Passion

<どんな作品?>
 このミュージカルの基となったのは、イタリアの作家、イジーニョ・ウーゴ・タルケッティ(1839〜1869)の小説「フォスカ」と、これを原作とする1981年の映画「愛の情熱(Passione d'Amore)」(エットーレ・スコラ監督)。

 1863年、統一戦争中のイタリア・ミラノとそこから遠く離れたイタリア軍の駐屯地が舞台。人妻と相思相愛の関係にある士官が遠征先で不治の病に侵された女性に出会う。彼は彼女の身勝手なまでの求愛に翻弄されるが、しだいに彼女の純粋さに惹かれ、ついには彼女の愛を受け入れる。
 「愛とは何か」という問いに対してミュージカルで答えた作品だと思います。歌の部分とセリフの部分の境界が曖昧で、2時間弱切れ目なしという、ソンドハイムの作品の中でも異色の造りになっています。音楽は一筆書きのような流麗さと「愛の結晶」と言うべき美しさに満ちています。

 なお、全く余計な話ですが、題名に使われた"Passion"という言葉は、わずか3か所にしか出てきません。登場する箇所に※印を付けていますので、ご参照下さい。

<登場人物>
 クララ
 ジョルジョ:軍人(大尉)
 フォスカ
 リッチ大佐:フォスカのいとこ、ジョルジョの上官
 タンブーリ:軍医
 トラッソ中尉:オペラが趣味
 リッツォーリ少佐:手紙が来ないのが悩み
 バッリ中尉:獣医、ギャンブル好き
 ロンバルディ軍曹:コック
 オージェンティ:兵士、配達人
 フォスカの母
 フォスカの父
 ルドヴィッチ
 婦人
 兵士たち、メイドたち

<みどころ、ききどころ>

○第1場:ジョルジョとクララの部屋

 ベッドで愛し合うジョルジョとクララ。2人は互いに不幸な時期に公園で出会って以来、付き合うようになった。クララには夫と子供がいる。
 しかし、ジョルジョに前線への派遣命令が出る。悲しむクララ。ジョルジョは、毎日手紙を送り合うことを提案する。再び愛し合う2人。

1.Happiness

 ジョルジョとクララの愛の二重唱。
 第1場を観てオペラ・ファンなら必ず思い出すのが、R.シュトラウスの「薔薇の騎士」であろう。長い序奏に続いて幕が開くと、ベッドで戯れるマルシャリンとオクタヴィアンの二重唱から歌の部分が始まる。夫のいる貴婦人と若い士官という組合せも同じである。
 しかし、大きな違いが一つある。それは、「薔薇の騎士」の序奏が文字通り幕が開く前の2人の行為を連想させる情熱的・官能的な音楽であるのに対して、"Passion"冒頭の音楽は、軍楽隊のドラムから始まり、続いて耳をつんざくような管楽器の不協和音の上にわずかに上下する持続音が乗っかる。幕が開く前のジョルジョとクララの行為の表現と言うより、2人に対して神が審判を下している、あるいは幸福の絶頂であるはずの2人にこれからふりかかる試練を暗示しているかのように聴こえる。
 これがだんだん収まってくると、クラリネット2本が「タタタン」のリズムで上昇するフレーズと下降するフレーズを重ね、クララがややぎごちないメロディを歌い始め、そこにジョルジョも加わる。そして転調するとようやくクララが愛の喜びを歌うロマンチックなメロディ(以下、便宜上「愛のテーマ」と呼ぶ)が登場する。このテーマはその後もしばしば登場するが、最後に思いもかけない形で再現されるので、お楽しみに。
 続いて、8分音符でH-Ais-Gis-Ais-Hのように3度の音階を下がって上がるフレーズ(クララは「もっと早く会っていれば」、ジョルジョは「愛とは何か知っているつもりだった」などと歌う場面なので、「後悔のテーマ」と呼ぶ)が繰り返される。

