スペイン日記A

<気候>

スペインは灼熱の太陽と情熱の国というイメージだ。しかし冬の今の時期はかなり寒い。今月中旬のマドリードは最低気温が0度というのは普通で、氷点下4度の時もあった。朝、街を散歩すると公園の池が凍っていたりする。郊外にでかけてみると、日陰では雪が溶けないで残っていた。

スペインの気候でもうひとつの特徴は、寒暖の差が激しいことだ。陽なたで風がなければけっこうあったかい。しかも眼が痛い感じもする。多分紫外線が強いためだろう。サングラスを持ってきてよかった。今の時期でもマドリードで最高気温が20度ほどにもなる。しかし、いかんせん風がとても冷たい。まわりの山から吹き降りてくる風のためだ。寒暖差は、夏になるともっと広がるという。

こんなに寒いのだから、ぼくたち日本人は寒さにふるえるが、現地の人たちはそうでもないようだ。スペインのレストランや、バールと呼ばれる喫茶店は、店の前の舗道に椅子とテーブルを出しているのだが、この寒い季節でも太陽が顔を出していれば、人々は戸外の席でお茶を楽しんでいるのだ。さらにけっこうな雨が降っても、傘をささないでさっさと街を歩いている人も多い。

今はセビリアで語学学校に通っているが、学生の熱気で部屋がようやく暖まってきたなと思うと、教師は「暑い、暑い」と言って窓を開ける。一月も下旬となり、どうやら寒さのピークは峠を越したらしい。しかし現地の人たちも、今年の寒さは近年にないものだったと話していた。異常気象は日本だけでなく、洋の東西を問わずに感じられているようだ。

<住宅事情>

スペインに到着してマドリードで5日間、ホテルに滞在した。スペインではホテルのランクを星の数で政府が等級付けしている。五つ星が最高だが、マドリードにはリッツなど3つしかない。ぼくは日本で4ッ星ホテルを予約して行ったので、かなり快適に過ごすことができた。しかも現地で直接頼めば値段の高いこのホテルも、日本のインターネットのサイトを使い、クレジットカードの決済で頼んだので、一泊9000円程度で泊まれる。日本で同じクラスのホテルに泊まることを考えればかなり安い。

マドリード滞在後、歌曲「カルメン」で知られるアンダルシア地方の首府セビリアに移った。ここでは一ヶ月間滞在する予定である。そこでトラブルが起きた。風呂についてである。セビリアでは語学学校を通じてアパートを手配してもらったのだが、そこの風呂が問題だった。

かつて十数年前にスペイン旅行をして田舎の安いホテルに泊まった時、風呂のお湯が出なくなったことがあった。主人に文句を言うと、「それはあなたが遅く帰ってくるから、タンクのお湯がなくなってしまったのだ」と一蹴されたことがあった。そんな教訓から、アパートのお湯をチェックすると、どんどんと熱い湯が出る。これはOKと一安心もつかの間、湯船にお湯を張って風呂に入ろうとすると、ものすごくぬるくなっている。蛇口から出てくるのは、お湯ではなくて冷たい水だ。これはどうしたことかと、アパートを点検してみると、浴室の隣にある台所の天井の隅に、小型のドラム缶のような機械が取り付けられていて、稼働していることを示すオレンジ色のランプが付いている。どうやらこれが電気温水器らしい。しかし直径は40センチほど、長さは1メートルにも満たず、日本の家庭にある電気温水器とは大きさが比べものにならないほど小さい。

語学学校にクレームをつけると、「私たちはシャワーしか使わないし、特にセビリアでは水が貴重なので、これが普通なのだ」と言う。こちらの人たちとは風呂の使い方がぼくたち日本人とかなり違うらしいのだ。

ちなみにスペインの洗濯機は、日本とは回転の方向が違う。乾燥機と同じように縦方向に回るドラム式なのだ。これだと、回転槽の上側にあがった衣類が下に落ちる力で汚れを落とすため、使う水が少なくてすむ。こんなところにも節水の思想があるようだ。

話を戻すと学校側の説明では「機械のパワーを上げてお湯の温度を最大限に調節する」とのこと。そこでもう一日様子を見てみたが、シャワーのお湯は10分程度しかもたない。この寒いのにたまらないと再度クレームをつけると、さっそくその日の午後には新しいアパートを手配してくれた。こちらの給湯システムはガスで、どこの給湯口からもさっとお湯がでる。しかも複数の棟が集まった大きな高級マンションで、セキュリティや居心地もずっと良い。はじめからこちらを紹介してくれれば良いのだが、普通のアパートにクレームをつける人にしか紹介しないのかもしれない。ともあれ、日本と同様の快適な居住環境を確保することができたのは何よりである。

 参考までにこちらで聞いた、アパートやマンション事情を記しておこう。スペインでは、賃貸住宅という形は少なく、ほとんどの不動産が買い取りである。だがスペインの住宅は最近、急騰している。

去年は通貨がペセタから新通貨のユ−ロに切り替わった。こうした新通貨の導入は、政府の対策を無視するかのように、物価の値上げにつながる。スペインではこの一年で食料品を中心に18%も値上がりした。しかし不動産関係の上昇は、目に余るという。たとえば94年から97年くらいまでは4年間の平均年収の合計で新築マンションが買えたのに、今ではマドリードのような都会で働く者には倍の8年分の給料が必要だという。数年前には1000万円で買えた住宅が、いまでは2000万円するというのだ。

 ユーロへの通貨切り替えに際して、スペイン政府は、それまで家にため込んでいたペセタについて、納税申告をしていたかどうかを問わずにユ−ロに替えることを認めた。このため、タンス貯金だけでなく、違法な手段で稼いだブラックマネーが正規の市場に現れ、国中にお金があふれている。これは一種のバブル状態であるともいえる。しかし景気自体は非常に悪い。

スペインの失業率は今は9%を越えている。これを29歳までの若い人に限ってみると、失業率は男性で30%、女性で55%にも達するという。経済が悪いのに、ヨ−ロッパの一員という名前がほしいためにユ−ロに切り替えた政府に、人々の不満はつのっている。さらに現政権は対米追従でイラク攻撃も容認している。ヨーロッパで最大のアメリカ軍基地を抱えるのもスペインであり、反米軍基地感情も強いという。

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