<どんな作品?>
 1958年、「ウェスト・サイド・ストーリー」でソンドハイムの名が初めてブロードウェイで知られるようになった翌年、「ウェスト・サイド」の脚本を書いたアーサー・ローレンツが彼に新しい脚本を見せ、これを元にした作詩・作曲を依頼します。しかし、主演女優のエセル・マーマンのリクエストにより、作曲はジュール・スタインが受け持つことになり、彼はまたも歌詞だけを書くことになりました。
 この年ソンドハイムは28歳。これに対してスタインは52歳、毎年のように新作を発表する売れっ子作曲家でした。当時の2人の関係からすれば(ソンドハイムとしては)やむをえない話だったのかもしれません。
 ともあれ、翌年にこのミュージカルはブロードウェイで初演され、またも大成功を収めるわけです。ちなみにこの時の振付も「ウェスト・サイド」と同じジェローム・ロビンスでした。

 このミュージカルは一世を風靡したストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの回想録をヒントに作られています。ところが、主人公は彼女でなく彼女の母親なのです。母親ローズの異常と言っていいほどのステージ・ママぶりに焦点を当て、母親中心で話が進んでいきます。
 この着想は今から考えても新鮮ですし、ソンドハイムも創作意欲を掻きたてられたのではないかと思います。ただ、それ以外については物語の進行、音楽ともども奇をてらわない、オーソドックスと言うか、オペレッタの延長線上に位置付けられるタイプのミュージカルと言えます。
 ソンドハイム・ファンとしては、各ナンバーの歌詞に注目することになります。彼独得の凝った言い回しやしつこさは十分楽しむことができますが、それが先に述べた伝統的スタイルのストーリーと音楽の中で、少々居心地悪げに収まっているような気もします。もちろんこれによって作品の価値自体が下がるわけではありませんが。

<登場人物>
 上記で述べたとおり、このミュージカルの中で「ローズ」と言えば母親を指すものと思っていただいてほぼ間違いありません。これに対して娘のジプシー・ローズ・リーの方は、ストリッパーになるまでは「ルイーズ」と呼ばれています。

 ローズ:娘をスターにすることを生きがいとする母
 ルイーズ:ローズの長女
 ハービー:ローズたちの代理人
 ジューン:ローズの次女
 タルサ:ジューンのバックダンサーの1人 ほか
  

<みどころ、ききどころ>

[序曲]
 暗黒の空を雷鳴が切り裂くかのようなトランペットのフレーズ(実はこれ"I have a dream, a wonderful dream"の音型なのですね。)に始まり、"Everything's Coming Up Roses" "You'll Never Get Away from Me" "Small World""Rose's Turn" "Mr. Glodstone"の順に劇中の主要ナンバーのメロディをメドレー風に織り込みながら軽快に進んでいきます。典型的なオペレッタ・パターンの序曲です。

[第1幕]

○第1場:「ジョッコおじさんのこどもショー」(シアトル)

 田舎劇場の舞台。オーディションを受ける子供たちが並んでいる。ショーのホスト、ジョッコおじさんが勝手に練習する子供たちを黙らせ、母親を全て追い出して、オーディションを始める。
 「ジューン一座」(と言っても他にいるのは姉のルイーズだけ)の出番になる。

1.May We Entertain You

 子供が色目を使って大人を楽しませようとする歌。
 後でこの歌は重要な役割を果たすのだが、ここでは全体の一部しか歌われない。なぜなら…

 ジューンとルイーズが歌い始めるとまもなく、うまく歌えないルイーズを叱咤する声が聞こえてくる。その声に演奏も中断。追い出されたはずの母親ローズが舞台に上がって2人への指示を続けるとともに、ジャッコに猛然と娘の売り込みを始める。
 これから何度となく見せられるローズの激しい生き様の序章である。

○第2場:シアトル、ローズの家

 オーディションを終え、疲れて帰宅するローズたち。娘たちを寝室へ向かわせるのと入れ違いにローズの父ポップが入ってくる。ポップは鉄道会社に50年勤めて隠居したごく平凡な老人。ローズの「愚行」を止めさせようとするが、彼女は聞く耳を持たない。

2.Some People

 ローズの人生観を強烈に訴えかけるナンバー。すなわち、平凡な生活を嫌い、夢を追いかける。そして周囲の人間は自分の夢の実現に協力して当然とばかりに、父に金をせびる。
 (後の名作"A Little Night Music"の"The Glamorous Life"の原型みたいな感じもします。)

