第9話 Thin Thick(後編)

12月8日、登校時。いつもより少し早く家を出る。私は逸る気持ちを抑え、朝早くから営業している、駅の本屋へと向かった。 ベーマガ最新号はいつもと同じように、無事そこにあった。努めて冷静にそれを手に取り、PC−8001のページを開く。

…無かった。そこに載っていたのは、結構本格派と思わせる、BASIC格闘ゲームだった。私は多少の落胆を覚え、レジに向かった。

だが、嬉しかったのは、「PROGRAMMER OF THE MONTH」(ベスト・プログラム)のコーナーが復活していたことである。 ここしばらく、ドサクサに紛れて無くなってしまい、プログラム派の読者としては物足りない思いをしていたが、 突然の復活に、「プログラム系記事の復権!」という感じがして少なからず印象に残った出来事であった。

そしてもう一つ、しばらく読んでいて、読ホンに投稿した例のハガキが載っていたことに気づいた。 ハガキをそのまま載せるというちょっと手抜きっぽい形 ながら、これは嬉しい不意打ちだった。 (しかし、「今のゲームはグラフィックを重視しすぎだ」 という微妙に反対の意味のタイトルを付けられてしまっていたのはアレだったが。)

とにかく、Thin Thickは載っていなかった。「いや、投稿は10月半ばだったから、もしかしたら今月じゃなくて、来月分になっているかもしれない。」 ボツった時はいつもそうだが、とにかくもう一月、ワクワクする、ちょっと精神的に疲れる日々を過ごした。

1月8日。始業式だ。やはり駅の本屋に向かう。ベーマガ2月号を手に取り、PC−8001のページを…

……

……

…??

「あれ…?」

…もう一度はじめの方からページをめくる。

……

……

……

……まさか…いや、信じたくはないが…

どうやら、そのようだった。

ない。いや、Thin Thickが載ってないというだけではない。

PC−8001のページがなかった。

…そういえば先月から、いくつかの機種が掲載されなくなっていた。その消えた機種の中には、 PC−6001などもあり、時代の流れの厳しさを物語っていたが、PC−8001はその中で無事生き残っていたはずだった。

しかし、今月の誌面から、PC−8001は消えていた。そのかわり、PC−6001は載っていたが。

コーナー自体がない。

これは、自分のプログラムがないことよりも、遥かにショックな出来事であった。
やはり、PC−8001も、時代の流れには勝てないのだ。

登校後も、ショックから立ち直れず、それでも半ば放心状態でページをめくっていると、なんと、後から投稿した(←ぉぃ) PC−9801用「目指せ!ホールインワン」というゲームが載っているのに気づいた。
「おおーー」嬉しさも半分という感じだったが、やはりベーマガに掲載されるというのは嬉しい。 ややショックから立ち直ることができた。

「とにかく、来月を待とう。」もしかしたら、このままコーナーがなくなってしまうかもしれない。
いや、大丈夫だ。先月はPC−8001、今月はPC−6001、きっと隔月で掲載してくれるという事だろう。
来月は大丈夫だ。来月は…。

気が気でなかった。2月、いよいよセンター試験も終わり、二次試験も本格化してくるという中でも、ベーマガのことは 常に頭の片隅に引っかかっていた。(他に楽しみがなかったともいう。)

2月7日、3月号発売前日。そろそろ授業もなくなり、登校しなくてよい時期になっていた(と思う。多分。) こともあり、落ち着かない日々を過ごす。

そして、2月8日…昼前、少し早い昼食をとり、いよいよ近所の本屋へ向かう。

ベーマガ3月号は、ビニール紐で縛られ、立ち読みできない状態になっていた。
しかし、気が気でない私は、ページの上のほうを無理やりめくり、「PC−8001」という文字を探した。

……あった。

間違いない。「PC−8001/mkII/SR」と、確かにそこには印刷されている。

そして……

「敵の動きをみてターゲットを奪え」

おおっ。

Thin Thickのゲーム内容か!?

果たして後日、掲載号が送られてきた。 載っていたのは、やはりThin Thickだった。PC−8001コーナー復活、そしてThin Thickも採用!

このことは、しばらく受験勉強の心の支え(というか現実逃避の材料)となったのであった。


Thin Thick


タイトル画面。


床を伸び縮みさせて通路を作れ!


最も薄い床は、財宝2個で落下するぞ!


落下した床で敵を潰したとこ。やった、クリアーだ!


財宝を持たずに敵につかまるとアウト!

エミュレータ用ファイルは こちらです。