LIVE LOVE SIXTH DEATH 奇妙な平然

 

パリ‥‥ポリ‥‥パリポリ‥‥パリポリ‥‥

枕元から鼻をツンとさせる匂いがする。

ココは何処だろう。

記憶のない畳の緑と茶色の天井。

「あ、おはようございます。ジュエル君。」

茶色の天井が消え、代わりに現れたにやけた顔。

あれ‥‥?黒蝶さん‥‥‥?

そっか‥‥倒れたんだ、僕。

ふと横を向けば覗いてくる男と同じ顔が寝そべっている。

ヒルクさんも無事だったんだ。

ふと安堵がジュエルを包んだ。

「いや〜気付いてよかったね〜結構寝てたんだよ。」

そういえば、夕日がきれいだったあの時。

今は朝日が顔を覗かせている。

すいませんと一声あやまると黒蝶さんは笑ってまたカラーメを食べていた。

‥‥‥ん〜‥‥ファアア〜‥‥‥あ、おはようございます。ジュエル君、黒蝶。」

「おはよう、ヒルク。あと、お久しぶり。元気だった?」

「このゲームをしていて元気だとでも?」

ああ、この兄弟は・・・・・。

朝っぱらから同じ顔の二人組は睨み合っていた。

仲がいいのか、悪いのかわからない兄弟だよ…本当に。

「そういえば、ココ、タダで寝泊まりできるとか考えないでよね!もちろん、お金もらうからね!ココまで運んだのも計算にいれるよ。能力だけに頼りきらないこと!!!」

フンッと鼻をならす黒蝶さんは開きの悪い扉を強引に開かせ、職場に戻っていった。

「ジュエル君、僕たちっていくら持ってたっけ?」

 

「いらっしゃいませ〜黒蝶商店へようこそ〜ご用はなんでしょうか?」

なんで、炎天下でこんなことをやらなくちゃいけないんだろう。

日々の戦いで疲れてりのにッ!!

ジュエルの疑問に答えるのは簡単だ。

“金がない。”以上、それだけだ。

『貧乏暇なし』とよくいうが、現在のジュエルにはピッタリではないか!

宿泊代のために働くジュエルの横ではカラーメを貪る黒蝶。

その隣りでジュエルと同じ運命をたどる男が不満そうに雑務をこなしている。

「人使いが荒すぎるんだよ!!黒蝶は!!!」

あんたがいえることか!!この野郎!!

と、ジュエルは心のなかで叫んだ。

 

平然とジュエルたちが働いてる同刻。

ゲームはその平和さとはかけ離れたいつもの残酷さで進み続けていた。

「唇はぁ〜赤じゃないとぉお〜ツメのネイルも真っ赤だよぉ〜」

息絶え、血を滴らせる人間を前に少女が笑って言った。

「リップ、その辺になさい。仏様に申し訳が・・・ああ、哀れ。」

その背後で長髪の男が涙を流していた。

「うっさい。うっさい。うっさーい!!リップはリップのやりたいようにしたいのッ!アマタケはアマタケの好きなようにしてあげてるじゃんかよぉ〜」

路地の小さな隙間から不吉に話し声が聞こえていたのは朝日が夕闇のようにみえるほど不吉なある日の出来事。

 

「うおらぁああ!!!ヒルクゥ!時間だぞ〜!!」

「ああ、やっとか・・・・人使いが荒すぎるんだよぉ〜・・・・黒蝶は。」

(お前は雑に表を掃いてただけなんだけどね!!)

ヒルクには、背後からの殺気には気付かないようで、ブツブツと黒蝶に文句を言っていた。

「あ‥‥ヒルクさん!落ち着いて下さい!店長も!カラーメ食べていいから!!」

横で赤帽が毛を逆立てた猫のような二人を押さえようと奮闘している。

(無駄なことを頑張るな〜‥赤帽君)

ふと、そんなことをジュエルが思った瞬間、ジュエルの背後に少女がぶつかってきた。

頭の上をひとつでむすんだかわいらしい姿とは逆に服は血にまみれ、赤々と光っていた。

ただごとじゃないと十分に察することができたジュエルは、少女の両肩を掴み、問い質す。

なぜ、暗黒街に位置するこんな場所にいるのかを。

まだ、7、8歳に見える容姿で、ゲームには参加なんかしてないだろうという、ジュエル

なりの憶測だったのだ。

その先入観と呼べるに等しいその行動がマチガイだった。

ジュエルは少女の身体を抱き締め、黒蝶商店の中にへと引き入れたのだ。

ヒルクも心配そうに少女の血まみれの手を握り締めていた。

ジュエルの黒髪にベトッと血がつき、染まって行くのにも気付かずに。

その時、少女が誰も気付かないように微笑んだのにも。

 

