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■楓糖と肉桂

 顔見知りになった宿舎の厨房の料理人から、手作りだという飴玉を沢山もらった。
 試しにひとつ口の中に放り込むと、独特の薬めいた香りと辛さが広がった。焼菓子の香りづけに使われるのは嫌いじゃないけど、飴になると辛味が強くてちょっと苦手だ。

「……肉桂でした」

 そう聞いて自分も、と一つ口に入れた師匠は師匠で、長椅子の隣に腰掛けて眉をしかめている。

「……こっちは楓糖だ」
「あ、いいな。当たりじゃないですか」
「甘ったるいぞ?」
「だから良いんですよ」

 人によって味覚の嗜好がこんなにも違うって面白い。でも、同じ物を同じように美味しいと感じられないのは、少し淋しいなと思う。

「取り替えてやろうか?」
「でも、もう口に入れちゃったし……」
「別に構わんだろう」

 そう言うやいなや、かつん、と軽く歯にあたりながら、楓糖の甘味が入ってきた。
 いっしょに挿し入れられた柔らかな舌は、そのままぼくの口の中で甘い味と肉桂の香りを混ぜ続ける。
 少しして、甘い味だけを残して唇は離れた。

「肉桂とか薄荷は好きなんだ」
「……そうですか」

 恥ずかしさに赤面しているぼくの顔を見て、師匠は笑いながら言う。

「お前とは味の好みが正反対だから、こういう時には助かるな」

 ああ、そうか。
 ぼくたちは、違っているから、いっしょにいる意味があるんだ。
 そう思うと、さっきまでの淋しさも恥ずかしさも消えて、ただ嬉しさにどきどきした。
 我ながら、単純だと思うけど。


■助言

「練習熱心なところは買うが、ほどほどにな」

 それが出立前のぼくに苦笑混じりに告げられた唯一の助言だった。

「傭兵上がりだった武術の指南役が、成長期の子どもが無茶な鍛練を積むのは良くないと言っていた。身長が伸びなくなるそうだ。それから、右腕を鍛えるなら同じくらい左腕と足も鍛えろ、ともな。要は均衡が大切ということらしい」
「斧使いの方の利き腕を見ると、単純にすごいなあって思いますけど……」

 半人前の弟子の反論も、師匠は生意気な口答えとは考えない。少し間をおき、こちらにも分かるようにかみ砕いて説明してくれる。

「一目で弓使いと知れる程に姿勢や骨が固まるのを、俺は良いとは思わん」
「よく使う部分を特に鍛えるのは必要なことではないんですか?」
「じゃあ、お前に俺はどう見える?」

 舞うように軽やかにくるりと回り、優雅に一礼した師匠に見惚れてしまう。きれいです、と真っ先に浮かんだ感想を正直に伝える訳にもいかず、ぼくは赤くなり言葉を無くす。
 この人は相手に自分がどう見られるのかも常に計算している。ということは、とりあえずぼくを黙らせるために、わざわざこんな芝居がかった所作をして見せたのだ。

「基本通りの正しい姿勢も大事だが、いつもしっかりした足場で動かない的を相手にする訳ではないだろう?」
「練習内容も工夫が必要、ということですね。効率よく実践的な内容でなくては……」
「頭の良い子は好きだよ」

 笑顔の師匠に頭をはたはたと叩かれる。何気なく口にされた「好き」の言葉に、なんだかドキドキしてしまう。

「まあ、それに……」
「はい?」
「可愛い弟子が俺より筋骨隆々っていうのも面白くないからな」

 思わずぷっと噴き出してしまった。

「最初からそう仰って頂ければ、素直に従いましたものを」
「なんだ、上手く返すようになったじゃないか」

 こつん、と軽く拳が頭を小突く。そしてそのまま手が頬に添えられ上を向かされたと思ったら、軽く唇が重ねられた。

「夏至の頃に、会いにいく」

 じゃあな、と片手を上げ歩み去る後ろ姿を見送りながら、遅れてやってきた恥ずかしさと嬉しさに頬が熱くなった。



  • 楓糖と肉桂:ハロウィンあわせにお菓子ネタで…と書いたものです。
  • 助言:新・紋章会話ネタからの着想。きっと師匠の助言を思い返して、真面目に練習方法を工夫してみたんです。ふっ!やっ!!
  • なんで必殺のとき回るんでしょうねえ。謎。なんでだかライアンだと「カワイイ!」って思えるのですが、弓師弟だと「調子こいてんじゃねえ!」とツッコミたくなります。弓師弟ダイスキーな私ですら!

楓糖と肉桂:20111123up(ブログ公開:20111031)/助言:20111030up(ブログ公開:20111017)


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