 ローズはシアトルを出て娘たちを他の町でチャレンジさせようとしている。ポップはこれ以上の資金援助を拒んで出て行くが、ローズは父の唯一の誇りである永年勤続表彰のプラークを奪い取る。

○第3場:道中

3.Traveling

 "Some People"の音楽がBGM風に流れる中、ローズと娘たちはヒッチハイクした車に乗ってロサンゼルスに向かうところ。途中でダンスのうまい男の子、歌のうまい男の子などを誘拐同然に引っ張り込んで車に乗せる。

○第4場:ロサンゼルスのヴォードヴィル劇場

 舞台裏。ローズが劇場支配人にまたも強引に売り込んでいるところへ、ハービーが通りかかる。彼はかつてショー・ビジネスで働いていたが今はキャンディ会社に勤めている。支配人が意見を求めると予想に反して彼はジューンたちを評価する。彼はシアトルの舞台も観ていたのだ。不愉快そうに立ち去る支配人。
 結婚に懲りて夢を追うが、娘たちの代理人が必要なローズ。ショー・ビジネスから足を洗ったものの、子供好きで独り者のハービー。2人の利害が一致したのか、それとも何かの縁を感じたのか、2人は惹かれあう。

4.Small World

 そのまま訳せば「小さな世界」、でもこの場合は「(所詮ショー・ビジネスは)狭い世界」といったニュアンスも含まれている感じがします。ロマンチックな二重唱ですが、2人を引き寄せるのは愛か打算か?

 支配人が戻ってくる。ハービーがいつの間にかローズたちの代理人になっているので仰天。

○第5場:ロサンゼルスのヴォードヴィル劇場

5.Baby June and Her Newboys

 ジューンが3人の少年とルイーズを率いて見せるショー。新聞「少年」4人がジューンを派手に紹介し、ジューンはローズがかき集めた最もきれいな衣裳を着て登場。ラグタイム風の"May We Entertain You"を歌って踊った後、自由の女神姿になって「星条旗よ永遠なれ」をバックにバトントワリングを披露。
 ショーはさらに続くが、その中で彼らは大人に成長していく。つまり「ジューン一座」はワンパターンのショーを各地で何年も続けていくのである。

○第6場:エイクロンの安ホテル

 ルイーズとバック・ダンサーの青年たちが雑魚寝している。ルイーズが一足早起きし、彼らの安眠を妨害。そこへ別室で寝ていたジューンも入ってきてローズまで起こしてしまったと苦情。しかし、そこへローズがケーキ(ただしろうそくは10本しか立っていない)を持って入ってくる。今日はルイーズの誕生日だったのだ。ダンサーたちも知って知らぬ振りをしていたのである。みんなからプレゼントをもらってルイーズが喜ぶのも束の間、ローズは夢で見た新しいショーのアイデアをみなに披露する。
 そこへホテルの支配人が規則違反(部屋の中で調理したり定員オーバーしたり動物を部屋に入れたり)をとがめて彼らを追い出そうとするが、機転を利かせたローズの罠にかかり、逆に追い出されてしまう。
 そこへハービーが戻ってくる。
 
6.Mr. Goldstone, I Love You

 ハービーが連れてきた劇場支配人ゴールドストーン氏をみなでヨイショする歌。

7.Little Lamb

 上記の大騒ぎの間に1人別室に逃げ込んだ(取り残された?)ルイーズはプレゼントの中で最も気に入った子羊を抱いて歌う。方々を旅してショーをやっている間に彼女はいつの間にか自分の歳もわからなくなっている。自分の人生に対する不安と心細さを吐露する歌。

○第7場:ニュー・ヨークの中華レストラン

 閉店間際のレストランの中。オーディションを翌日に控え、ローズは娘達を先にホテルに返し、自分はせっせと残った食べ物を集め、店のナイフやフォークをネコババしている。そんな様子を見ながらハービーは、いつになっても娘達を子供扱いし、いつになっても結婚する気を見せないローズにいら立ち始める。

8.You'll Never Get Away from Me

 そんなハービーをローズが巧みになだめる歌。彼の足元を見透かしたような歌詞だが、いざとなると彼も彼女の元を去る決心がつかず、結局彼女の魅力に抗しきれない。最後には甘い二重唱で終わる。

○第8場:ニュー・ヨーク、グランツィガー支配人のパレス劇場

 劇場の舞台。袖で秘書クラチットが支配人からの電話に答えている。例によって誰の許可も得ずにローズは舞台であれこれ注文をつけ、ハービーは支配人のご機嫌を損ねぬよう彼女を袖に下がらせる。やがてショーが始まる。