 ジョルジョの派遣命令にショックを受けるクララだが、ジョルジョが彼女を求める情熱的なフレーズ("God, you are so beautiful.")を歌い始めると、最初は抵抗していたクララも再び彼の腕に抱かれ、愛のテーマが再現されるが、2人の甘い二重唱は軍楽隊のドラムで中断される。

○第2場:リッチ大佐(前線の司令官)のダイニング・ルーム

 横長のダイニングテーブルで食事する士官たち。彼らの会話は女性の叫び声で中断するが、すぐまた何事もなかったかのように続ける。
 ジョルジョが入ってくる。リッチが彼を士官たちに紹介する。ジョルジョは階上から聞こえるピアノの演奏でフォスカの存在を知る。彼女はリッチのいとこで、リッチは彼女が読める本がないかとジョルジョに尋ねる。彼は自分が持ってきた本を貸すことを約束する。
 兵士たちに手紙が届く。ジョルジョには早速クララからの手紙が届き、読みながら遠方の彼女と会話する。しかし、それはしばしばフォスカの叫び声で中断される。
 ジョルジョは軍医にフォスカのことを尋ねる。多くの病気を患い、叫び声はヒステリー性のけいれんが原因。弱っているが、それゆえに死に至る病を発症するまでの強さがないのだと言う。
 別の日の朝、ジョルジョがクララの手紙を読みながら朝食を取っていると、フォスカが階下へ降りて近寄ってくる。やせ細った姿、神経質でグロテスクな微笑み、愛らしく上品だが物憂げな声。彼女はジョルジョに本を貸してくれたお礼を言う。彼女は夢見るために本を読む、希望を持たなければ失望することもないと歌い、ジョルジョを戸惑わせる。フォスカはジョルジョを庭園へ案内すると誘う。窓外で兵士の葬儀用の車が近付いて来るのを見たフォスカは倒れる。

2.First Letter

 第2場以降、ジョルジョを含む士官たちのやり取りに、クララが舞台脇に登場して歌うシーンが挿入される。その最初の場面。クララはジョルジョからの手紙を読む。
 彼女の歌に続いてショパン風のピアノ曲が流れる。これはフォスカが弾いている。その前にフォスカは一度叫び声を上げているのだが、それはジョルジョが入ってくる前のこと。ということは、ジョルジョにとって(あるいはクララにとっても)、音楽的にはこのピアノ曲がフォスカとの初めての出会いということになる。

※この後リッチがジョルジョに向かってしゃべるセリフ"My cousin loves to read-it's her only passion, really."

3.Second Letter

 今度はジョルジョがクララからの手紙を読む。クララが歌い始め、ジョルジョも加わるが、First Letterと同じメロディ。短い二重唱はフォスカの叫び声に遮られる。

4.Third Letter

 クララがジョルジョからの手紙を読む。前線の殺伐たる状況を知らせる。そこにジョルジョ、そして兵士たちの歌が加わる。
 このナンバーは軍医とジョルジョのやり取りを挟んで、ジョルジョがクララに"Don't forget me"などと語りかけるフレーズまで続き、切れ目なく朝食の場面へつながる。

5.Fourth Letter

 朝食を終えた士官たちが去り、ジョルジョが1人でクララからの手紙を読む。ワルツ風のリズムに「後悔のテーマ」が登場するクララの歌が一段落すると、ショパン風のピアノが加わる。最後に地の底から響くようなフォスカの"Captain"で中断され、切れ目なく次のナンバーへ。

6.I Read

 フォスカとジョルジョのやり取りだが、歌うのはフォスカのみ。しかも、フォスカはまずセリフをしゃべり、"I came to thank you for the books. I would have sooner, but I've been so ill."だけ歌い、セリフに戻った後、"I do not read to think."から再び歌い始める。この少し不機嫌なフレーズ(多少リズムは変わるがハ長調だとC-H-C-H-G-G(A)の音型は変わらない。「不機嫌のテーマ」と呼ぶ)が、ト音記号の五線譜の下を這いずり回り、ようやく"I read to dream."で五線譜の真ん中くらいまで上がってくる(このフレーズは先の「不機嫌のテーマ」から中間2つの音を抜いた、C-H-G-Aという音型。彼女の本心が垣間見えるので「本心のテーマ」と呼ぶ)。"I read to live""I read to fly"は「本心のテーマ」がより高い音域で歌われる。
 ここまではフォスカの人物像を観客に強烈に印象付けるソロだが、低音域が多く、"I read to dream."などのフレーズも、「愛のテーマ」に比べるとずっと地味で、耳に残りにくい。

