Into the Woods Junior
配役:ワシントンDC市内の7つの小中学校の生徒たち
演出:Rick Thompson
<感想>
さらにソンドハイムの記憶が遠くなっていた頃、2度目の米国勤務でワシントンにやって来ました。いかにアメリカ合衆国の首都とは言え、NYに比べればエンタテイメントの面ではど田舎、というのが僕のイメージでした。
でもワシントン・オペラを観に初めてケネディ・センターへ行き、ニュースレターをもらって帰ってきた夜のことを僕は忘れません。「ソンドハイム・セレブレーション」と題されたフェスティバルが正に始まらんとしていたのです。彼がわざわざこれを観てもらうために僕をワシントンへ呼んだのではないか、とまで思ったものです(んなわけないだろ!)。
以下9月の「太平洋序曲」までこのフェスティバルで上演された演目が続きます。最初に観たのがこれです。
要は"Into
the
Woods"の第1幕だけを子供たちがあらかじめテープに録音されたオケ伴奏に乗って演じたのですが、オリジナルのセリフは省略しないで、つまりみんなちゃんと頭に入れてやってました。大したものだと思います。
出演者の多くはアフリカ系のようで、だからと言うわけでもないでしょうが、最後全員で歌う場面などはゴスペル風。でも楽しかったです。
Sunday in the Park With George
主な配役:George=Raul Esparza
Dot, Marie=Melissa Errico
An Old Lady他=Linda Stephans
Jules他=Cris Groenendaal
Yvonne他=Florence Lacey
指揮:Rob Berman
オケ:ケネディ・センター・オペラハウス管弦楽団
演出:Eric Shaeffer
<感想>
「ソンドハイム・セレブレーション」で上演された作品のうち僕が最初に観たものです。
"A
Little Night
Music"を観て以来の、心の底からじわーっとくる感動を味わいました。ソンドハイムから「どうだ、他にもいいミュージカルがあるだろう」と言われたような気分です(言わないって)。これで完全に彼の世界にはまってしまいました。
ラウル・エスパルザのジョージは若々しく、甘い声で夢見る青年という感じですが、それだけに恋人ドットに対する仕打ちがむごく見えてしまいますね。メリッサ・エリコの芯の強いドットもよかったです。
演出はビデオ化されている舞台と基本的に同じでしょう。最初の場面でモデルとして立ち詰めのドットが着ている服から抜け出て自由に踊り出すところや、ジョージが透明のキャンバスの裏で絵を描き続けるところなどは同じです。
違いを挙げれば、第1幕第2場ではドットが透明キャンバスの脇で入浴します。何と全裸で。いやあよかった(コラコラ)。それから第2幕第3場のパーティの場面ではあちこちで客と話をするジョージの分身としてテレビのモニターに彼の顔が映ります。
"A
Celebration at Carnegie
Hall"の最後に歌われたのが、各幕の締めくくりの歌"Sunday"だったですが、やはり生の舞台を観ながら聴くと、いかに名曲かがよくわかります。正に最後に全員で歌うにふさわしい曲だったことがこの時初めてわかったのです。
2002年6月25日 ケネディ・センター・アイゼンハワー劇場
Company
主な配役:Robert=John Barrowman
Joanne=Lynn Redgrave
Amy=Alice Ripley
Martha=Marcy Harriell
指揮:Jonathan Tunick
オケ:ケネディ・センター・オペラハウス管弦楽団
演出:Sean Mathias
<感想>
幕が開くと、客席側に倒れた摩天楼が舞台両端に置かれています。思わず拍手する客も。
冒頭から景気のいい音楽が鳴り、「おおっ、今日も面白そう」と思いながら観始めました。
しかし、結果は今ひとつ釈然としない思いが残りました。出演者たちに不満はありません。主役のジョン・バロウマンはカッコよかったし、リン・レッドグレイヴ(ヴァネッサの妹?)は渋かったし、アリス・リプリーの"Getting
Married
Today"も見事だったし。
最大の原因は、僕がまだこの作品自体に疑問を持ってしまったからだと思います(作品に関するコメントをご覧下さい)。
2002年6月27日 ケネディ・センター・アイゼンハワー劇場
Sweeney Todd
主な配役:Sweeney Todd=Brian Stokes Mitchell
Mrs. Lovett=Christine Baranski
Anthony=Hugh Panaro
Johanna=Celia Keenan-Bolger
Judge Turpin=Walter Charles
指揮:Larry Blank
オケ:ケネディ・センター・オペラハウス管弦楽団
演出:Christopher Ashley
<感想>
「ソンドハイム・セレブレーション」の中で最もチケットを取るのに苦労したミュージカルです。気が付いた時には全公演完売、キャンセル待ちもほとんど出ない状態だったのですが、この日はラッキーにもチケット入手に成功。他の作品は2階のバルコニーだったのに、この時は1階前から5列目くらい。出演者の汗が飛んできそうな席です。
苦労しただけのことはありました。ブライアン・ストークス・ミッチェルの残酷な中にも人間味あふれるトッド、クリスティン・バランスキー(水森亜土に似てました、歳がバレるな…)の愛嬌あるロヴェット夫人などなど、達者な役者が揃い、「鉄と煤煙の街」と言われたヴィクトリア女王時代のロンドンがリアルに再現され、文句なしに楽しめました。
2002年7月12日 ケネディ・センター・アイゼンハワー劇場
Merrily We Roll Along
主な配役:Charley=Raul Esparza
Franklin=Michael Hayden
