(読者の皆様へ)
この作品は以下に詳しく説明しますが、初演版から大幅に改作がなされ、改訂版の脚本やスコアはまだ出版されていません。以下の作品紹介は、僕がリンカーン・センターの公演を観たり初演版の台本やニューヨーク・タイムスの記事などを読んだりして理解した範囲で書いていますので、ひょっとしたら誤解や見落としがあるかもしれません。あくまで未定稿としてお読みいただくことをお願いするとともに、もしお気づきの点があれば遠慮なくお知らせ願えれば幸いです。
<どんな作品?>
古代ギリシャの演劇とワインの神、ディオニュソスが荒廃した世界を救済するため、冥界からバーナード・ショーを連れ戻して新しい作品を書かせようとする冒険コメディです。
初演は1974年にさかのぼり、イェール大学のプールを使って上演されました。その時は1幕仕立の短い作品だったようです。その後何度か再演された後、大幅な改作がなされ、2004年リンカーン・センターのヴィヴィアン・ボーモント劇場で改めて初演されました。2幕仕立で正味2時間を越える作品になっています。
いずれの版も作詩・作曲はソンドハイムですが、ベースにしているのは何と古代ギリシャの代表的な劇作家アリストファネスの同名の戯曲です。
初演版と改訂版では基本的なストーリーは同じですが、オリジナルとかなり変えている部分もありますので、そのあたりもご説明しながらご紹介したいと思います。
<登場人物>
ディオニュソス
クサンティス:ディオニュソスに仕える奴隷
ヘラクレス
シャロン:三途の川の渡し舟の船頭
アエアコス:プルートの家臣
プルート:冥界を支配する神
ジョージ・バーナード・ショー
ウィリアム・シェイクスピア
カリスマ:女奴隷
ヴィリラ:アマゾネス
アリアドネ 他
<みどころ、ききどころ>
[第1幕]
○プロローグ:ヴィヴィアン・ボーモント劇場の舞台上(冗談みたいですが、プログラムにそう書いてあります。)
ファンファーレを合図にディオニュソスとクサンティスが登場。ディオニュソスが観客に向かいこの劇の紹介をする。「時は現代、場所は古代ギリシャ」と聞いただけで、クサンティスは混乱している。
次に2人は観劇のルールをユーモラスに紹介。その途中で雷鳴が轟き、2人は逃げる。世界は荒廃し、雷鳴はディオニュソスの父ゼウスの怒りを表している。入れ替わりに古代ギリシャの人々が現れる。
1.Invocation and Instructions to the Audience
古代ギリシャの人々の合唱。
○第1場:古代ギリシャ
再びディオニュソスとクサンティスが登場、ディオニュソスは下界を救い、神々の怒りを静めるため、イギリスを代表する劇作家ジョージ・バーナード・ショーを連れ戻し、新たな作品を書いてもらうため、旅立つ。
ただし、クサンティスには行き先を告げていない。彼は重い荷物を背負わされ、ディオニュソスの後を付いて行く。
2.Travel
ディオニュソスとクサンティスの二重唱。旅する2人。その中でディオニュソスは、自分がカエル・アレルギーであることを告白する。
<初演版では?:その1>
初演はプールで行われたため、三途の川の渡し舟が最初から浮かんでいます。
クサンティスは最初から荷物を背負わされています。最初のセリフを吐くのも彼です。
合唱は舞台裏で歌っているようです。また、古代ギリシャ人でなくどうやらカエルの合唱のようです。
ディオニュソスがカエル・アレルギーという設定はありません。
○第2場:ヘラクレスの家の前
ディオニュソスはヘラクレスにショーがいる冥界への行き方を尋ねる。それを脇で聞いていたクサンティスは仰天し、付いて行かないと言い出す。
3.Dress Big
ヘラクレスはさらに、護身用にライオンの毛皮とこん棒を持って行くよう勧める。遠慮するディオニュソス、そもそも冥界へ行きたくないクサンティスとの三重唱。