 フォスカはいきなり自分のことを話し過ぎたことに気付き、話題を変え、古城のある庭園の話を始める。引き続きジョルジョはセリフのみ、フォスカはセリフと歌が頻繁に入れ替わる。ここでは先の「後悔のテーマ」の逆さまで、8分音符でC-Des-Es-Des-Cのように音階を上がって下りるフレーズが多用される(ジョルジョを庭園散歩に誘う場面なので「誘いのテーマ」と呼ぶ)。3拍子で前のナンバーよりテンポが上がり、フォスカの神経がだんだん不安定になっていくのが音楽面でもわかる。しかし、その興奮も長続きせず、音楽にも徐々に勢いがなくなる。

○第3場:城の庭園

 庭園を散歩するリッチ、軍医、フォスカ、ジョルジョ。ジョルジョと2人きりで歩くこととなったフォスカは、ジョルジョが愛の喜びを語るのに耐えられず、自分を理解し、友となってくれるよう求める。ジョルジョも承諾する。

7.Transition

 音楽は第2場終盤でフォスカが倒れた後から再開される。チェンバロ(正確にはチェンバロ風音色のキーボード)の速いフレーズに不協和音が応える、というパターンを繰り返す伴奏に乗って、まず彼女の振る舞いに戸惑うジョルジョの短いソロ。続いて兵士たちがフォスカのセリフ(庭園の話)をリフレインで歌い、切れ目なく庭園の場面へ続く。

8.Garden Sequence

 第3場は最初と最後だけリッチ、軍医、フォスカ、ジョルジョの4人が登場するが、リッチと軍医はすぐに退場して長く戻ってこない。また音楽上はフォスカ、ジョルジョとクララの三重唱となる。まずジョルジョの歌とフォスカのセリフの「二重唱」となるが、ジョルジョが歌うのはクララに向かってであり、フォスカの話は上の空。
 次にクララが舞台に登場してジョルジョの手紙を読み始める。フォスカへの不快感を断片的なフレーズで、続いて「不機嫌のテーマ」に乗せて歌う。そこにジョルジョとフォスカのセリフのみのやり取りが被さる。

 愛の話題に移ったところで、ジョルジョとクララの二重唱となり、"Happiness"のリフレインに。弦が「愛のテーマ」をたっぷり響かせて盛り上げる。

 それを聞いたフォスカは気分を害する。それまで伴奏でなっていた「タタタン」の上昇音型がピアノからチェンバロに変わり、フォスカの苛立ちを表現。「不機嫌のテーマ」あるいはその変形が繰り返される。後半の"They hear drums,"以降は、先の二重唱終盤で2人が歌う"Love that floods"(「愛のテーマ」の最初の3つの音によるフレーズ)と同じ音型が繰り返され、愛の二重唱の変奏風ソロになる。

○第4場:ダイニング・ルーム

 3日後、士官たちが食事中。フォスカの隣りに座ったジョルジョは、自分のナプキンの下に入れられたフォスカからの手紙を見つける。フォスカはジョルジョの右手をつかんでテーブル下へ引っ張り込み、手紙を読むよう迫る。ジョルジョはリッチに5日間の休暇を申し出、認められる。

9.Three Days

 第3場と第4場のつなぎの場面で、ジョルジョとクララはフォスカへの対応をめぐって手紙でやり取りしている。その陰でフォスカが階段をゆっくり降りてくる場面。ジョルジョとクララはセリフのみ、フォスカのみつぶやくような下降音型の"Three Days"を繰り返す。