9.Dainty June and Her Farmboys

  青年たち(+ジューン)がイントロを歌い、踊り、続いて主役のジューンが登場するというのは以前のショーと全く同じパターン。違うのはニュースボーイがファーム(農場)ボーイになって6人に増え、ルイーズが牛の前半分に扮することくらい。締めはまたも「星条旗よ永遠なれ」である。
 秘書の予想に反し、支配人はショーが気に入った様子。喜ぶローズ。

○第9場:パレス劇場の一室

 クラチットのオフィス。ベンチにジューンとルイーズが並んで座っている。
 そこへ契約書を持ったハービーとローズが入ってきて、ジューンたちの出演場所として場末の別の劇場が記されていると苦情。クラチットはそれは間違いでないと言った上、さらに彼女達が出演する条件として支配人はローズが手を引くことを求めていると伝える。激怒したローズはハービー達が止めるのも聞かず支配人を捕まえるべく退場。

10. If Mamma Was Married

 残されたジューンとルイーズによる二重唱。ジューンはこれ以上子供地味たショーはやりたくないと愚痴り、ルイーズはビジネスしか頭にないハービーのせいで母は目が覚めないのだと非難する。いずれにせよ、2人は母親に早く結婚してもらって平凡の生活を送りたがっている。
 ローズの"Some People"と好対照を成すナンバー。

○第10場:バッファローのある劇場裏

 バックダンサーの1人、タルサが出番を前に練習しているところへハービーが登場。ローズが手を引かないために結局彼らはニュー・ヨークでも受け入れられず、さらにあちこちでオーディションを受けるが契約をものにできず、カナダ国境近くのバッファローにたどり着いている。
 そこへ牛柄のズボンを履いたルイーズが入ってくる。ハービーはふと、ローズへの愛を初めて彼女に向かって語る。驚くルイーズ。
 ハービーが去った後、ルイーズはタルサが別の舞踊団で練習しているのを見たと告げる。タルサは驚くがルイーズは秘密を守ると言うので、安心して自分の夢を語り始める。

11. All I Need Is the Girl

 彼はその舞踊団の憧れのパートナーといるつもりで踊り始める。最初はうらやましげに観ていたルイーズだが、やがて彼の後ろで踊り出す。彼が持ち上げる仕草をすると彼女は持ち上げられる動きをするなど、すっかり彼のパートナー気分である。やがてその様子に気付いたタルサは彼女の踊りが気に入り、今度は2人で本物のデュエットを踊り出す。

○第11場:オマハ駅のプラットフォーム

 ローズとハービー、少し離れてバックダンサーの3人が列車を待っている。他のメンバーが来ないのをいぶかるローズのところへルイーズがジューンの置手紙を持って駆け込んでくる。ジューンはタルサと結婚してローズの元を去ったのである。主役がいなくなっては「ジューン一座」も解散せざるを得ない。ハービーはダンサー達に列車のチケットを渡して去らせる。
 ジューンの手紙を見て放心状態のローズに、ハービーはここぞとばかり求婚する。ルイーズも承諾するよう母に迫る。

12. Everything's Coming Up Roses

 しかし、ローズはあきらめない。今度は、ついさっきまで才能なしと邪険に扱ってきたルイーズをスターにしてみせると言い出す。あまりの展開にあっけに取られるルイーズとハービー。しかし、そんな2人にかまわずローズはいつものようにエネルギッシュに夢を語り出すのだった。

[第2幕]

○間奏曲

 序曲と同様劇中のナンバーのメドレー。"Mr. Goldstone"に始まり"If Mamma Was Married""You'll Never Get Away From Me"と続いていく。

○第1場:テキサス

 郊外の砂漠の中らしき風景。旅回り用の車の後部やテントが舞台袖からのぞいている。あれからさらに放浪の旅を続けているのがわかる。しかもホテルにも泊まれないほどの厳しい境遇である。
 そんな中でもローズはいつもどおり稽古を始める。

1.Madame Rose's Toreadorables

 ショーのタイトルはなぜかローズの名前が使われている。今度はルイーズが主役で女性のバックダンサーが盛り立てるが、中身は"Baby June and Her Newboys"と同じパターン。「星条旗よ永遠なれ」の代わりに「カルメン」の「闘牛士の歌」がフィナーレで使われる。
 娘をスターにしたい意欲は世界一かもしれないが、その割にショーのアイデアが絶望的なまでに枯渇しているところがおかしい。
 ジューンのやっていた歌や踊りがそのままルイーズにできるわけもなく、彼女はバックダンサーよりもぎごちなく歌い踊っている。

