秋葉原。いつ来てもワクワクする街である。
駿台附属高校(4年制)とも言われる地元県立高校。 私も順調に、この春から4年生として新たなスタートを 切ろうかという高3最後の春休み。
その日、私は友人の西山(仮名)とともに秋葉原に来ていた。
パソコンを一度も手にしたことの無い西山が、大学入学とともにパソコンを買いたいということで、
アドバイザーとして付き添って来たのだ。
最新機種などという概念とは縁の無い私であったが、ベーマガを購読しているおかげで、 既に世界は32ビット、クロック20MHzという、もう凄いんだか凄くないんだかわからないくらいの 超越的な世界に突入しているらしい、というくらいは知っていた。 結局、当時その低価格(確か10万円台)で衝撃を与えた、PC-9801BX2あたりを薦めたような気がする。
そんな最中、私の目を釘付けにしたのは、もちろんそんな得体の知れない最新機種ではなく、
もっと夢のある機械である。
中古レトロパソコンのコーナーに飾られたその機種は、パソコンテレビX1。
8色PCGという信じがたい超高性能を擁し、
3重和音の音楽演奏も楽しめるという、まさに憧れの機種だ。それが、たったの7980円で買えるという。
衝撃の事実に、すでに脳内は買った後のプログラミング生活に思いを馳せる状態であった。
だが、残念ながら、BASICが付属していないらしかった。市販ゲームも今更手に入らず、 しかもBASICもないとなると、クリーンコンピュータであるX1では、ほとんど何もできない。
結局、涙を飲んでX1はあきらめることになる。しかし、一度ついた物欲の火を消すことはできず、 そのかわりに、1万円台という低価格で売っていたMSX2を衝動買いしてしまった。 時に1993年。初めてのMSXとの出会いであった。(電器屋とかで見たことはあったけど。)
MSX。スプライト装備機種として、ベーマガ内ヒエラルキー(俺推定) では上位に位置する機種であった。 単色ながらPCGも使え、3重和音のPSGをも持つ。これを使えば、今まで考えられなかったような 魅力的なゲームが作れるに違いない。正直、買ったときはそんな夢を抱いていた。
しかし、結論から言えば、その期待は裏切られる。いくらゲームが作りやすい&速いといっても、
しょせんは8ビット機種。高解像度キャラを高速に動かせるスプライトとはいえ、CPUのそもそもの処理速度が、
それまで使っていたPC−9801とは比べ物にならないくらい遅い。
しかも、スプライトもPCGも単色であり、ファミコンやX1、MZ−1500、ベーシックマスターL3MARK5、etc…
のような美しい画面を作り出すというわけにはいかない。
スプライトを使っているのに、98でグラフィックを使った場合よりも遅い試作ゲーム達を見て、
すっかり失望してしまった。
(ついでに、打ち込んだベーマガのゲームもいまいちだった。
CHECKER FLAGで絶賛された「BALL&HOLE」、
Programmer of the monthに選ばれた「反物質生命体Kage」、
魅力的な画面で、表紙も飾った「ハンバーグを焼こう」等、結構厳選したつもりだったのだが…。)
そんな失敗作の中に、プールを舞台としたゲームがあった。
美しい青色を背景にプールで鬼ごっこを繰り広げる、その名も「鬼ごっこ in Pool」。
題材は「プールでの鬼ごっこ」(そのまま)である。
経験のある方もおられるだろうが、プールで鬼ごっこをすると、みんなの動きが緩慢でしかも ざわざわしているため声もよく聞こえない。結果として、誰が鬼だかわからない という状況になる。
わずかな手がかりは、ようするにそいつが追ってくるか否か。追ってくれば鬼というわけである。 微妙な動きや表情を見分け、誰が鬼かを推測するという本来不必要であったタスクに、 なぜか妙な面白さが秘められているように感じたのであった。
「これは面白そうだ!」ということで、早速プログラミングを行っていく。ブルーのバックに 水とプールサイドをまずは適当に配置してみる。MSXのPCGなら中間色も思いのままである。 そうしてできた背景に、自分と敵はもちろんスプライト。ビッグサイズのスプライトを使えば、 大きなキャラを1文字と同様に扱える。
しかし、とりあえず作ってみた試作品は、ゲームと呼ぶには程遠い、なんだかわからないもの
になってしまった。
まず、鬼と味方のアルゴリズムの設計が非常に難しい。簡単に見破られないためには
あまり異なるアルゴリズムにはできないし、しかしそれでいて注意深く見れば違いがわかるようにしなければならない。
ここでゲームの面白さが決まってしまうのだが、面白くなるようなアルゴリズムの違いを設計するのは
非常に困難なものであるように思えた。
そして、やはりスピードの問題である。鬼と味方を一人ずつにしても、自分も入れて計3キャラを、
わりと複雑なアルゴリズムで動かす必要があり、結果としてなんともスローモーな動きになってしまっている。
プールでの鬼ごっこというシチュエーションを考えればこれはこれでリアルだが、ゲームとしては
まるで面白くない。結局、これ以降開発を進めるのは無駄という結論に至った。
しかしながらこのアイディア、捨てるには惜しい気がした。もう少しゲームを単純化してわかりやすくすれば 面白くなるのではないか?
とにかく、「微妙な動きを見分ける」ことはあきらめる。単純で、明確に見分けられる動きの違いにする。 そのかわり、敵をウジャっと出す。 敵の動きをうまくよける反射神経タイプのゲームにし、その味付けとして、「外見は同じだが、 よく見ると動きが違う」という要素を付加する、というわけである。
そうなればマシン語で大量の敵を動かす必要がある。画面は単純でいい。敵の形もグラフィックキャラで十分…。
機種は自然と、使い慣れた機種・PC−8001となっていた。 こうして、「Out of Algorithm」の開発はスタートした。


GOLD ATTACKばりのタンクゲームを目指したが、敵の弾が2つ出た段階ですでにいっぱいいっぱいのスピード。

鬼ごっこ in Pool。動きが緩慢で面白くないとかいう以前にゲームにならず。

(おまけ)Out of Algorithm企画書です。