LIVE LOVE Fifth death 空気の塊

 

「ぬいぐるみのエアー参上ぉだお☆」

少女はにっこりと笑うと抱いていたウサギのぬいぐるみを投げた。

ジュエルの頭上を華麗に飛び、ウサギのぬいぐるみはヒルクの手の中にしっくりとおさまった。

「くまさん、出番だよv・・・・・逝きなさい、くまさん。」

さっきの明るさは消えうせ、冷え切った声でエアーは言った。

エアーに従うように大きなくまのぬいぐるみはヒルクに襲い掛かった。

すかさず、赤い影がヒルクを守るためにくまの前に立ちはだかる。

いつもなら力で負けることのないヒルクの赤い影は相手からヒルクを守るだけではなく、抹消させることもできていた。

しかし、なぜかくまの放った右ストレートは赤い影を通り抜け、ヒルクに達する。

防御は完璧だと思っていたヒルクは直撃。

ヒルクさん!!と叫ぶジュエルの声もむなしく、よろめくヒルク。

見かけによらず破壊力抜群で口から鮮血が流れる。

手にしていたうさぎのぬいぐるみも共に吹っ飛んだ。

「口ほどにもないねぇ〜赤い影のヒルクもさ。」

「防御殺人と呼ばれるお前にかなう防御方法はない。」

「あ〜インナーちゃん遅いよ〜」

いつのまにかエアーの他にもう一人、男が現れ、ビルの窓から飛び降りた。

目が見えないほどに髪が伸びきり、男の表情は読めなかった。

「内部破壊のインナー、参上。」

名乗るとエアーの横を通り過ぎ、ジュエルと向き合う。

「了解〜☆インナーちゃん、ちゃんとね!」

さすがパートナー。何も言わなくても理解したようで慌てているジュエルなど気にせずにヒルクだけに目線を向ける。

ジュエルは何が起こると身構える。

しかし、男は一向にしゃべろうともせず、何かをやろうとも思っていないように、ただ、佇むだけだった。

何か・・・・何か話せッ・・・!!

心のなかでのジュエルの叫びもむなしく、進展しない。

「クァッ・・・」

横ではヒルクのうめき声のみが響き渡る。

「あっは☆弱い〜弱い〜」

はねるような声が木霊する。

無力と感じるほどに心に鎖がつく。束縛する。

「・・・・脳内破壊声。」

ジュエルが苦しめられる、その目の前で男はしゃべりだす。

表情の見えないその顔で。口で。

「僕の得意技なんです。精神破壊を試みる声、脳内破壊声と人は呼びます。」

淡々と語るその口調は自分のすべてをあらわにしているにもかかわらず、自信に満ち溢れている。

無力な自分とは違って。

「僕は負けたことがありません。無力な君のようにパートナーがやられているところを指を加えてみていたこともありません。」

そんなことはない。無力・・・違う・・・僕は何かに役にたっているはずだ・・・・

君を求めるこの気持ちは君のためになっているだろう、ヒルクさんとこうして戦っている、味方がいる、それだけではいけないのか。

「気持ちに支配された人間ほど弱い。自分だけが満足しても他の人間が満足しなくては、存在に意味がある人間とはいえない。」

聞くな・・・・聴くな・・・・利くな・・・・効くな・・・!!!

「そんな無力な君が僕にどうやって傷をつけるんだ?・・・ククク・・・」

無力・・・・・ムリョク・・・・むりょく・・・力が無い・・・?

嫌だ・・・否だ・・・・・イヤだ・・・・!!!!

かたかたと両腕を抱えながら、わが身を抱きながら震える、ジュエル。

自分の体ではないように。

「そんな無力は嫌だよね・・・・救ってあげようか?」

甘い言葉がジュエルの心のなかで溶け始める。

救ってあげる・・・?救ってくれる・・・?ヒルクさんのように・・・・?僕を・・・・?