○第5場:中庭

 鞄を持って駐屯地を出ようとするジョルジョをフォスカが待ち受け、いつ帰ってくるかしつこく尋ねる。そしてジョルジョに手紙を書くよう約束させる。
 ジョルジョとクララが再会して愛し合っている間、フォスカにジョルジョからの手紙が届く。ジョルジョは手紙の中で、フォスカと自分との間には何もない旨伝える。

10.Transition

 第4場から第5場への場面転換の音楽。兵士たちの合唱。第3場終盤のフォスカのソロ後半のリフレイン。

11.Trio(Fifth Letter)

 フォスカがジョルジョに手紙を書く約束をさせた直後、冒頭の不協和音が少しずつ音程を上げながら繰り返し鳴り響く。
 ジョルジョからの手紙を読むフォスカの歌から始まり、そこに1.Happiness後半ジョルジョの"God, you are so beautiful."のリフレインが加わり、さらにクララも入っての三重唱となる。フォスカと2人が歌は似ているようで微妙に異なる。例えば2人が「愛のテーマ」を歌うと、フォスカは"They hear drums"の音型、すなわち「愛のテーマ」の変形で応える。
 フォスカは手紙を読み終わると、手紙本文最後に書かれた"Nothing"を、3度下降音型で繰り返す。

12.Transition

 2人のメイドがGarden Sequence終盤のフォスカのソロのリフレインを歌う。

○第6場:フォスカの応接室

 休暇から戻ったジョルジョはフォスカを訪ねる。フォスカは手紙に失望し、ジョルジョにクララとの関係をあれこれ問う。ジョルジョは互いに相手を傷つけ合わないよう、自分たちのことを話し合うのを止めようと言う。フォスカはもう二度と会わないことを提案し、2人は別れる。
 3週間後、軍医に呼ばれたジョルジョは、フォスカの病状がジョルジョのために悪化していることを告げる。ジョルジョは反発するが、軍医は彼女を救うために声をかけるよう彼に求める。

※軍医とジョルジョによるやり取りの途中のセリフ=軍医"This passion that has developed for you-" ジョルジョ"Passion for me?"

13.Three Weeks

 ジョルジョがフォスカの応接室を去ると、のんびりしたラッパのファンファーレとドラムが鳴り、クララがジョルジョからの手紙を読む。"Three weeks"はフォスカの"Three days"と同じフレーズ。その後クララは手紙をセリフで読み続け、そこに兵士たちの"Third letter"のリフレインが被る。

○第7場:フォスカの寝室

 深夜、ジョルジョの思わぬ来訪に喜ぶフォスカ。彼女は、彼にベッドの上に足を伸ばして座るよう求める。そして、ジョルジョに自分宛の「恋文」を書かせ、自分の妹に対するように別れのキスを求める。ジョルジョが彼女のおでこにキスしようとすると、彼女は彼を引き寄せ、激しく抱きしめる。驚いて離れ、立ち去るジョルジョ。叫ぶフォスカ。

14.Scene 7(Part I)

 第7場への場面転換の音楽から始まり、フォスカとジョルジョのやり取りの間も続く。「不機嫌のテーマ」「本心のテーマ」が頻繁に登場。
 ジョルジョがベッドの上に足を伸ばして座ったところで、フォスカのソロが始まる。これが何と、1.Happiness後半に登場するジョルジョの"God, you are so beautiful."のリフレイン。しかし、その先はジョルジョのソロが「クララを光の中で見て、記憶に留めたい」と歌うのに対し、ここでフォスカは「光の中のあなたを見せて。私は暗いところの方が気分がいい」と歌う。

15.I Wish I Could Forget You/Scene 7(PartII)

