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小ネタTOPにもどる ■不器用 武具の手入れをしていた弟子が、うっかり手に怪我をした。大した傷ではなかったが、弓使いにとって手指の不調は命取りだ。念のため治療者のところへ向かわせた。 「珍しいこともあるものだな」 同じ場で共に作業をしていた新兵──弟子の弟──に話し掛けると、予想もしていない答えが返ってきた。 「新しい工具を試していたようですし……兄さんは不器用ですから」 あいつは何事も手際よく進めるから、実の弟をしてこう評されたのは正直なところ意外だった。 「そうか? 得手不得手はあるが、大抵のことは人並以上にできるだろう」 「そうですね。そこが兄さんのすごいところなんですけど……」 何事も、はじめは失敗を繰り返すらしい。だがそこで諦めず、ひたすら練習するそうだ。それこそ無意識に動けるように、体で覚えるまで。 そして思い出し笑いを堪えながら語られる、幼いころの逸話。今の今まで本人から聞かされたことがないということは、おそらく俺には知られたくなかったであろう盛大な失敗の数々。 ひとしきり笑いあった後、少年は居住まいを正し、真面目な表情を浮かべた。 「いま兄さんができること全てが、努力の証なんです。本当に……尊敬します」 相槌を打ちながら、ふと頭を過ぎる。毎朝の俺の身支度をあいつがてきぱきとこなしていることを。見習いとして赴いていた騎士の元で習得したと言っていなかったか? ──不慣れな手つきの不器用な子どもに毎朝の髭剃りを委ねてくれた寛容で辛抱強い騎士に、心から感謝した。
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