Mary=Miriam Shor
Beth=Anastasia Barzee
Gussie=Emily Skinner
Joe= Adam Heller
指揮:Eric Stern
オケ:ケネディ・センター・オペラハウス管弦楽団
演出:Christopher Ashley
<感想>
オリジナルにあった最初と最後の場面がカットされていました。したがって、現在から過去へと場面が単純に遡っていくように上演されていました。
"Company"の時と同じような感想を持ちました。つまり、1人1人の歌いぶりや演技をどうこう言う前に、作品自体に対する疑問が残りました。
A Little Night Music
主な配役:Desiree=Blair Brown
Madame Armfeldt=Barbara Bryne
Frederik=John Dossett
Carl-Magnus=Douglas Sills
Charlotte=Randy Graff
指揮:Nicholas Archer
オケ:ケネディ・センター・オペラハウス管弦楽団
演出:Mark Brokaw
<感想>
3年ぶりの「リトル」、そして3つめのプロダクションです。
これまた初日を観に行ったのですが、そのせいかセリフも音楽もテンポが速く、どうもせわしないのです。間を取ってやればもっと笑えるところがいくらでもあるのに。もったいないことです。
一つだけ例を挙げれば、第2幕、マダムの屋敷でフレデリカが機転を利かせて2人きりになれたフレデリックとデジレ。そこへ怒ったカール・マグヌスがやって来るので、あわててフレデリックは石像の影に隠れる。そこへフリッドが夕食の支度ができたことを知らせに来る。
シティ・オペラの舞台では、フリッドがカールとデジレに知らせた後、フレデリックの前に立つ。そこでフレデリックは気付かれまいと口の前に指を立てて必死に訴えかける。その数秒間で死ぬほど笑えたのに、この舞台ではフリッドはフレデリックの所で止まる間もなく声をかけて立ち去る。もったいない。
主役のブレア・ブラウンはもちろんうまかったですが、感心したのは、劇中劇の場面が終わった後、セットの一部が壊れるというアクシデントでなかなか次の場面に進めなかったにもかかわらず、最後のポーズのままずっと静止していたこと。見事なプロ根性だと思いました。
ソンドハイム・ミュージカルではお馴染みのバーバラ・ブリンのマダムも貫禄を感じさせる歌いぶり。ジョン・ドセット(フレデリック)とダグラス・シルズ(カール・マグヌス)の声のタイプが似ているような感じがしました。もう少しコントラストがあってもいいような気がしましたが、まあ大したことではないでしょう。
2002年8月14日 ケネディ・センター・アイゼンハワー劇場
Passion
主な配役:Giorgio=Michael Cerveris
Fosca=Judy Kuhn
Clara=Rebecca Luker
Doctor Tambourri=Philip Goodwin
Colonel Ricci=John Leslie Wolfe
指揮:Patrick Vaccariello
オケ:ケネディ・センター・オペラハウス管弦楽団
演出:Eric Shaeffer
<感想>
2時間ぶっ通しですが、これまた飽きることなく楽しめました。マイケル・セルヴェリスの一途なジョルジョ、ジュディ・クーンの孤高な感じさえするフォスカ、レベッカ・ルーカー(キリ・テ・カナワに顔が似てます)のセクシーなクララの三者が見事なアンサンブルを聴かせてくれました。
木製のブラインドが舞台の三方を囲み、特に奥のブラインドが場面に応じて様々な形になっていました。
Pacific Overtures(太平洋序曲)
主な配役:語り他=国本武春
香山=本田修司
万次郎=小鈴まさ記
阿部=樋浦勉
たまて=春芳
指揮:山下こうすけ
演出:宮本亜門
<感想>
新国立劇場のプロダクションをケネディ・センターで観ることができるとは、これまたラッキーと言うしかありません。期待に違わぬ素晴らしい公演でした。
シンプルかつインパクトの強い舞台、演出がとてもよかったです。また、最も心配だった歌ですが、前半の国本さんのソロが多少不安定だったものの、だんだんみんなの乗りがよくなり、充実した演奏になりました。正直な話(ソンドハイムに限らず)日本人出演のミュージカルを観て安心して歌を聴けた初めての経験でした。
2002年11月27日 シヴィック・オペラ・ハウス(シカゴ)
Sweeney Todd
主な配役:Sweeney Todd=Bryn Terfel
Mrs. Lovett=Judith Christin
Anthony=Nathan Gunn
Johanna=Celena Shafer
Judge Turpin=Timothy Nolen
指揮:Paul Gemignani
オケ:リリック・オペラ・シカゴ管弦楽団
演出:Neil Armfield
<感想>
世界で最も売れっ子のバリトン、ブリン・ターフェルがソンドハイムの傑作ミュージカルを歌うとあっては、駆けつけないわけにはいきません。わざわざこの公演のためにワシントンから日帰り旅行をしてしまいました。僕のソンドハイム中毒もここに来てかなり重症になったようです。
ロヴェット夫人のパイくらいでは表情一つ変えないニヒルなトッドが、いざという時に感情を吐露する。さすがターフェルです。
オペラ歌手中心のキャストのせいか、ソンドハイム特有の早口に苦労しているような場面もあったのですが、重唱はさすがにうまい。特に第1幕のジョアンナとアンソニーの二重唱はうっとり聞き惚れました。
檻とカーテンを効果的に活用した演出も観る者の恐怖感をかきたて、素晴らしかったと思います。
欲を言えば、劇場が大き過ぎたこと。3,600席のオペラ・ハウスでこのミュージカルをやると、どうしても舞台の熱気が隅々にまで届かないような気がしてしまったのです。最上階のバルコニーで観たからそう思うのかもしれませんが。