浮遊する庭
葉山O邸別荘
設計:2007年12月〜2008年6月
竣工:2009年1月
場所:神奈川県葉山町
担当:大西瞳、斉藤隆夫
施工:東和ランドテック(株)
クライアント:個人
□ 静かな波間に浮かぶ3艘のリュウゼツラン
リュウゼツラン(竜舌蘭)はメキシコ原産の単子葉植物である。ロゼット型と呼ばれる形で、タンポポなどと同じく、茎がほとんど無く、地面から直接四方に葉を出しているような姿をしている。メキシコのテキーラの原料としても有名であるが、テキーラの原料となるのは、100種以上あるリュウゼツランの特定種で、しかも、数十年に一度と言われる開花の際の、花茎のデンプン質を糖化、液化し、それを発酵、蒸留してつくられるものであるため、それ自体は、とても貴重なものである。その成長の遅さから、英語名は、Century Plantである。日本語と中国語は、そのトゲトゲした葉を龍の舌に例えて、龍舌蘭となる。確かに棘を持つその葉は、とても凛々しく、威圧的ですらあり、実際触ると血が出るほど痛いのだが、奔放に曲がりくねった葉の全体姿は、動きがあり、愛嬌もある。アロエに少し似てはいるが、アロエがいかにも瑞々しい多肉質であるが、こちらは、硬質なベルトのような質感と大きさで、単株でも圧倒的な存在感を出す。成長は遅いものの、よくよく観察すると、内側から、キリッとした新葉が毎年そそり立ち、静かに開いて行くのが分かる。その内巻の新葉には、外側の葉の棘の模様が、波模様のようについている。葉の先端の棘は、赤っぽく、鋭く光る。
この家の主は、小さな子どもを含めた3人家族。リュウゼツランの持つ悠久、とは言えないまでも、とても長閑な時間軸。その緩やかな成長とともに、のんびりと波間に浮かんでいるような気持ちになれれば、この庭の役割はそれで十分である。
back > |