 行為のことを「愛し合う」とも言うけれど、彼のそれはひたすらに陶酔をもってぼくを包むもの。
 ぼくだって、彼を悦ばせたい。望まれれば何だってするのに、彼は何もさせてくれない。
 されるがままに乱され、蕩け、縋る様を、彼は目を細めて見つめている。瞳の奥に青い炎を宿して。

 その笑みがきれいで、胸が締めつけられる。
 ぼくの知らない彼の過去。彼に愛されてきた数多の人たちの存在を思わずにはいられない。

 時が経てば心もうつろう。
 いつか彼がぼくに飽いたら、今度は他の人に同じことをするのだろうか。この人が他の誰かに優しく触れるのを、ぼくは黙って見ていられるのだろうか。

 ただ傍にいたいと願っていた。力を認めてもらい、信頼され、同じ理想を抱き、共に歩んで行けたらと。
 自らの熱を知った今では、それだけでは物足りなくなってしまった。
 もっともっとこの人が欲しい。すべてをこの体に刻みつけてほしい。ぼくがぼくでなくなり、彼の一部になれるまで。
 そうすれば、もう離れることはない。

「このまま、ずっと……」

 軽く触れ合った唇から漏れた言葉は、ぼくの心? それとも彼の?
 繋いだ手に力を入れたら、応えるように口づけが深くなり、あとはすべて夢の中だった。

 ひとつになる。
 そんな、甘い夢だった。

 

 

 “愛している”

 魔法が解け、夢から覚めてしまいそうで、どうしても口にできない言葉。
 その代わりに想いをこめて名を呼び、体中に口づける。
 名を呼ぶたび、肌に触れるたび、甘い吐息が漏れ、睫毛が震える。潤んだ瞳に俺だけを映し、もっともっとと求めてくる。
 俺の想いに全身で応えてくれているような感覚に、胸が熱くなる。

 こいつも男だ。いつか今の立場に不足を感じるようになるかもしれない。己の信念に従い自ら身を興し、袂を分かつ日が来るかもしれない。
 そのとき俺は、笑って見送ってやれるだろうか。
 師として弟子の独り立ちを心から祝福してやれるだろうか。

 その力量はとうに認めている。
 それでも手元に置いておきたいと願うのは、本人の希望でもあるが、ひとえに俺の我が儘だ。
 どこにも行くな。傍にいろ。
 幾度か伝えた言葉が、呪縛になっているのだろうか。

 何より愛しいその魂。その在処であり、俺だけを求め、受け入れる体。どちらが欠けても今ほどの充足は得られまい。
 それでも、その心を壊してしまいたくなる。
 俺はこいつの生涯を預かるに足る器ではない。
 こいつがそのことに気づく前に、退路を断ってしまえれば……。

「このまま、ずっと……」

 軽く触れた唇から零れた声は、俺のものか、こいつのものか。
 繋いだ手が強く握られたのを合図に口づけを深くすると、細い体が悦びに震える。
 その肌に触れるだけで、愉悦の混じる声を耳にするだけで、自分の中にも沸き上がる悦び。

 ひとつになりたい。
 互いの境目すら分からなくなる瞬間を求めて、次第に繋がりを深くしていく。
 夢か現か、確かにそれはあったのだ。



  • うちの師匠はこういうとき、弟子を超甘やかしてます。ハタチを超えるまで手を出せないくらいに、大切に大切にしてましたから。
    イロイロするのは、もーちょっと後のことです。

20150119up


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