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■燠火

 師匠の寝所に招かれた。

 そう言うと色めいた話のようだけど、実際はそんなことは全く無く、ただ同じ寝台で添い寝をしただけで。
 さすがに緊張していたのに、数日振りに知った人に会えた安心感が勝ったのだろう、旅の疲れも手伝ってよく眠れた。

 寝床を共にする人がいたからか、昔の夢を見ていた。
 遠い国では戦いが始まっていると旅の商人から聞かされていたけど、まるで別の世界のように故郷の村は平穏で。
 あの頃のように弟といっしょに眠りについたと思い込んでいたから、目が覚めて驚いた。息がかかるほど近くにあるのが、師の寝顔だということに。
 自分がどこにいるのか思い出し、昨晩のやりとりを思い出し、間近で寝息をたてている人の存在に改めて戸惑う。

 窓の外はまだ薄明の空なのに、久々に熟睡したせいで妙に目が冴えてしまった。
 身を起こして、傍らに眠る人の寝顔を見つめる。

──どうにも人肌が恋しくて
──ご婦人を招待した

 昨日はその言葉の指す意味を深く考えなかったけど、この人にとって誰かと寝るのは、珍しいことではないんだろう。
 今は特定の相手はいないような口ぶりだったけど、戦争も終わったし、王族のご成婚の祝賀気分に巷は湧いている。彼の家柄や年齢を思えば、縁談が進んでいても不思議はない。そして、そんなことをいちいちぼくに報告する義理もないんだ。

 貴族の婚姻は、個人の感情の問題じゃない。家同士の繋がりや、財の継承に重きがおかれる。直系の継嗣がいないと、所領の統治権すら危うくなるのだから、子をつくるのは当主の義務だ。
 それでも彼の性格ならば、望まない縁談などはねつけるに違いない。もしも話が進んでいるとしたら、それは彼も合意しているということ。

 これからの人生を共に歩むに値すると彼が認める相手──それはどんな人なんだろう。

 ちくりと胸が疼く。

 彼とぼくは師弟というだけの間柄だ。
 尊敬する師が、幸せな人生を送るべく選ぶ女性。その人に対してぼくがやきもちを焼くなんて、おかしなことだ。
 そもそも彼はぼくのものじゃない。
 分かっているのに、なぜだか彼を取られるように感じてしまうのは、ぼくがまだ子どもだからだろうか。

「……もう起きたのか?」

 不意に声を掛けられ、どきりとする。
 彼が薄く目を開けてこちらを見ていた。

「なんだか目が冴えてしまって……」

 呟くぼくに手を伸ばすと、抱き寄せる。

「まだ早い。寝ていろ」

 まるで聞き分けのない子どもを諭すように、腕の中に閉じ込められる。
 彼はすぐに眠ってしまった。身じろぎもできないまま、ぼくはどきどきしていた。

 こんなに近く接したのは久しぶりで……あれは戦争中のこと。
 今は、敵の急襲の恐れもなく、暖かい寝台の中で、大好きな人の腕の中にいる。
 この現実の方が、まるで夢みたいだ。

 そっと彼の胸元に頬をすり寄せた。その温かさに、くすぐったい気持ちがこみ上げる。
 昨晩は添い寝を要求する彼を甘えん坊だと思ったけど、自分だってずいぶんなものだ。こうして触れていられるのが、こんなに嬉しいなんて。

 さっきの会話……彼は少し寝ぼけているようだった。もしかしたら、恋人と間違えているのかもしれない。だって、寝床で抱きしめる相手なんて、他には考えられない。

 眠っているはずなのに、時折、彼の手がぼくの頭や背中を撫でる。
 嬉しいけど、少し淋しい。
 彼にこんなふうに優しく触れられている人がいるんだと思うと、胸の奥の疼きが強まる。

 戦争に勝利し、故国は敬愛する主君のもと復興の道を歩んでいる。憧れの騎士に弟子入りが叶い、国を越えて学ぶ機会にまで恵まれた。
 これ以上、何を望むというんだろう。
 誰よりも近くにいて、いつも触れて、触れられていたいって……?
 自分の心に気づき、どきりとする。違う、自分はそんなことは望んでいないと否定してみるけれど、いちど点いた火は消えない。
 知らなかった。こんな分不相応な独占欲を、ぼくは抱いていたんだ。胸の奥でくすぶる熱を感じる。
 ようやく弟子にしてもらったばかりの若輩者が、師と仰ぐ人を独占したいだなんて、おかしいじゃないか。

 どうしてそんなふうに思ってしまうんだろう。
 同じように尊敬する王子に婚約者の姫君がいることは、嬉しく思うのに。先輩騎士が結婚して騎士団を去ると聞いたときにも、淋しくはあったけど心からおめでとうと言えたのに。
 それでも、この人とその想い人を見れば、きっと、あきらめられるだろうから。
──あきらめる……誰よりもこの人のそばにいたいと願うことを……?

 今だけ。
 こうして傍にいることが許されている間だけは、甘えてもいいよね……?

 自分の気持ちを抑えられないまま、流れる金髪に口づけた。



  • 拙作『添い寝』の翌朝、ぐるぐるしてるゴードンの話。この執着心を、行き過ぎた敬愛と誤認中。
  • ライアンの前ではお兄ちゃんぶってるし、後輩の前では威厳ある先輩であろうとしているし、原作のゴードンはがんばって背伸びしてる男の子という印象があります。弱音は吐くけど、甘えてはいないと思います。
    でもジョルジュさんにだけは甘えたさんになってるといいなあ、というドリーム…v(捨ててしまえ、そんな夢)
  • ちなみに、ジョルジュさんはコトが終わったらとっとと帰る(or帰す)派なので、他の人とは朝まで一緒には過ごしません。らぶらぶねんねはゴードンだけ!(という私設定)

20140519up


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