「止血して〜‥‥‥赤帽君?!早く動いて!!」

少女を連れ込まれた黒蝶商店はバタバタとしていた。

「名前確認した?」

「いいえ。しゃべってくれません。」

無表情でファオが答える。

「ファオちゃん、魔莉ちゃんを呼んで!回復魔法を。」

「了解しました。魔莉を至急。」

「うん、お願い。」

ファオが消えると、今度はリョウが店の中から出てくる。

「店長、その女の子一人にかまってられるほどこの店も暇じゃないですよ。注文です。」

かったるそうに、暖簾を上げたリョウは伝票を三枚ほど黒蝶の目の前に叩きつける。

その振動でカチャと両耳の大量のピアスがぶつかり、金属音を鳴らす。

「このクソ忙しいときに!客なんて嫌いだッ!!!・・・・じゃあリョウと赤帽君はお店の通常営業を二人でできるようにして。ファオちゃんと魔莉ちゃんはこの女の子の看護、わかった?」

いきなりの問題にもかかわらずテキパキと指示をだすところだけをみれば、とても店長らしい。

「はいはい。」「了解ッス」

「『はい』は一回ね!!リョウ君!」

伝票を握り締めた二人はそれぞれのバイクに乗り込み、どこかへ配達へ言ってしまった。

「いやー・・・スゴイな〜黒蝶は。」

ジュエルは無言でうなずき、それを見つめるだけだった。

そのあと、魔莉が到着し、少女は確実に回復していた。

そんな時だった、ガラガラと引き戸が開く音が聞こえてきた。

ジュエルが振り向くとあからさまに胡散臭そうな坊主のかっこうをした長髪の男が現れた。

お客なのかと思ったジュエルがその男に駆け寄ろうとすると、ヒルクがそれを片手でとめた。

代わりに、ヒルクが男に駆け寄り、商売スマイルを浮かべる。

「いらっしゃいませぇ〜ただいま取り込んでいるんですが、ご用意できるものだったらご用意いたしますよ。」

にっこりと微笑むヒルクに坊主姿の男は微笑み返すと、

「そうですか・・・・それでは邪気にまみれたあなたの魂をいただきましょうか。“貫”」

ドンと鈍い音が響き、ヒルクの右腕が吹っ飛ぶ。

「グワ・・ッ・・・・」

右腕がごっそり持っていかれている。

滝のように血が流れ落ち、その下の床を赤くした。

「ああ、リップの赤い印は役にたちますね。」

そう、坊主がいうと、さっきまで眠っていた少女が起き上がる。

「そうだろぉ〜!感謝してよぉ〜アマタケ。」

魔莉の手を振り落とし、少女は立ち上がる。

「ゲーム参加者じゃない人がいっぱいると戦いにくいですね・・・・場所を移動しましょうか。」

少女を抱きかかえた、坊主アマタケは引き戸に手をかけどこかへ消える。

それを口をあけたまんま見ていた魔莉がブチギレたようで、右腕から血を流しているヒルクに向かって叫びだした。

「うっわー・・・・仮病かよぉおお!!あたしの魔力返せ!!ヒルクさん、あのクソ女を殺してくださいね!!!そうしないとあたしが殺しますから!!ハイ!右腕出して!!」

タラタラと流れる血の右腕をヒルクが魔莉に差し出すと、よくわからない呪文を唱える。

みるみる血がとまり、手ができあがっていく。

「あーもー・・・そんな無償で・・・・」

ボソボソと黒蝶が文句をいっているがムカついている魔莉には聞こえていない。

「ハイ!完成!!どんな力だろうとこの魔莉ちゃんにはかなわないんだからねッ!!」

あっという間にヒルクの右腕は元通りだ。

ヒルクは感触を確かめるように動かすと、軽くうなずき、魔莉の頭をなでた。

「ありがとう、魔莉ちゃん。」

頭をなでられた魔莉は当たり前よ、と胸をはっていた。

「じゃ!いってきます。」

ガラガラと引き戸を開けると、ジュエルも黒蝶たちに一礼して、後を追い、飛び出していった。

しかし、ジュエルが振り返ってみたものはヒルクではなかった。

「遅――――い!そんなに待たせちゃいけにゃいの♪」

「その通りですね、リップ。仏様もお天道様もお怒りですよ、赤影。」

コチラをみてニコリと笑うアマタケとその肩にしがみつくリップ。

「“貫”。」

