芝生のオーバル 

洗足駅前広場


提案:2008年8月
竣工:2009年4月
場所:東京都目黒区
担当:柳原博史、大西瞳、清水拓郎
協働:洗足いちょう通り商店会


□ 駅の改札口目の前に現れる洗足の新しい顔

私たちのオフィスがある洗足は、閑静な住宅街を抱え、少し歩けば立派な屋敷やその庭の大きな緑が多く見られるような場所である反面、駅前の商店街の集積は極めて乏しく、商店街の体を殆どなしていないと言える程の寂れた状況に陥っている。幾つか良い店もあるが、シャッターを閉めた店も多く、人通りも疎ら。電車で数駅も行けば、武蔵小山、自由ヶ丘なども至近であるため、非常な不自由は感じないものの、やはり毎日ここで生活をする身にとっては不満である。こうした商店街(洗足いちょう通り商店街)の中心地、東急目黒線洗足駅の小さな改札口を出た、その真正面に、広場の計画があることを知ったのは、2008年の春頃のこと。700平米程度の小さな広場とはいえ、このようなシンボリックな場所に、新しく出来る広場である、住民と、商店会にとっては、その広場の出来具合いかんで、洗足の将来が決まるほどの事態である。しかし、当初目黒区から提示された案は、ことの重要性を理解しているとはとても思い難い、極めて凡庸、どころか、街の品位を更に落しかねないような案に思えた私たちは、商店会から相談を受け、代替案を提出することとなった。

代替案は、駅改札口正面であることから、改札を出て真正面にインパクトのある緑のかたまりを視覚的に捉えられるようにするもの。そのために、楕円形(オーバル型)の芝生の広場をほんの少し斜めに奥に向かって傾斜をつけ、駅側から見た時に大きな緑の円が捉えられるようにしている。この芝生広場は、もちろん自由に出入り出来る、とてもアクティブな広場となるはずである。広場の奥の突端にはシンボルツリーを置き、長いベンチが楕円を囲む構成である。

さて、この案を携えて区に行ったところ、案の定、芝生は管理が困難。さらに芝生は多目的性に制約があり過ぎる、長椅子は不届者が寝転がるからNG。シンボルツリーは、成長の遅い常緑樹で、云々・・。そう、これが公共の広場に関わる制約であるということを、久しぶりに身に知らされた。管理上は全て道理に適っているが、管理主体が区内に百もの公園広場を抱え、特段ここが特別であるとは思っていない区と、街にとっての最大に重要な場所であるという思いを抱えた地元とのギャップには愕然とする。しかし、ここで怯んでは元も子もないので、少しでもその思いを伝えるために、再度商店会と戦略を練り直し、その後何度か修正案を出し直し、芝生の広場は半分程度の面積にはなったものの、何とか実現化されることとなった。

2009年春に完成した広場は、デザイン的に私たちの理想とは、ほど遠いものの、緑のボリュームが少しながら現出したこと、そこに子ども、お年寄りや通りがかりの人たちが休み、遊ぶ姿を見られるようになったことは、喜ばしい。しかし、これを機会に、洗足商店街が今後どのように発展出来るのか、本当の試練はこれからであろうか。

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