心のなかは、もうインナーの言葉でいっぱいだ。

すべてがインナーの手中のなかへ。

 

「じゃあ、死んでごらん。」

 

インナーの言葉がジュエルの心と体を突き放した。

そうか・・・・死ねばいいんだ・・・そうすればこのまとわりつく心の戒めは解けるんだ。

手渡されたのは黒く光る物体。

「僕は人を殺めることはできないんだ。自ら鎖をはずして飛んでごらん。」

みえないはずの表情が一瞬見えた気がした。

にこやかに微笑む姿が。

 

「逝ってらっしゃい。」

 

人を送る言葉、「行ってらっしゃい。」

それが僕の背中を押す。僕の指を動かす。僕を見送る。

 

『タンッ・・・・』

 

一瞬にして、デリートされた世界は真っ白になる。

その中で赤い液体だけが白い世界に彩られる。

これでやっと・・・開放される・・・あの鎖から。

僕は瞳を閉じる。

「刃ぁあああああああ!!!!!」

白と赤の世界が破られていく。

ちぎれた世界がパラパラと散っていく。

風が吹いたように塵も残らない。

残ったのはもとの無力な僕だけ。

「刃ッ!!お前は無力じゃない!!こうして!!役に立っている!!世界に!!」

そうなの・・・・?僕は無力じゃないの・・・・?

僕は・・・・役に立っている?

自分はもうボロボロでしゃべることもままならないはずなのに、ヒルクは叫び、訴えた。

「あなたの相手はあたしだっていってるじゃんかぁああ!!!」

くまさんの右ストレートがヒルクのわき腹にあたる。

血を吐き、地に這いつくばるヒルク。

いつも微笑み、余裕をみせていたヒルクとは違う。

乱れまくった前髪、血に染まった服。

すべてが何もかもがいつものヒルクとは異なった。

「早く・・・・偽者を倒せ・・・・・刃ぁああああ!!!」

ヒ・・ルク・・・さん・・・・・?

