受験期まっただ中の中学3年・夏。 私はゲーム作りもほどほどに、毎日 栄光ゼミナール の夏期講習で、受験勉強に励んでいた。 当時の日記を見ると、一部 「今日は勉強をがんばろうとしたが 思わずゲームをつくってしまった 」 などの記述が見られるものの、 一日7時間以上(ほとんど塾だが)を勉強に費やしている日もあり、 勉強に燃える受験生だったことがうかがえる。 ゲーム作りも、息抜き程度にちょっとした小品を組む程度で、 基本的には自粛していた。PC−9801UV2の高性能が、 塾帰りや塾に行くまでのちょっとした空き時間でのゲーム作りを 可能にしていた。当時作ったゲームとしては、 ナッツ&ミルク風のジャンプアクションや、3Dで迫る壁を避けるゲーム、 迫り来る隕石群をよけるゲームなどがある。 隕石よけゲームでは、98のマシン語モニタのアセンブラ機能を使って、 隕石移動のマシン語ルーチンを、フローチャートもプログラムも書かずに、 入力時に直接頭の中で作成した。PC−8001では考えられないことである (やる奴はやるだろうけど)。
PC−9801UV2でも数々のプログラムを制作し、 i8086のアセンブラにも習熟してきてはいたが、UV2のN88-BASIC(86)には、 いまひとつ馴染めていなかった。マシン語を使うようになって、UV2自体への 親近感は増していたが、どうもこのBASICは好きになれなかった。 UV2の高性能に見合った言語ではないと感じていたのかもしれない。
同時に、PC−8001mkIIへの郷愁 も、次第に強くなってきていた。 あのときmkIIのディスプレイを手放して以来、一回だけ家庭用TVで タラコクエストをプレイした。だが、そのときに使っていた 家庭用TV用の接続ケーブルはいつの間にかボロボロに壊れてしまっていて、 次に試したときは映らなくなってしまっていた。 最早、時々スイッチを入れて「BEEP」を入力し、「ピー」という音を聞くだけが、 8001の生存を確認する唯一の方法となっていた。
できないとなると余計やりたくなる。ハードウェア関係の話は まったく苦手な私であったが、それでも「もう一度PC−8001を使いたい」 という思いは、その苦手意識を吹っ切るほどに強くなっており、 幾度となく画面を映せないかと試していた。
「このままでは、らちがあかない」そう決心した私は、ある日ついに、
部屋の片隅に埋もれたPC−8001mkIIを取り出し、
本格的に再生の可能性を探ることにした。家庭用TVのケーブルは
壊れたが、まだ他にもいくつかケーブルはある。これらのどれかを
使えば、もしかするともしかするのではないか?
TVに接続するため、mkIIをはるばる居間まで運ぶ。
当時はテレビのケーブル配線すらやったことがなかったが、
見よう見まねでmkIIとテレビをつなげてみる。
テレビをどのチャンネルに合わせればいいかいろいろ試してみる・・・
何度かの試行錯誤の後・・・
「!!」。映った。画面には確かに「NEC N-80 BASIC Version 1.0」の文字があった。
「BEEP」と入力してみる。「ピー」。懐かしいあの音だ。
確かに動いている。mkII、未だ健在である。
昔入れたゲームをテープからロードしてみる。
cload。Found:の文字。小気味良い「プォン」という音と共にOkの文字。
run。動く。動いている。
あまりの喜びに、私はいつの間にかゲームを作りはじめていた。
そのときに作ったゲームの1つは、あるけあるけゲームの自分(ヘビのように 体がのびる)を敵にし、自分は体の伸びるヘビをうまく避ける、 うまくボーナスを取ると敵の体が縮む、というものであった。
そして、これがなかなか、「・・・面白い。」
「何故・・・?」自分で驚く。・・・98に移行して以来、
自分の作るゲームがつまらないことに悩んでいた。
今から考えると、どのゲームも、やたらと長時間をかけてだらだら制作していたし、
グラフィックに力を割く必要もあったし、などの理由も考えられたが、
とにかく98上で作ったゲームは、面白くなかった(ついでに言うと、
市販ゲームも面白くなかった)。そして、やはりその最大の理由は、
「98だから」
ということに尽きるのではないか。そのとき、そう確信した。
8001に触ると、楽しくなる。
自分が、8001のフォント、音といった全体の雰囲気、いわば手触りが
大好きであることを実感する。そして、そこで作ったゲームも
やはり面白くなる。楽しさの伝播だ。
一方、触ってて違和感のあるマシン、楽しくないマシンでは、
自然と楽しくないゲームが出来上がる。そして
つまらないマシンでつまらないゲームを遊ぶことになる。
つまらなさの2乗であり、
もはや「遊ぶ」という動詞で括れない程の
空しい行為となる。
・・・思えば、98を使っていた時間は「楽しくない時間」だった。
いや、楽しくなくはないのだが、8001を前にしていた時の
あのワクワク感はまるでなかったといってよい。
そしてそれが、無意識のうちに作るゲームをつまらなくしていったようだった。
もはや惰性でパソコンに触る日々だった。そこに、
8001のワクワク感が帰ってきたのだ。
もう一つ作ったゲーム、それがテリトスだ。 8001のオールBASICのためとてつもなく遅いし、 怪しげな形のブロックも沢山出てくるが、とにかくちゃんと回転もできるし ブロックも消せる。一応の完成を見て満足し、 カセットにセーブする。久々の感覚だ。 感動の余韻も冷めやらぬまま、電源を切った。
1989年9月11日、月曜日の出来事だった(今見たらカセットケースに日付が 書いてありました)。


当然、上まで積みあがるとゲームオーバー。

リストはこんな感じです。