 フォスカがジョルジョに「恋文」を書かせる場面。「不機嫌のテーマ」に続く音楽が短調にアレンジされ、テンポやリズムを少しずつ変えながらしつこいほど繰り返される。文面上はジョルジョのフォスカに対する「恋文」なのだが、中身はもちろんフォスカのジョルジョに対する切ないまでの恋い焦がれる思いである。歌唱部分の最後のフレーズ、"Your love will live in me."も「不機嫌のテーマ」で歌われる。
 4分の4拍子で始まった曲が途中で4分の3や8分の12に変わり、なおかつ4分の3の1小節を4連符に分けるなど、複雑なリズムだが、聴く側に察せられないように歌えるかどうか。フォスカ役の聴かせどころ。
 

○第8場:ビリヤード室

 翌日、ビリヤードをしながらフォスカの噂話をする士官たち。その傍らに立つ軍医にジョルジョが近付くと、軍医は謝意を伝える。士官たちは、ジョルジョが今度の夏少佐に昇進するだろうと噂する。
 リッチもジョルジョに感謝の気持を伝え、自分とフォスカの身の上話をする。フォスカは両親から溺愛されたために自分のことを美しいと思い、オーストリアの伯爵を名乗るルドヴィッチという美男の結婚詐欺に引っかかる。持参金はギャンブルに使われ、これをきっかけにフォスカは病気になったのだという。

16.Transition

 第7場から第8場への場面転換の音楽。士官たちが7.Transitionでのジョルジョのソロのリフレインを歌う。ラッパのファンファーレを経て次へ。

17.Soldiers' Gossip
 ビリヤードしながら、昨夜のフォスカの叫び声を種に噂する士官たちの歌。ラッパのファンファーレに似た、ドミソの音型が多用され、乾いた皮肉っぽい音楽。

18.Flashback

 フォスカの過去の人生を振り返る場面。3拍子で、登場人物たちはオペレッタ風に能天気に歌い、演じる。
 リッチとフォスカが「後悔のテーマ」を繰り返す。これに対し、ルドヴィッチがフォスカに対して歌う"I've seen you at your window."が「不機嫌のテーマ」とほぼ同じで、その後頻繁に登場する。

 続いてルドヴィッチに騙された別の女性がフォスカを非難するナンバー。ここでも「不機嫌のテーマ」がしばしば登場。

 続いて詐欺がばれて開き直ったルドヴィッチがフォスカに弁解して別れを告げるナンバー。オペレッタ風だが、とげとげしい音楽。

 そしてフィナーレ。フォスカのソロ、リッチのソロ、最後は全員の重唱。ここでも「不機嫌のテーマ」が音楽をリードし、終盤は「後悔のテーマ」が繰り返される。
 切れ目なく次のナンバーへ。

○第9場:前線から離れた山腹

 クララからの手紙を読むジョルジョ。遠くからかすかに雷鳴が聞こえる。そこへフォスカが現れ、病状がよくなってからジョルジョが自分を避けていることを非難する。そしてジョルジョにキスを求める。彼が応じないので、今度は彼女が彼の手にキスする。ジョルジョは彼女の身勝手なやり方に耐え切れず、こんなものは愛ではないと激しく反発する。
 間近で雷が鳴る。フォスカは立ち去ろうとするが泣き出し、くずおれる。ジョルジョは彼女を抱き上げて兵舎へ連れて帰る。

19.Sunrise Letter

 まず、クララがジョルジョへの手紙を歌う。2.First Letterのメロディのアレンジ。途中からジョルジョが引き継いで歌う。音楽の基本は5.Fourth Letterのリフレインだが、会えない苛立ちが「不機嫌のテーマ」及びその変形でしつこく示される。だんだん気持ちが高ぶり、頂点に近付くとフォスカのセリフでぶつ切れとなる。この終わり方も5.と同じパターン。

20.Is This What You Call Love?

