|
小ネタTOPにもどる ■朝の光 この人の腕の中で目覚めるのは、初めてのことではなかったけれど。 今までだって、数えきれないほどの抱擁と口づけを交わしてきたのだけれど。 直に触れる温かな肌の感触と、熱を残して疼く自分の体が、昨夜のことは特別なことだと確かに証立てていた。 幸せで、幸せで、忘れてしまいそうになる。 この人には、ぼくなんかよりも大切なものがあるということを。 その道を歩むために、支え導くことこそが、ぼくが傍にいられる理由なのだということを。 それはひとり密かに誓ったこと。もう幾年も朝な夕なに祈りつづけてきたこと。 微かな寝息をたてる口許に顔を寄せる。 どうか、あなたが幸せでありますように。 その道を光が照らしますように。 ぼくのすべてを捧げますから。 祈りと共にそっと唇を重ねると、彼は薄く目を開けた。まだ早い、もう少し寝ていろと、いつものように微笑んでぼくを抱き寄せる。 胸の痛みに息が詰まり、涙が滲んだ。 彼は気づいていたはずだけど、ただ黙ってぼくを抱いていてくれた。
夜はいい。暖かな闇の中なら互いの熱だけがすべてだから。 ──だから、朝が訪れるのが怖かった。 朝の光の中で、こいつは己の選択を悔いるのではないか、俺を遠ざけようとするのではないか、そう思うと眠れなかった。 大丈夫だ、こいつの俺への信頼は変わりはしないと思いつつ、寝顔を間近に見るのも最後になるかもしれないと考えただけで心が震えた。 こいつが時折浮かべる表情に、不安になる。 心に何かを決めていて、俺の、自分の気持ちすら無視して何かを遂げようとしているように思うから。 夜明けが迫り。聞き慣れた穏やかな寝息が次第に浅くなり、目覚めが近づいたのが分かる。 目を瞑り呼吸を鎮め空寝をしつつ、昨日と変わらない朝を待つ。 共に過ごす日々が続くようにと、それ以上に欲しいものなど俺にはないのだと、気づいてもらえることを願いながら。 神など信じてはいないが、祈るとはこういう心持ちなのだろう。
|