言葉と同時にリップとアマタケの背後で空中を舞うヒルク。

体の中心から血が舞っていた。

「グハッ・・・・」

ドサッという音と共に道路が血にまみれていった。

ドロドロと赤い流れができ、アマタケの横を通り、ジュエルの足元まで流れてくる。

ヒルクさん、という叫びは声として出てこない。

心のなかでこだまするだけで、涙しかでてこない。

「あらら〜・・・あっけにゃーんv赤影ってこんなに弱かった?」

「さぁ、どうでしょうか・・・・でも、まぁキーロ様に気に入られていたわりにはそうとう弱いですね。」

「改めまして、赤マークのリップと申しますにゃんv」

「詔のアマタケです。どうぞ、よろしく。」

アハハと笑う二人に、へたりこむジュエル。

手と足に血がつくのにも気づかずに泣き叫んだ。

「ウワァアアアアアアアッ!!!!!!!!」

「うっさいにゃーん・・・・アマタケ、さっさと殺して。」

「命令されなくても。あぁ・・・そんなに叫んでも仏に召された人間は帰ってきませんよ、ジュエル君・・・・いえ、流石刃。そうですね・・・・あなたもすぐに殺して差し上げましょう。」

リップがジュエルとの間合いをつめ、赤い手をジュエルに押し付けようと走ってくる。

しかし、手が届くというもう少しの距離でジュエルは斜め右に飛び、背後に回り、首筋に殴りかかる。

しかし、敵は一人ではない。

アマタケがジュエルの肩を引き、バランスをくずし、仰向けの状態で倒れこみそうなジュエルに踵落としを決める。

「ウッ・・・・」

一瞬うずくまったジュエル。

その隙にリップが右手に赤い印をつける。

「いけ!!アマタケ!!!」

「命令されなくてもッ!!!我が標は赤!貫ッ!

その言葉と同時に右手が吹っ飛ぶが、すぐにジュエルの能力が発動される。

『相愛の葬送曲』

左手をアマタケにかざすと、目にも見えないほどに肉弾を発射する。

「あまーい・・・・ジュエルちゃんv赤印!!!」

赤い色の盾がジュエルの肉弾を防いだ。

肉弾がとまるのと同時に盾ははじきとび、少しの代償としてジュエルはよろめいた。

それもそうだ。前回は赤い影の手助けがあったから最後には倒れたものの、最低限の力だけですんだのだ。

しかし、今は、怒りに狂い、自分でも力の制御ができていない。

「うふふ・・・・『相愛の葬送曲』は代償が大きいね。」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」

ガション、ガギョン、グヂャン、ベチョリ、ベダリ、バシュン。

ジュエルの両手からはジュエルの肉体が削られた塊が発射される。

暴走をはじめた能力、リップとアマタケの二人は勝利を確信し、赤い盾の下でニンマリと微笑んだ。

そのうちにパタン、パタンという音と共に肉弾は力を失うと、バタンとジュエルが倒れこんだ。

ヒルクの横で、力なく言葉を連ねる。

「あ・・・・赤い影・・・・手伝ってくれない・・か・ぁ・・っ・・・・!」

悲痛の叫びが動かないヒルクに向けられる。

しかし、能力者が消えれば、能力も消える。

それは自然現象ともいえるもの。

地球がなければ私たちが存在しないように、能力者がいなければ、能力は消滅する。

当然、ヒルクと同様に微笑みかけることも話し掛けることもない。

ああ、もう死ぬんだ、という思いが頭を駆け巡り、ぼやけた視界にはただ、赤いコンクリートが光っているだけだった。

 

 

 

 

あとがき

お久しぶりです。

そして、今年ももう、終わりですね。

年終わりがこんなんでええのか、よくないよって感じですが。(笑

年の終わりはやっぱりLIVELOVEだろうと。

気合入れて書き上げましたよ。

そのわりにはドロンドロンでどないしよかッて感じなんですけどね〜(アハハ

というわけで、多分、今年最後の更新となるかと思われますが、

来年もよろしくお願いします。

幸せ部屋の明日路がお送りいたしました。

携帯のほうもよろしくね!!