 ジョルジョがついにフォスカに対してキレるソロ。もちろん「不機嫌のテーマ」オンパレード。後半は18.Flashbackフィナーレのリッチのソロも顔を出し、激しくまくし立てるような音楽に。

○第10場:練兵場

 士官たちが、ジョルジョとフォスカがずぶ濡れで帰ってきたと噂話を始める。彼は来週少佐に昇進するだろうと予測。
 場面はジョルジョの寝室に変わる。ベッドで眠るジョルジョの上にフォスカが馬乗りになり、その様子を人々が取り囲んで覗いている。そんな悪夢にうなされるジョルジョ。
 ジョルジョは軍医に起こされる。軍医は病気休暇を取り、少し回復したらミラノへ帰るよう告げる。

21.Soldiers' Gossip

 ドラムの連打に続き、士官たちの噂話の合唱。

22.Nightmare

 ジョルジョの悪夢のバックに、20.Is This What You Call Love?が士官やメイドたちによって歌われる。音楽はどんどん緊迫感を増し、冒頭の不協和音へ。
 

○第11場:列車の客室

 ジョルジョが乗った列車が出発する寸前にフォスカが駆け込み、彼の客室へやってくる。激怒する彼に対し、フォスカは「あなたを愛することは選択ではない」「あなたを愛することが私に残された人生の目標」「あなたのために生きて死ぬ」と告げ、「クララはあなたのために命を捧げられる?私はできる」と訴える。
 ジョルジョはフォスカを連れて駐屯地に戻る。軍医に対して「なぜあの女を私の人生に持ち込んだ?」と詰め寄る。軍医は謝るが、ジョルジョが40日間の病気休暇を拒否してフォスカの元に留まりたいと言うと、それを止めようとする。そして「誰も彼女を助けることはできない」と言い放つ。

23.Transition

 第10場から第11場への場面転換の音楽。第3場でクララがジョルジョに向けて歌うフレーズ(「不機嫌のテーマ」)をリッツォーリがリフレイン。切れ目なく次のナンバーへ。

24.Fourty Days

 ジョルジョが列車に乗る前に、クララが舞台に登場し、ジョルジョの帰りを待って歌うナンバー。クラリネットの「タタタン」の上昇音型が発展し、2.First Letterのメロディがワルツ風にアレンジされ、速いテンポでウキウキした音楽だが、列車の汽笛で中断。

25.Loving You

 フォスカのソロ。導入として、クラリネットが「不機嫌のテーマ」から最初の音を抜いた音型を「タタタンタンター」のリズムで奏でる。このフレーズは歌の間も繰り返される。
 歌い出しは、「愛のテーマ」に比べると、ハ長調に直すとA-C-E-Gの音型をつなげていく無骨で不器用とも言うべきフレーズ(毎日ドミソしかないラッパのファンファーレを聞かされているから当然とも言える)だが、少しずつ重みを増して響いてくるから不思議。そして、"This is why I live."でも先のクラリネットのテーマが登場する。

26.Transition from Train Scene

 列車の場面を締めくくる女と男の二重唱。クララの手紙の内容が「不機嫌のテーマ」に乗ってリフレイン。

27.Soldiers' Gossip

 ドラムの連打に続き、士官たちの噂話の合唱だが、40日間の休暇へのやっかみと酔っぱらっているせいで、歌いぶりは荒っぽくなっている。

○第12場:ミラノ駅の近く

 ジョルジョはクララと再会するが、40日でなく4日しか滞在しないと言う。フォスカのことを持ち出すクララに対し、ジョルジョは夫と離婚して一緒に生活しようと迫る。ジョルジョの変化に動揺するクララ。2人の関係に初めてひびが入る。

28.Scene 12

 ジョルジョとの再会に興奮するクララのソロ。2.First Letterのメロディのアレンジで始まり、途中で「不機嫌のテーマ」が顔を見せるが、それはより情熱的なフレーズに取って代わられ、頂点に達しようとする寸前にジョルジョのセリフに中断される。かつてジョルジョがフォスカに2回やられたのと同じパターンの仕打ちがクララに向けられる。

