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小ネタ2 TOPにもどる/小ネタTOPにもどる 前置き。 ご面倒でしょうが、とりあえずお読みくださいませ。 *以下の前文に少しでも引っかかった方は、お戻り下さい* 弟子のかつての主君と師匠の会話で、弟子本人は出てきません。 会話の内容が、ちょっと黒いです。キャラ性格崩壊ってやつ? いつも以上に話の筋はありません。 ……よござんすか? ↓ ↓ ↓ ■月のない夜 晩餐会が終わり部屋に戻ると、ああ、肩が凝ったと言いながら目配せをして、妻は早々に寝室に引き上げ、ややあって侍女が退出していった。 自分も部屋着に着替えてから、今日はもういいからと従者を下がらせ、以前は国王の執務室として使われていたという前室でひとり寛いでいると、突然の訪問を受けて驚いた。後で来ると聞いてはいたが、壁の姿見の大鏡を扉のように開いて現れたのだから、驚くなという方が無理というもの。 「隠し階段で階下に繋がっております。歴代の王が執務の合間に愛しい人と会うための部屋でした」 「誰でも入り込めるのでは意味がないな」 「その点はご安心ください。長らく使われていなかったので知る者は少なく、入る術を持つ者はさらに僅か……」 ──今では、私だけですよ。 そう言って礼の姿勢をとる様は、いかにも貴族然として優雅で麗しい。 「随分と生き生きしているね」 「自分は政治屋であって、戦争屋ではなかったのだとつくづく痛感しております」 「頼もしいな。今まで以上に重用すべしということか」 「私ごときが、滅相もございません」 半ば心を預けていながらも、緊張感のある腹の探り合いになるのはいつものこと。こう見えて海千山千のこの人物には、かなり世話になっている。もっとも、利害の一致を見ている今のところは、だけど。 万が一を考えて代名詞で、ときには筆談を交え手短に用件を伝え合う。そしてこれから起こす行動ひとつひとつの時期ときっかけの刷り合わせ。会談は時間にすれば、ほんの数分の一燭だけど、この先数十年の大陸の未来が懸かっている。 一通りの話を終え、息をつき、傍らの酒杯に手を延ばす。筆談に使った紙片で燭台の炎を拾い暖炉に投げ入れる彼の鮮やかな手つきを、ぼんやりと眺めながら話し掛けた。 「……あの子とは、随分と懇ろになったようだね」 暖炉を覗き込み燃えさしが残っていないことを確認した後に振り返った笑顔には、小さく揺らぎの色が挿していた。一番の弱みを握っているのは、こちらのようなので、手札は有効に使わせてもらうことにする。 「まさかあんな冗談を本気になさるとは」 「でもこちらに寄越してから、しばらく経つしねぇ……」 「理不尽な奉仕を強要してはおりませんよ」 「だろうね。あの子は君のためなら喜んで何だってするさ。それでも大事にしてくれると思ったから泣く泣く譲ったんだ。辛いことがあったら、すぐに帰って来るようにとも言ってあるけど」 不粋だとは思うけど、と前置きしてから、さっきの人は危険じゃない?と問い掛けると、あの家はあと5年の後、今の当主が亡くなって間もなく絶えることになっています、と笑顔で答えが返ってきた。跡継ぎを亡くされて失意の晩年を病床で過ごされた後にね、と。 「可哀相に」 「財の大半を失う程度の緩やかな不幸に見舞われるだけの運命でしたものを──貴方の忌諱に触れたのでは、致し方ございませんね」 君の、だろう?と言うと、艶然たる笑みだけが返された。 「まったく君は頼もしいね」 「お褒めに与り光栄です」 敵方でなくて良かったよ、と、ため息とともにしみじみ呟いた。 「ぼくは戦争屋でも政治屋でもない。平和な日常が続くことだけが望みの、平凡で温和な人間だからね」
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