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前置き。
ご面倒でしょうが、とりあえずお読みくださいませ。
*以下の前文に少しでも引っかかった方は、お戻り下さい*
モノローグの内容が、ちょっと黒いです。キャラ性格崩壊ってやつ?
シーン自体は飛ばしておりますが、間に性的な行為をした前提で後半の話をすすめております。
弟子に憧れている設定の捏造キャラクターが出てまいります。しかもそいつの一人称パートもアリ。
……よござんすか?
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■うさぎ
かわいそうに、と彼が言った。
我々が到着するまでならず者を相手に果敢に闘い、命を落とした農夫の弔いの場だった。
幼子と手を繋いだ農夫の妻は、涙も見せず気丈に背筋を伸ばし立っていた。少し離れた場所からその情景を見て、誰にともなく呟かれた一言だった。
そうですね、とだけぼくは返した。
彼の平坦な口調と表情から、その「かわいそう」という言葉にこめられた意味はぼくが口にするそれとは大きく異なるもので、この人とぼくはこんなにも違うのだとまざまざと思い知った。
誰かが言っていた。「彼の同情心は偽りではないのだろうが、明日たべられるうさぎを見て抱くのと同じ程度の感情なのだ」と。
どちらが良いとか悪いとか、そういう話ではない。ただ違うというだけだ。
そしてぼくが彼の心を完全に理解することは敵わない、というだけのことなんだ。
「どうした?」
表情を読んでか、彼がぼくに問いかける。
この認識の差異に彼が気づくことはないだろう。彼の目には、ただ不安気に彼を見る彼の世界の一要素であるぼくが映るだけで。
彼の中に、それらは等しく存在しているのだ。うさぎも幼子も、このぼくも。
「いいえ……なんでもありません」
誰より理解したいと思っているのに、知るほどに埋められない距離を感じてしまう。
こんなに近くにいるのに、この人はあまりにも遠い存在だ。
僧侶による安らかな眠りのための祈りが終わり、埋葬が始まった。最初の土が屍衣にくるまれたその体に掛けられたとき、糸が切れたように農夫の妻はその場にしゃがみ込み、嗚咽を漏らした。
そのとき、隣に立つ幼子が、そっと母親の頭を撫でた。母親の涙の意味も、自分の置かれた状況も知らず、いつも自分が泣いたときに母親がしてくれることを、ただ真似たのだ。
「人というのは……強いものだな」
意外な言葉に彼を振り仰ぐと、その目はわずかに潤んでいて、たったいま見た情景に心を動かされているのが分かった。
親が子を、子が親を労わる。ぼくにとってはあたり前のことだったのに。
胸の奥がぎゅっと痛んだ。苦味をともなった、甘い痛み。
同じことじゃないか。誰にとっても、誰かを完全に理解し同化することなどできはしない。そして、どちらが正しいということもない。
時折こんなふうに垣間見えるこの人の純粋な一面は、ぼくにはとても愛おしく感じられる。
「そうですね」
それだけ返すと、彼の頬に手を添えた。
ぼくは知っている。この人の幾重にも押さえ込まれた心の奥には、熱い感情があることを。ぼくとは違う、怒りと悲しみと願いの色を秘めていることを。
それでも、こうして隣に立つことが許されるのならば──
どうかこの手が彼を支える力になりますように。温もりと想いを、少しでも彼の心に伝えられますように。
頬に添えたぼくの手に、彼の指が絡められた。そのまま口許に引き寄せられ指先に軽く唇が触れる。
熱のこもった眼差しにひとつ頷き返すと、ふっと表情を緩めてから彼はぼくの手を離し背を向け歩きだした。
少し距離をあけてその後を追いながら、ぼんやりと考えた。
食べられる前の、うさぎの気持ちのことを。
目覚めると天幕の外はまだ明るかったが、やや陽が傾き始めた刻限のようだった。
抗い難い眠気に負けて、少しうとうとしてしまったようだ。
傍らに眠る見馴れた寝顔は安らかで、先刻その身に強いたことを思い返すとすぐに起こしてしまうのは忍びなく、目覚めさせないようにと静かに身を起こした。短期の遠征用の簡易寝台は軋む音をたてたが、戦いが終わった後の安堵も手伝ってか、一向に目覚める気配はない。
