・・・ SKIT ・・・

小ネタTOPにもどる

■夢のなかの夢

「自分が死んだ後の世界のことを考えたことがありますか?」

 野営の天幕の中、そろそろ眠ろうかと毛布に包まり横になっていると、隣で寝支度をしている弟子がだしぬけに問う。

「それはまあ、こんなご時世だから、無くは無いが」
「……もしも、あなたが亡くなったら……」

 なんだ。自分が、というのは、俺が、ということか。
 ふたりきりでいると、時折こうして他愛の無い言葉遊びのようなやりとりをすることがあるが、今日のこれは随分と剣呑な話題じゃないか。
 常ならばこの時点で一発なりとぶん殴るところだが、話の先が気になったので、とりあえずは大目に見てやることにする。我ながら我慢強くなったものだと感心しきりだ。
 こちらの複雑な心中をよそに、弟子は落ち着いた口調で淡々と話を続ける。

「あなたが亡くなったら、ぼくは泣きます。泣いて、泣いて、ぺしゃんこになるまで泣いて……でも、きっとそれでは死ねないでしょうね。だから、あなたの代わりに荷を負い、あなたの歩くはずだった道を歩きます」
「お前に俺の代わりが務まるか?」

 無礼極まりない例え話のお返しに、少々の皮肉をこめて言い返す。特に腹を立てるわけでも落胆するでもなく小さく息をついて、笑顔で答えがある。

「それは無理に決まってますよ。それでも、あなたが望んだ世に少しでも近づくよう、努力を惜しまないつもりです」
「頼もしい弟子だな」

 からかい半分に腕を引き、顔を近づける。
 もう少しで唇が触れようかというところで、もしも……と、言葉が零れる。

「ぼくが死んだら、あなたは……」

 こちらに問い掛けるというよりも、独り言のようだった。口づけを予期してか、目は伏せられ、言葉と共に温かな呼気が顔にかかる。細めた角灯の炎に照らされて、その表情は夢のようにうっとりと揺らぐ。
 背筋に冷たい不安を覚え、不吉なことを語る口をいちど柔らかく塞いでから、言葉を返した。

「そんなことは考えるだけ無駄だ。お前が死ねば世界は終わる」

 謎かけを解こうと間近で瞠られた瞳には好奇の光が宿っていた。先ほどまでの世離れた気配が消えたことに安堵し、大仰な口調で冗談めかして例え話に乗ってやることにする。

「今まで不思議に思ったことはないか? なぜ、こんな戦乱の最中に、生まれた国も立場も年回りも違う俺たちが出会えたのか。そして世に言う“正しき一対”ではないにも関わらず、心を寄せずにはいられないのか……それは」

 言葉を切り、両手で頬をつつみ顔を寄せ、秘め事を明かすかのように小声で囁く。

「──この世界は、お前が見ている夢にすぎないからだ」

 ほんの一瞬、切なげに眉根を寄せ泣きそうな顔をしたが、それはすぐに緩められた。

「……そうですね。話が出来過ぎています」

 見慣れたいつもの笑顔でそう言うと、すべらかな頬が寄せられ、ふわりと髪の匂いがした。日向のような子どもめいた香りに、安らかな心持ちになる。
 細い体を胸に抱いたまま、欠伸を噛み殺した。

「そろそろ寝ろ。明日も早い」
「ここは夢の中なのに、眠りが必要なんですか?」

 笑いを含んだ口調で揚げ足を取る弟子に、言葉を返す。

「もちろんだ。それから、そちらの夢の中の俺に伝えておいてくれ。もしまだ間に合うのなら──弟子をとる時には慎重にな、と」

 くすくすと笑い声を零しながら、残念ながら手遅れのようですよ、と告げられる。

「夢のなかの夢でも、そのなかの夢でも、ぼくはあなたから離れませんから」
「……さすがにそれは窮屈だな」

 苦笑混じりにそう零すと、珍しく向こうの方から唇を重ねてきた。

「おやすみなさい。あなたの夢のなかのぼくに、その人を離さないようにと伝えてくださいね」



  • 紋章EDネタ。師匠死亡時でも「後にアカネイアに渡った」とされる弟子の心境を考えてみたら、なんか泣きそうになってしまったので、甘々にオチをつけてみました。(捨ててしまえこんな夢・その7…ぐらい?)
  • ありきたりですが、胡蝶譚の劣悪な真似事。新作は蝶のモチーフが使われているようなので、先にやっとこうかと。

20120330up


小ネタTOPにもどる

TOPMEIN MENUごあいさつmail