結局ディオニュソスは軽めの毛皮と等身大のこん棒を借りることとし、クサンティスを何とか説得する。
<初演版では?:その2>
ヘラクレスから毛皮とこん棒を借りるのはディオニュソスのアイデアということになっています。
○第3場:三途の川の岸
4.I Love to Travel
旅を続けるディオニュソスとクサンティスの二重唱。
三途の川の岸に2人が着くと、渡し舟がやってくる。
5.All Aboard
船頭シャロンの神秘的なソロ。
2人は乗ろうとするが、クサンティスは奴隷なので乗れないと言われる。しかし、3つの問いに正しく答えれば乗れると言われる。クサンティスはディオニュソスの助けを得て何とか問いに答え、一緒に乗船。しかし、荷物を置き忘れてしまう。
<初演版では?:その3>
クサンティスは船に乗れず、荷物を持ったまま歩いて冥界まで行く。
○第4場:三途の川の上
シャロンはすぐに居眠りを始める。ディオニュソスはここまで助けてくれたクサンティスに礼を言う。
6.Ariadne
ディオニュソスが亡き妻アリアドネを回想する静かなソロ。
7.The Frogs
静寂はカエルの鳴き声で破られる。と思う間もなくたくさんのカエルたちが現れ、船の行く手をさえぎり、ディオニュソスやクサンティスを川の中へ引きずり込む。カエル・アレルギーのディオニュソスはパニック状態。クサンティスは何とか主人を救い出し、船へ連れ戻す。
カエルの一群が去り、ほっとした瞬間、背後から親玉らしき巨大なカエルが近づき、舌でディオニュソスを連れ去ってしまう。呆然とするクサンティス。
<初演版では?:その4>
"Ariadne"はありませんでした。
カエルたちは船の周りにたくさん現れ、妨害はしますが、結局船は無事冥界の岸に着きます。
[第2幕]
○第1場:三途の川の上
クサンティスは主人の行方を心配しますが、すぐにこれからは自分が主役だ!と張り切ります。と思ったのも束の間、ディオニュソスが自力で何とか船に戻ってきます。
○第2場:冥界の岸
2人は無事冥界に到着。シャロンは、24時間後に迎えに来ると言い残して岸を去ります。
早速プルートを探そうとするが、誰もいない。2人は不安げに先へ進む。
<初演版では?:その5>
荷物を背負って歩いて冥界に着いたクサンティスは、ディオニュソスの下を去ろうとしますが、ディオニュソスに巧みに言いくるめられて同行を続けることにします。
○第3場:小さな森(A Myrtle Grove in Hades、"myrtle"はツルニチニチソウだそうです。)
1.Hymn to Dionysos
ディオニュシアン(ディオニュソスを称える人)たちが集まってピクニックをしている。そこへ2人も加わり、一緒にワインを飲み、歌って踊る。
ディオニュソスは彼らに素性を明かしたいところだが、今はライオンの毛皮をかぶっているのでかなわない。
○第4場:プルートの神殿前
やがて2人はプルートの神殿の前に着く。ディオニュソスがヘラクレスの振りをして扉を叩くと、中からアエアコスが登場。さっきの船頭に似てると思ったら、双子だとのこと。
耳が遠いアエアコスにやっとのことで「ヘラクレスが会いに来た」ことを告げると、アエアコスは急に怒り出す。セルベルス(3つの頭を持つ冥界の番犬)を殺した復讐を果たさねばならない。アエアコスはプルートを呼びに中へ入る。
急に怖くなったディオニュソスはライオンの毛皮とこん棒をクサンティスに押し付ける。するとヘラクレスのかつての愛人、カリスマが現れ、クサンティスをヘラクレスの思い込んで再会を喜び、彼にキスをし、仲間を呼びに行く。
長い沈黙の後、また気が変わったディオニュソスは毛皮とこん棒を取り返す。すると今度は屈強なアマゾネス、ヴィリラが現れ、ディオニュソスをヘラクレスと思い込んで再会を喜び、手荒い祝福をして仲間を呼びに行く。
○第5場:プルートの神殿