目尻に残る涙の跡を見てとり、決して苦痛のためだけではないはずと自負しているが、それでも居た堪れない気持ちになる。額にかかる髪を梳き上げ、ひとつ口づけてから寝台を降りた。
──かわいそうと憐れむ気持ちと、愛しいと慈しむ気持ちは、とても似ていますから、間違えてしまいがちなんですよ──
いつのことだったか、こいつの呟いた言葉が浮かんだ。
きっかけはどうあれ起こす行動は同じだというのに、なぜそんな違いを気にするのかと不思議に思ったのを覚えている。
服を羽織り天幕から顔だけをのぞかせ、外に立つ歩哨に、手水鉢に湯を用意してくれ、と声をかけた。
顔を赤くして上ずった声で返事が返ってきたことから、声は外まで漏れていたようだと知る。
それとも、こいつは俺たちの関係に感づいている奴だったか。確か勘が良いと評されていた。目と耳が良く、感性が柔軟なのだろう。団長の天幕の警備を任されるからには、腕もたつに違いない。
衣服が擦れ、肩に軽い痛みを感じた。咬まれた痕だ。
繋がるとき、声を出すまいと口を覆っていた手をとり寝台に押しつけ、わざと乱暴に苛んだ。乱れる呼吸と堪えきれずに漏れる声、そして羞恥に染まる顔を堪能した。
深く自身を埋めながら肩に相手の歯が当たるのを感じていたが、食いちぎられても構わないと、そのときは思った。そうされても仕方がないほどに強く責め立てたのだが、幸い僅かに血の滲む歯形が残るばかりだ。
そんな傷を見ながら、自分の口許は緩んでいる。
行き過ぎた激しい行為は、決して拒むことなく俺の何もかもを淡々と受け入れるこいつへの、悪戯であり挑戦だった。時折こうして度を超えた要求を突き付けては、容れられるのを確認し、安堵する。その証として残った傷は、束の間だが不安から解放してくれた。
俺はこいつを失うことを怖れている。だからこそ普段とは違う乱暴な愛し方をしてまで、俺への忠信を確かめずにはいられないのだ。我ながら矛盾した理屈だとは思うが。
湯をお持ちしました、と天幕の外から声がかかる。遠慮がちに入ってきた先ほどの歩哨は、持ち手のついた木桶から手水鉢に湯を注ぎながら、しきりに衝立の後ろの寝台の方を気にしているようだった。
なるほど。あいつのことが気がかりか。
「疲れて眠っているだけだ。心配ない。いつものことだからな」
笑顔で釘を刺すと、心中を読まれたことを察したか、一層顔を紅潮させ慌てた様子で一礼して退出していった。
湯に浸した布を絞り、眠る相手の涙のあとを拭き取っていると、ゆっくりと目が開いた。
「すみません……後で傷薬をもらってきますから……」
すぐに目についたらしい自らの咬み痕を、指先でそっとなぞる。
「さすがに治療の杖を使わせるのは気が引けるな」
「誰の歯形かと問われますよ」
「分かりきったことだろうにな」
もう、と拗ねるような諫めるような声を出した後に、弟子はふっと笑った。
「戦争が終わったら、あなたは何もかも棄てて出奔されるんじゃないかとも思っていました。自由な生き方に憧れていらしたから……」
そんな道を選んだ者もいた。でもそれは、全てを棄てないことには得られないものを欲していたからだ。あの方が望まれたのは、ただひとつの想いを貫くこと。
「──自由というのは、何も持たないことじゃない。欲しいものを心のままに求めることだろう? 力を手離しては届かなくなるものもある」
「あなたらしい考え方ですね」
自分でやります、と俺の手から布を取り、寝台に身を起こし自ら体を浄める弟子の仕草をぼんやりと眺めた。
伸びやかな若い肢体。滑らかな肌に残る愛撫の痕は、未だ赤みをもって生々しく、恍惚の余韻が甦る。
こちらの視線に気づき俺を見上げた瞳は、静かな炎を湛えている。その熱に惹き付けられるように、頬に手を添え口づけた。
「お前は、俺のものだ」
「ええ。ずっと、お傍におりますよ」
ただ従順に俺の傍にいるこいつに、魅入られ、溺れ、手離せなくなっているのは、こちらの方ではないか。
追われているうさぎは、どちらの側なのだろう。
身も心も食い尽くされるのを望んでいるのは、俺の方ではないのか?
