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■永遠の礎

 騎士団の練兵場で指導をしていると、団長がお呼びだと使いの者がきた。執務室に出向くと、渋面で佇む騎士団長に卓の上を示される。故国の紋章がちらりと目に入った。

「王からの書簡ですか……?」
「賊の討伐に兵を借りたいとさ。さすがに騎兵は足りているらしく、弓と剣を使う者を中心に……遠征の隊長にはお前をご指名だ」

 封蝋には王家の紋章。国王としての正式な要請だ。書記官の手により羊皮紙にしたためられた簡潔な文章の中から、気がついたことを挙げていく。

「この地方は山がちな地形なんですよ。馬では進めない道もあります。敵方には森に身を潜めて弓を使う者が多いでしょうから、歩兵は多いほど良いでしょうね」
「わざわざお前が出向く必要があるのか?」
「最善だと思いますよ。土地勘があるので作戦も立てやすいでしょうし……戦地となるこの地方特産の果樹への被害も抑えられます。収穫が終わるのを待って、この季節になったんでしょうね」
「たかだか果物のために、この時期に俺からお前を取り上げるのか」

 ここに至って、ようやく不機嫌の理由に気づき、思わず笑ってしまう。彼はますます眉間の皺を深くした。

「ご存じなはずです。農民にとって耕作地は大切な財産だと。冬至まで、ひと月近くありますよ。そのころには帰ります」
「久しぶりに故郷でのんびり過ごして来てもいいんだぞ」
「お土産に極上の果実酒を手に入れてきましょう。薫り高く酒精も強い逸品を」

 表情が緩められたのを見計らって、推察を付け加える。

「賊の討伐にしては不自然なほど大がかりです──初陣を、お考えなのかもしれません」
「王太子殿下の? もうそんな歳になるか?」
「まだ十四、五のはずですが、賊の討伐程度でしたら問題はないかと」
「確かにお前なら、経験の浅い王子の補佐もそつなくこなせるだろう。猛牛団長のように萎縮させることなく……な」

 いかに英雄王と謳われていても、それはマルスさまお一人のこと。時が経ち、あの戦いを知る者が世を去った後に、必ずや乱世は訪れる。
 そうならないために力を保ち、象徴として誇示していかねばならない。英雄の血と、各地に根付きつつある新たなる正しき力の潮流を。

「我々には夢物語に過ぎない話ですが、あの方にとっては明日の先につながる現実なんです。千年、二千年後までの平和を誓った友がおられますから……」
「千年どころではない。永遠だ。まさに生ける伝説──パレスに住まうあの竜族の少女にしてみれば、我々の一生など、ほんのひと瞬きなんだろうな」
「そのひと瞬きの、さらに何百分の一です」

 片膝をつき頭を垂れ、最敬礼の姿勢をとる。

「どうかしばしのお暇を。たとえ後の世には忘れられ消えていくとしても、我々の働きが永遠の平安の礎となるなんて、素敵だと思いませんか?」
「……分かっている。暇乞いなど必要ない。正式に依頼された、大事な役目だ」

 ふう、と諦めたように短く息を吐き、淡々とした口調で指示が出される。

「弓隊からの兵の選出は任せる。傭兵隊にも話を通してあるから、本日中には人員を決定して各機関とも予定を調整してくれ。特に工兵の技術と兵站の機構はうちの売りだ。洗練された手腕を見せつけてこい。出立は明後日の朝だ」
「了解しました」

 一礼して退出しようとすると腕を掴まれ、もうひとつ最重要の案件だ、と耳元で小声で言われた。

「今夜、俺の部屋に来い」
「了解しました。……言われずとも夜襲をかける心づもりでしたけど。うちの弓隊は機動性も売りですからね」

 間近で目を合わせて笑顔で告げると、本当に頼もしくなったものだな、と呟きが返ってくる。師匠のご指導の賜物ですよ、と言うと、約束代わりの軽い口づけをひとつ交わした後に解放された。
 扉に手をかけ名残惜しさに振り向くと、愛しい人は小さく笑って、俺の気が変わらんうちに早く行け、と言った。



  • なにげに会話に混ぜ込んで書いてしまいましたが、マルスさまの子どもが初陣ってことは、若く見積もっても弟子が三十代半ば、師匠は四十代ってことになります…。ひあー
20121201up


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