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小ネタTOPにもどる ■声 広い背に身を寄せ、束ねられた金髪に顔を埋める。身長も肩幅もぼくより大きいのに、その腰は細くて、手を回し抱きしめるのは容易だ。 「どうした?」 普段の会話と変わらない調子で返された言葉なのに、背中に耳をつけているからか、その声は頭の奥に甘く響く。 「もう少し、このままでいさせてください」 「構わんが…どうにも手持ち無沙汰だな」 器用なことに後ろ手にこちらの腿を撫でてくる手を、指を絡めて制止する。 「だめ。じっとして」 同様に半分骨を通じて頭に響く自分の声は、諌めるつもりで口にしたのに子どもっぽく拗ねたようにしか聞こえなくて、なんだか悔しい。 少ししてから、身を離した。 何だったんだ、と不思議そうに問う師匠に申し開きをする。 「今日は一日、別行動ですよね」 「そうだな」 「ですから今のうちに……温かさとか匂いとか、自分の中に貯めておこうかと思って」 「夜には会えるだろう。そんなにすぐに忘れてしまうのか?」 「お守りみたいなものです」 こんな説明で分かってもらえるか怪しいものだったが、師匠はなるほどと呟いて、ぼくの頭に手を回し肩口に引き寄せる。 「じゃあ俺は声をもらって行こう」 「声? ……あ……んっ」 いきなり脇腹を撫で上げられ、変な声を零してしまう。動揺と恥ずかしさを隠して、師匠の耳元に唇を寄せた。 「続きは夜にお願いします」 囁いてから、耳を塞ぐように柔らかく唇を付けると、強く抱きすくめられた。 「なるほど、これは加護がありそうだ」 「ま……毎日は無理ですよ」 「そうだな。御利益が薄れそうだ」 これからも時々は頼む、と一際低い声で耳元に囁かれてどきどきした。 ふたり共に過ごす日々には、こうして小さな約束が降り積もっていく。甘やかな義務に戒められるのが心地良く、遊戯めいた提案が次々とされては果たされていく。 とは言え、そろそろ朝食の刻限だった。身を離そうとする刹那、視線が合い、どちらからともなく唇を重ねる。 交わした約束のよすがに。互いの想いを伝えるように。 こんな時が続けば良いと、心から願った。 叶うことなら、別れの訪れる、その日の朝まで。
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