また毛皮とこん棒をクサンティスに押し付けようとするところでファンファーレ。神殿の扉が開き、プルートと家臣たち(プログラムにはThe
Hellraisers=無謀な生活をする人々、と書かれています)登場。アエアコスは「復讐だ!」とわめいているが、プルートはすぐに2人がヘラクレスでないことを見抜く。
2.Hades
プルートと家臣たちによる歌。
ディオニュソスが自己紹介と冥界へ来た目的をプルートに話すと、プルートは快く協力を約束する。
3.It's Only a Play
神殿の中へ入ろうとするプルートとディオニュソスたちの手前にギリシャ人たちが並び、合唱。ディオニュソスがやろうとしていることに対して醒めた見方をしています。
<初演版では?:その5>
ディオニュソスとクサンティスが毛皮とこん棒を押し付けあうシーンが長くなっています。
"It's Only a Play"はディオニュシアンとHierophantes(祭司たち)による合唱になっています。
○第6場:プルートの神殿の外
クサンティスとアエアコスのやり取り。古今東西の作家たちを肴にしゃべる。
○第7場:プルートの神殿の外
ディオニュソスと数人のディオニュシアン、ショーが現れる。
4."Shaw"
ショーを称えるディオニュソスのソロ。
しかし、下界へ戻ってほしいと頼まれたショーは文句たらたら。
そこへシェイクスピアと彼の賛美者らしき別のディオニュシアンが登場。ショーは彼にもかみつき、2人は口論を始める。最初はその様子を楽しんでいたディオニュソスだが、2人はしだいにエキサイトし、ついにシェイクスピアはショーに決闘を申込む。
ディオニュソスはあわてて2人を止める。
5.All Aboard
シャロンの歌が聞こえてくる。あせるディオニュソスだが、シャロンは早めに迎えに来ただけと知り、安心。
ディオニュソスは改めて2人に言葉でバトルさせることとする。
ディオニュソスが与えるテーマについて、2人は自分の作品からのセリフを披露し合う。勝負はほぼ互角。ディオニュソスが最後のテーマを与える前に、休憩を宣告。
そこへバルコニーから女性の声。死に別れた妻のアリアドネがいる。ディオニュソスは驚き、喜び勇んで彼女の元へ。彼女は彼を勇気付け、彼は冥界での再会を約束し、バトル会場に戻ってくる。
ディオニュソスは最後の勝負のテーマとして「死」を選ぶ。ショーが先に自作を披露する。
6.Fear No More
シェイクスピアは「シンベリン」(Cymbeline)からの一節を歌う。
ディオニュソスはショーに負けを宣告。ショーは不満からわめき散らすが、神殿の衛兵に連れ去られる。
プルートが登場。ディオニュソスは、今下界には詩人が必要、とショーの代わりにシェイクスピアを連れ帰りたいと頼む。最初はためらうプルートだが、ディオニュソスの強い願いに負け、ついにシェイクスピアを行かせることにする。
他方、すっかり冥界の暮らしが気に入ったクサンティスはそのまま残ることにする。
ディオニュソスとシェイクスピアが乗った船をアリアドネも遠くから見送る。
<初演版では?:その6>
ショーとシェイクスピアのバトルは最初からシェイクスピア有利に進む。ショーを勝たせたいディオニュソスは最後の勝負の前に休憩を取り、ショーにアドバイスする。
アリアドネは登場しません。
最後の勝負のテーマは「生と死」。
○第8場:冥界からの帰還
船は三途の川を下界へと帰っていく。カエルも今度はおとなしく泳いでいる。
7.Hymn to Dionysos
ディオニュソスの帰還を喜ぶギリシャ人たちの合唱。
8.Final Instructions to the Audience
ディオニュソスは、シェイクスピアや一同とともに、観客に向い、自分たちで決断することの大事さを訴え、幕。
<初演版では?:その7>
ディオニュソスがシェイクスピアを下界に連れ帰ったところで幕。