 日暮れが近い。ダンサーたちが帰った後、町からハービーが帰ってくる。どこの劇場からもお呼びがかからない。ルイーズはジューンと同じようなことをさせられるのに耐え切れず母に怒りをぶちまける。

2.Together, Wherever We Go

 しかし、まだまだローズは楽観的。少くとも3人いつでもどこでも一緒じゃない!そう言われるとハービーやジューンもまんざらでない気分になり、またもローズのペースに引きずり込まれ、一緒に歌い、踊りだす。
 ローズはともかくハービーやジューンにとっては、仕事のない今こそが自分たちの希望に最も近い生活なのだ。ジューンは母にかまってもらえるわけだし、ハービーにとっては結婚したも同然の生活なのだから。

 歌い終わった後ふとしたことからジューンが新たなショーのアイデアを思いつく。バックダンサーたちの髪を漂白して金髪にすればかつら代を節約できるし、客にも受けるに違いない。3人は俄然盛り上がる。

○第2場:カンザス州ウィチタの劇場の舞台裏

 観客向けに表示されるプラカードには"The Bottom"(どん底)と書かれている。放浪の末ローズたちがやっとたどり着いた劇場は、Burlesque theatreである。"Burlesque"とは一般的な意味は「道化芝居」だが、この場合はストリップ・ショーのこと。とうとうそんな所からしかお呼びがかからなくなったということである。

 しかし、アグネス他バックダンサー達はそんな事情もつゆ知らず「本物の」劇場へやって来て感激している。彼女達の髪は漂白されてみずぼらしい「金髪」になっている。続いて入ってきたルイーズも、彼女達ほどではないにせよ幸せな気分であることに変わりはない。
 でもそんな彼女らに劇場のスタッフはすぐ冷水を浴びせる。指定された時間に遅刻したために、他の「出演者たち」と一緒に楽屋を使わなければならない。しょげるバックダンサー達をルイーズは励まし、リハーサルの準備に取り掛からせる。
 そこへローズも入ってくる。彼女も最初は久々の劇場入りを喜ぶものの、舞台裏を通りかかる「出演者たち」を見てすぐに引上げようと言い出す。ストリップ劇場に出なきゃいけないくらいなら餓死した方がましというローズに対し、ルイーズは珍しく反対し、ここで仕事をもらえばいいと主張。
 ハービーが飛び込んでくる。彼はここがストリップ劇場と知らずに手配をしたと釈明する。ローズも気持を切り換え、ここでショーを見せることを決心するとともに、2週間の契約期間が終了したら今度こそ彼と結婚すると約束する。思わぬ展開に大喜びの彼は楽屋に入ってきたスタッフが横柄な態度を続けるのでお灸を据えて出て行く。
 入れ替わりに楽屋にストリッパーの1人テッシーが入ってくる。自分の楽屋に急に割り込んできたローズたちを最初は邪魔扱いするが、ローズの作った衣裳に感心し、金を払って新しいガウンを作ってもらうことにする。
 そこへ劇場支配人が入ってきてテッシーに短いコメディをやってもらおうと懇願するが、彼女は承知しない。その様子を聞いていたルイーズは、母に口を挟む余地を与えず代わりににその仕事を獲得。
 2人のたどってきた道がうすうすわかってきたテッシーに対しローズは強がりを言って出て行く。
 そこへ他のストリッパー2人が入ってくる。「自分は才能がないからストリップはしない」と言うルイーズに対して、3人は歌い始める。

3.You Gotta Get a Gimmick

 ストリップでスターになるのに才能は要らない、特別な「からくり」があればいいと言い、3人はそれぞれ自分達の「からくり」をルイーズに見せてやる。マゼッパはラッパを吹き、エレクトラは身体中に巻いた電飾を光らせ、テッシーは蝶の衣裳でバレエらしき踊りをやってみせる。
 いずれもこんなの誰が見るの?という無粋な見世物だが、今までコンプレックスのかたまりだったルイーズにとっては暖かい「ショー・ビジネスへの手引」になる。このナンバーがルイーズの人生を変えるのである。

○第3場:ウィチタの劇場の舞台裏

 それから約2週間後。ルイーズ達のショーの楽日。無事出番を終え荷物をまとめて出て行こうとするアグネスのところへ、ハービーがローズへの花束を持って通りかかる。彼は幸せ一杯でローズの楽屋へ向かう。