ずきりと肩の刻印が疼いた。
「あの方は、ひどいと思います」
遅い時間の食堂で、先輩騎士と偶然いっしょになった。互いに仕事の疲れを引きずり、とりとめのない会話をしながら差し向かいで食事をとっていて、気が緩んでしまったのだ。
うっかり零してしまった呟きに、彼は小さく笑って言った。
「ちょっと意地悪だよね。でも、性格が悪いのはぼくの方かも」
「あなたは優しいじゃないですか」
「君にはそう見える?」
いつもと同じように穏やかに微笑む彼の顔に、なぜだか背筋がぞくりとした。
「……少なくとも自分には、優しく接してくださっています」
「そうすることが却って残酷だと知っているのにね」
「自分は何も望んでいません。こうしてときどき話ができれば……それだけで……」
「うそだ」
くすくすと笑いながら、彼の目が細められる。
「それは、ぼくを困らせたくないから? きみは、いい子だね……ううん、いい子であろうと、頑張っているんだ。ぼくも以前はそうだった」
「今は違うんですか?」
「そうだねぇ……平気でずるいことができるようになったかな。大人になった、っていうのとは違うかもしれないけど」
あつものの最後のひとさじを口に運び、そのまま首を傾げて考える仕草は、年長の上官に対して失礼な感想だとは思うが、どこか可愛らしい。
木匙をくわえた口許に、つい目がいく。唇と、ちらりと覗く舌にどぎまぎしてしまい、慌てて目を逸らした。
「誰にとっても揺籃の師は特別な存在だと思うけど……ぼくのあの人に対する気持ちはそんなにおかしいのかな」
その関係は、二人が出会って間もない頃、この人がいたいけな少年であった時分からだと噂されている。すべては双方合意の上での愛の交歓だと理解しているつもりだが、それでも──申し訳ないことだけど──どうしても“師匠の毒牙にかかった哀れな弟子”のように思えてしまう。自分がそう思いたいだけなのだけれど。
例えどれだけ可愛いがっている弟子だとしても、一回りも下の同性相手にあんなことを強要するものじゃない。もしも自分なら、ひたすら優しく愛するのに……。
こんなことを心中で毒づいてしまう自分はばかだと思う。分かっている。これは身の程知らずでお門違いな嫉妬だ。
「きっとあの方が特別なんでしょう」
「ああ……そうか。そうだよね」
自分なりの皮肉を込めたつもりだったのに、先輩は意味を取り違えたらしい。かの人の美しい面差しを思い浮かべてか、頬をほんのりと染めて相好を崩す。
「ご馳走さまです」
胸が苦しくて、つい嫌味のように付け加えてしまったが、先輩は不思議そうにこちらを覗きこむ。
「それ、残すの?」
こちらの皿の上に残る一粒のイチゴを指差して尋ねられた。
「え? あ……」
笑顔の先輩が、あーんと口を開く。白い歯と赤い舌が覗いていた。
言い訳をする気にもなれず、指でイチゴをつまんで先輩の口に入れると、嬉しそうにもぐもぐと食べる。まるでうさぎに餌をやったときのように、ただ幸福な気持ちでその口の動きを眺めていた。
「ありがとう、ご馳走さま」
食べ終わると、先輩は盆を手に立ち上がる。厨房に続く小窓に食器を返し、食堂の戸口でいちど振り返った。そして片目を瞑る。
「──ね?」
こちらの顔は盛大に赤くなったに違いない。表情を隠そうとして無意識に自分の口を手で覆うが、指先にはイチゴの甘酸っぱい匂いと微かに触れた彼の唇の柔らかさが残っている。頬が一層熱くなった。
「確かにあなたはずるいですけど……これは大人っていうのとは違うと思います」
「だから、そう言ってるじゃない」
おやすみなさい、良い夢を。先輩はひらひらと手を振りながらそう言うと、かの人の待つであろう部屋に帰っていった。
- 生活の中の宗教観とかよく分かりませんが、村人はたぶん土葬ですよね。王族なら霊廟とかありそうですが。
- あんまりオリジナルキャラで話を広げたくないのですが、この歩哨は拙作『彼のひとの我を呼ぶ』の新兵です。ゴードンに憧れてる設定。
ライアン以外にも一人くらいはゴードンのこと気に掛けてくれる人がいたっていいじゃない!(血の叫び)
- 「後輩が最後にとっといたイチゴをゴードンが横取りするだけの話」……身もフタもありません。恥の上塗り。なぜ足したし。
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