○第13場:ダイニング・ルーム

 クリスマス・パーティを楽しむ人々。フォスカがピアノを弾き、トラッソが歌う。そこへジョルジョが戻ってくる。リッチはジョルジョが本部へ送還されることになったことをなぜ知らせなかったのか、と問い詰める。驚くジョルジョ。ショックで叫びながら走り去るフォスカ。追いかけるリッチ。
 ジョルジョはクララからの手紙を読む。子供が大きくなるまで待ってほしいという。手紙をくしゃくしゃにするジョルジョ。
 リッチが紙切れを持って戻ってくる。以前フォスカに頼まれてジョルジョが書いた「恋文」である。リッチは死が近いいとこを誘惑したのは自分に対する侮辱でもあるとして、ジョルジョに決闘を申し込む。
 ジョルジョは軍医に対し、決闘の前にフォスカに会わせるよう頼むが拒否される。

29.Christmas Music

 トラッソが歌うイタリア民謡風の歌だが、最後は後期ロマン派風?半音階で終わる。

30.Farewell Letter

 クララがジョルジョ宛の手紙を歌う。最初の"Giorgio"の音型以外は、2.First Letterとは異なるメロディが登場する。途中からセリフとなる。
 そして、冒頭のジョルジョとクララの二重唱のリフレインとなる。しかし、クララが歌う「愛のテーマ」に対して、ジョルジョはかつてフォスカに向かって歌った20.Is This What You Call Love?で応える。そして、最後は11.Trioでジョルジョがフォスカに送った手紙を締めくくる"Nothing"のフレーズを2人で交互に歌ううちに、消え入るように終わる。

○第14場:フォスカの寝室

 ジョルジョはフォスカに対し、クララとの関係が終わったこと、真の愛とは何かをフォスカから教えられたと言って、フォスカへの愛を告げる。喜ぶフォスカ。ついに2人は結ばれる。

31.No One Has Ever Loved Me

 ジョルジョがフォスカに愛を告白するソロ。ブルックナー・リズムと逆で1小節4拍を2拍ずつに分け、前半2拍分を3連符に、後半2拍を1拍ずつ刻むリズムが繰り返される。ぎごちないが胸に迫るメロディ。

 これに応えるフォスカのソロは、何と「愛のテーマ」である。歌っている時間はごく短いが、このフレーズが観客に与えるインパクトは計り知れない。
 その後のセリフのやり取りの間も背景音楽は続く。フルート、そしてオーボエのソロが2人を静かに祝福し、その後一気に音楽は最高潮になるが、すぐドラムの連打にかき消される。
 

○第15場:平原

 リッチとジョルジョの決闘。リッチが倒れる。叫ぶジョルジョ。

32.決闘

 背景でかすかにドラムの連打が響き、撃ち合ってリッチが倒れるとCのオクターブのユニゾン、続いて冒頭の不協和音が響く。切れ目なく次のナンバーへ。

○第16場:病院

 机の前に座るジョルジョ。軍医からの手紙を読んでいる。フォスカはジョルジョと最後に会った3日後に死去し、リッチは重傷だが命に別状はなく、経緯を話してジョルジョの無実を理解させるようにしたい、とのこと。
 軍医からの手紙には、フォスカが死の直前にジョルジョ宛に書いた手紙も同封されていた。
 愛されるようになって私は生きたいと思うようになった、でも、新しいことをあなたから学んだから私は旅立てる。それは、あなたが私の中にいること。だから、あなたが明日死んでも、あなたの愛は私の中で生き続ける。
 これまでに起こったことを思い返しながら手紙を読むジョルジョの姿が暗闇の中へ消えてゆく。

33.Finale

 士官、メイド、そしてクララがこれまでの物語を回想しながら歌い、ジョルジョの背後に集まる。
 ジョルジョがフォスカの最後の手紙を読むところは、"Loving You"のリフレイン。まずジョルジョのソロ、そこにフォスカも加わり、二重唱。「不機嫌のテーマ」が頻繁に登場するが、曲想は最早「不機嫌」ではない。これに周囲の人物も加わる。最後のフレーズ、"Your love will live in me."(もちろん「不機嫌のテーマ」)には他の人物たちも加わるが、最後の最後はジョルジョ、そしてフォスカのソロで終わる。愛の結晶のような和音で幕切れとなる。