○第4場:ルイーズの楽屋

 ローズたちもほとんど荷物をまとめ、もうすぐ引き払える状態。待ちに待った結婚の日なのにローズが落ち込んでいるのが、ハービーには不思議でならない。
 その時ローズの耳に劇場支配人とスタッフの会話が飛び込んでくる。ストリッパーの1人が警察につかまり、スケジュールに穴が開いてしまった。頭を抱える支配人。
 すかさずローズはルイーズを売り込み、ルイーズとハービーに口をはさむ間も与えず支配人を承諾させてしまう。さらに息継ぐ暇もなくルイーズの衣裳、メイク、BGMを矢継ぎ早に指示する。
 ルイーズは観念して母の指示に従うが、収まらないのはハービー。とうとうローズに愛想をつかし、別れを告げる。ローズは言い訳を重ねた挙句最後に「あなたが必要なの」と言うが、時既に遅し。彼は楽屋を出て行く。

4.Small World

 ハービーが去った後、第1幕の二重唱の一節をローズが一人でしばし口ずさむ。

 そこへ衣裳を着て準備を終えたルイーズが出てくる。我に返ったローズは娘を励ます。テッシーも入ってきて自分の肩掛けを巻いて励ます。
 いよいよ出番。スタッフは間違えて「ジプシー・ローズ・リー」と紹介。音楽が始まり、舞台には上がったものの途方に暮れた様子のルイーズに、舞台袖のローズや支配人から指示が飛ぶ。彼女は自分でも「ジプシー・ローズ・リー」と名乗り、母に言われたとおり肩紐をはずしただけで退場する。

 その瞬間次々と場面が変わっていく。デトロイト、フィラデルフィア、ボストンと「どこでもドア」を通るように移動していく。

5.Let Me Entertain You

 そしてついにニュー・ヨークのミンスキー劇場の舞台へ。ルイーズは今や押しも押されぬストリップ・スターに成長し、何人ものダンサーを従えて堂々と歌い、堂々と脱ぐ。そしてかつてはジューンのナンバーだったこの曲は今やルイーズのナンバーになったのである。

○第5場:ミンスキー劇場の楽屋

 ショーが終わった後。ルイーズはメイドとプレス担当を雇い、身辺の世話をさせている。ローズは昔のようにルイーズの面倒をあれこれ見ようとするが、今のルイーズには邪魔でしかない。しかも彼女の周囲にはローズの知らない友人達ができてしまっている。
 ローズは面白くない。確かに自分の望みどおり娘はスターになった。でも自分が目指したヴォードビルでなくストリップの世界で。しかも娘が自分を必要としなくなっている。それが気に入らない。
 逆にルイーズは幸せの絶頂である。なぜなら彼女は生れて初めて自分の人生を自分の力と責任で歩んでいるからである。
 そんな2人の間にはいつの間にか深い溝ができてしまった。とうとうどなり合いの喧嘩となり、ルイーズは母を追い出そうとする。ローズがやむなく出て行こうとするところへ取材のカメラマンが入ってくる。ローズの居場所はない。今まで自分の全人生をかけて戦ってきたのに。何のためにやったのか?ローズの問いにルイーズは「私のためにやってくれたと思っていた」と答える。その答えになぜかショックを受けたローズは静かに出て行く。

○第6場

 台本に場所の記載はない。舞台では1個のスポットライトがローズを照らすのみである。
 何のためにやったのか?娘のためではない。自分のためである。ほんとは自分が一番うまいのに。でも生れるのが早過ぎ、始めるのが遅過ぎたのだ。ついにローズは本音を吐露し始める。

6.Rose's Turn

 ローズの呼びかけに誰もいないはずの劇場が答える。彼女はステージの花道にいるのだ。照明がつき、オーケストラが演奏し始める。
 ステージママが本性を剥き出しにし、今までためていたフラストレーションを一気に爆発させ、今度こそ自分の出番とアピールする。

 歌い終わって誰もいない客席に向かってお辞儀するローズに脇でこっそり見ていたルイーズは拍手する。照れ隠しでごまかそうとするローズ。ルイーズは悟る。母も誰かに気付いてもらいたかったのだ。自分が母に気付いてもらいたかったように。2人は和解し、抱き合う。
 ローズは昨夜見たという夢の話をする。同じ衣裳を来た母と娘のポスター。ルイーズは笑って出て行く。ローズもついて行こうとするがステージの方を振り返る。花道のライトがつくが前に進み出ようとすると消えていく。やっと自分の夢をあきらめたローズは向き直り、娘の後を追ってステージを出て行く。