第4章


 ベーマガと出会って、はや3年が経とうとしていた。
 この頃のパソコン業界は、PC-8801mkIISRの活躍などもあり、 かなりの上り調子だったと思う。ゲーム業界では、日本ファルコムが 「ザナドゥ・シナリオ2」「イース」などのスゴい作品を立て続けに リリースし、一躍トップメーカーにのしあがっていた頃だったろうか。

 その勢いに呼応するかのように、ベーマガも、成長を続けていた。 86年の8月号の創刊50周年記念号などは、なかなか読み応えのある 号になっている。
 そして、投稿プログラムのほうにもやや変化が 見られていた。それまでの、ややマニアックなゲームから、 よりメジャーなものへと変化しているようだった。 「スペースハリアー」「ファンタジーゾーン」など、市販ゲームに 派手なものが登場していくにつれ、投稿プログラムのほうも、より華やかな ものが増えていったように見えた。

 私はといえば、小学校を卒業し、地元の町立中学校に進学していた。
 小学校時代にはなかった「部活」や、本格的に始めた「塾」通いなどに 追われ、生活スタイルはサラリーマンのようになってしまっており、 小学生のときのように自由に遊びまわるということはなかなかできなくなっていた。
 しかし(というか、だから、というべきか)、空いた時間に一人で、金を かけずにできる「パソコン」という娯楽には、前以上に時間を費やすように なっていた。中学入学とほぼ同時にPC−9801UV2を手に入れ、 その高性能に驚きつつ、プログラミングに励んでいた。PC-8001mkII時代に 作った数々のゲームを移植したり、超本格RPG 「タラコクエスト」を 作ったり(といっても、結局未完に終わったが)、数々のミュージックプログラムを 作成したりしていた。
 このミュージックプログラムでは、ベーマガ別冊の山下先生本に 随分とお世話になったものである。中間テストのときなどは、 10曲ほど打ち込んだ「イース」の音楽を自動プレイさせてBGMにして勉強したり していた。もちろん、新たに遊べるようになった98用の投稿プログラムなども いくつか打ち込んだ。

 中学時代に投稿したプログラムは、2本だけだった。

 一つは、 「バトルゲーム」。 これは、当時私がよく妄想していた、 「ドラえもんを題材にしたRPG」の、戦闘シーンだけを 実現しようとしたものである。はじめのタイトルも、ずばり 「ドラえもんクエスト」 だった。魔法のかわりに「ひみつ道具」 を利用して敵と戦う。ひみつ道具はMP消費もなく何回でも使え、 バラエティに富んだ機能を持つ。これは、本家「ドラクエ」を 超える戦略性だ!と一人盛り上がって作っていた。戦略性も さることながら、グラフィックキャラで作った多彩な30の敵キャラ、 ひみつ道具を使ったときの、グラフィックを駆使したダイナミックな演出、 そして汎用性に富んだマルチウィンドゥシステムなど、かなりの力作だった。

 また、BGMも特筆すべき点だった。このゲームでは、そのころふと 思い付いて実験し、見事実現していた、「BEEPを用いた2重和音」ルーチンを 採用していた。私の知る限りでは未発表のテクニックであったため、 「これはぜひ発表しなくては!」と結構あせっていたものだ。

 途中 Disk I/O Errorに見舞われて全部作り直しになる などハプニングもあったが、 ゲームは無事完成した。しかし、投稿にあたって、「著作権がやばいかなぁ・・・」 と思い直し、ひみつ道具の名前をすべて改訂、タイトルも「バトルゲーム」という あたり障りのないものに変えてしまった。しかし、このためにゲームの面白さが いきなり半減したような気もするが、 おそらく気のせいではないだろう。

 もう一つの作品は、 「MOUNTAIN CLIMBER」。 かつてPC−8001用で 投稿し、 見事 「明日のSTAR PROGRAMMER」に輝いた作品のグレード・アップ版 である。なにしろ、キャラは当然グラフィックで美麗なものに進化を遂げ、 マップも200段にスケールアップ、蔦、動く雲、押して運べる氷、上から降ってくる岩 など新キャラも続々登場、さらにゴールドゾーンやサンダーゾーン、ダークゾーンなどのフィ ーチャーも加わった大作である。「バトルゲーム」がどちらかというとプログラムテクニックに 走った作品だったのに比べ、こちらはマシン語を使用しているものの、  「楽しさ」に重点を置いた作品になっていた。
もっとも、どちらの作品も、今やってみるとやたらと難易度が高く、あっという間にゲー ムオーバーになってしまうという致命的な欠点を持っているのだが・・・。

 結局、いずれの作品も見事にボツだった。今度は「投稿ありがとう」にも 載らなかったような気がする。しかし、発表を待つ間というのはやはり楽しかった。 ともすればルーチンワークに埋もれそうな日々の生活の中に、夢を与えてくれた ような気がする。形は違うが、宝くじと同じ原理といえるかもしれない。


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