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小ネタTOPにもどる ■ひとつの望み 目を開けると、寝台の傍らには彼がいる。 ぼくの頭を撫でていた手が頬に添えられ、大丈夫か、と問われた。 答える代わりに、まだうっすらと汗ばんでいる彼の首筋に顔を埋めて口づけながら、その匂いを胸いっぱいに吸い込む。 そんなぼくを、仔犬のようだ、とからかいながら、彼は目を細める。 「……お酒を召されると、いつもと違う匂いになりますね」 「酒臭いか?」 「今は少し甘酸っぱい匂いが混じっていて、ぼくまで酔ってしまいそうです」 ぼくの頭のてっぺんに彼が軽く口づけ、そのまますんすんと匂いを嗅ぐ気配がする。 「お前は、石鹸と日向の匂いだな」 「すぐそうやって子ども扱いする」 笑う彼に頬をつつかれる。 ぼくは感情が顔に出やすいらしく、不機嫌なとき頬をふくらませる癖があるそうだ。 「日だまりにいるような気持ちになる……幸福な情景の象徴じゃないか」 「じゃあ、いま、幸せですか?」 「ああ。お前が傍にいるだけで、心が満ちる」 どうしていつもさらりと気障なことを言うんだろう。しかもそれが無理なく似合っているから、こちらは何も返せなくなる。 きっとぼくの頬は赤くなっているんだろう。頭がぼうっとして、胸がどきどきする。 彼は肘をつき体を起こしてこちらを伺っている。 とびきりの笑顔だけど、口の片端だけが少し上がるのは……ぼくの表情を確かめているんだ。そして予想通りの反応に満足しているらしい。 いつだって必死に背伸びをしているぼくに比べて、彼は余裕綽々だ。 悔しいけれど、しかたがない。 だってぼくは、意地悪なところもひっくるめて彼が大好きで、こんなふうにからかわれることさえ内心では嬉しくてたまらないんだから。 「傍にいるだけで……ご満足ですか?」 指先で金の髪を一房すくい、恭しく口づける。 「誰よりもあなたを幸せにすると誓った言葉に、偽りはございません。他にお望みは?」 「言ってもいいのか?」 「何なりと」 薄く笑う彼が、ぼくに覆い被さってくる。 「傍にいろ──望むことは、それだけだ」 その指が、ゆっくりとぼくの肌をなぞっていく。 漏れてしまう自分の声に、震えを抑えることもできない体に、恥ずかしさがこみ上げて、ますます頭に血がのぼる。 「俺が何をしようと、そのことで他の誰が何を言おうとも……だ」 すっかり手懐けられた体は、ほんのわずかの刺激でも簡単に高められていく。ぼくは熱に浮かされながらも、今まで何度も繰り返してきた誓いを口にする。 「ぼくはずっと……あなたのそばに……」 温かな唇にふさがれて、最後まで言うことはできなかったけれど、肌を通して伝わる彼の熱が、同じ想いを抱いているのだと教えてくれていた。
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