何も写っていないはずのジュエルの眼から涙を流した。

そして、心のなかで何かが光った。

「覚醒だねぇ〜・・・・」

誰かわからない声が誰も気づかないくらいの声で小さくそうつぶやいた。

『相愛の葬送曲』


両手を振りかざし、手の肉を弾き飛ばす。

文字通りの肉弾がインナーを貫く。

自分に向けられた愛とそれを砕こうとした己に示す。

「あんたが逝け。」

バタリとインナーが地に伏せる。

自ら銃で撃ったはずなのに無傷のジュエルは立ち上がるとエアーに目を向けた。

ヒルクから滴る血に涙を寄せる。

ヒルク・・・・さん・・・・

「赤い影・・・出て来い。」

ヒルクが倒れたその横から赤い影がひょろりと現れる。

能力はその能力者にしか従わないというように作られている。

「お前、主人を守れなくて何が能力だ。俺に従えられるか?」

恥らいつつもうなずく赤い影はすぐにジュエルの横に添えるように従った。

「さぁ、ヒルクの代わりに俺が相手をしよう。影、行け。」

ヒクヒクと笑うと無気味な動きをしながらエアーに近づいていく。

「ヒルクの赤い影はヒルクにしか操られないんじゃないの?!何で!!何で!!あなたは操れるの?!くまさぁああん!!!!」

頭を抱え、叫んだ。予想だにしなかった事実に何も考えられない。

ただ、がむしゃらに能力を使うのみ。

不安と恐怖を取り払うために暴れる。

パートナーがいなくなった今のエアーでは勝つことはもう不可能といえるだろう。

ジュエルが操る赤い影がくまさんの右腕を貫く。

「あんたの能力はわかった。くまを動かすことじゃない。ウサギだ。」

目つきがスラリと変わったまなざしでエアーを見つめながら指を突き立てる。

「あんたはウサギを倒したい相手に触れさせることで、相手の能力を封じることができる。それこそ、相手の攻撃はあんたの空気にすぎないだろうよ。」

核心をつかれたエアーは倒れこむしかなかった。

「でも、僕はあんたのウサギさんなんか触ってない。」

パタリと座り込むと同時にヒルクの赤い影がニタリと笑い、殴りこむ。

完璧に決まった右ストレートにエアーは絶望しながら意識を消していった。

「だから、僕は空気じゃないよ、お姉さん。」

少女だと思っていた女は高校生くらいの女だった。

今までインナーの能力だったのかなんだったのかわからないが幼く見えていた。

「あんたの負け。ゲームオーバー・・・・・影、ご主人様をちゃんと介抱し・・て・・・・」

敵を倒した安堵感からか、ジュエルは倒れこむ。

脱力したジュエルは赤い影にヒルクと共に抱きかかえられる。

無言でその場から立ち去る、影。

その後ろでにっこりと微笑んで腕を組み、声をかけるものがいた。

「待っとくれよ、黒樺君。」

赤い影がピクリと動いた。

赤い影の生前名、黒樺慎斗。それを知る者は二人しかいない。

この場に倒れているヒルク、そして黒樺をこんな形にした男のみ。

『ギ・・・・ィ・・・ロ・・・・カ・・・・』

口がないので相手の頭に波動として伝える。

それが影のしゃべるための手段だ。

「大当たり。お久しぶりだね、黒樺。今日はご主人はダウンなんだね〜せっかくあげたのに。こんな低級に負けそうになるなんてさ、期待はずれ。」

笑い、また腕を組みなおすと男は言った。

心から笑っていないその笑みは口元、目元すべてが無表情。

なのに笑っている。不思議でたまらない。

『ゾ・・・ナゴド・・・ナィイ』

そんな男の笑みに震えながら必死に返答をした。

また形を変えられるんじゃあないのか、それともこの主を変貌させてしまうのではないのか、恐怖、不安、すべてが赤い影のなかで渦巻いていた。

「ありまくりだよ。まぁいいや。もうそろそろこのゲームも終盤だ。それまで生き残っていられるのかな・・・・風見君はさ。」

動かない主を抱きかかえるその影の手をどかし、手をかざす。

もうなすすべはない。形を変えられた元黒樺に形を変えたこの男に攻撃するすべなどはない。

赤い影が初めて、絶望した。

「・・・・ん〜・・・ここで殺すともったいないかな?やっぱやめとく。」

ない眼で眼をつむっていた。眼を見開いた赤い影の前にはケガのなくなった二人がいた。

「赤い影、これからも影から見てるよ。・・・・神の手のキーロこれにて退散。」

男は名乗り、去っていった。

そう、これはキーロの気まぐれ。ただの気まぐれだ。

ケガを直してくれたとしても感謝なんかしない。

それがあいつだから・・・・

神の手のキーロ。パートナーなし。信じているのは自分だけ。

このゲームの主催者兼能力を与える力を持つもの。

黒樺を人間という枠からはみ出させたもの。

黒樺だけではない。このゲームに参加している人間の数だけ、人間の枠からはずされたものもいる。

ゲームの裏はそれだ。能力の源は人間だ。

またそれを知ってしまった。

知ることはもうあの時だけでよかったのに・・・・

黒樺は二人を抱き上げ、あの白い部屋へと向かった。

 

「さぁて・・・・悪がつのるゲームはまだ終わらないよ。」

赤い影がいなくなったその場でキーロはつぶやいた。

 

 

 

あとがき

もう少しだ!!もう少しで終わっちゃいますよーーー!!!

何でそんなに嬉しそうなんだって?

連載で初なんですよ〜ちゃんと完結するのだろうものは。

でもLLはすごいいい話にしてあげたいな。

これあと、2話くらいで終わると思いますが、番外編をかなり書きまくって書きなぐっていきたいと思いますので残念がらないでくださいね。

っていうか新キャラですぎだろ、この話。

赤い影も?!って驚いていただけたらいいな〜

がんばったのよ、この設定をどこでだすのかを。

それよりがんばったのはすごい悩んだ末に、本当はダイヤという女の子が出てくる話をエアーとインナーに摩り替えたこと。

ありがとう、エアーちゃん。

ダイヤはキーロがちゃんと出てくるときに出てくるでしょう。

どういう役割ででてくるのかは秘密です。

これからかLIVELOVEを中心に書いていきたいので

一時休むと思います、7POWERとか。

では、次のお話でお会いしましょう。