黒紫の庭
所沢M邸ランドスケープ
設計:2006年8月〜2006年12月
竣工:2007年6月
場所:埼玉県所沢市
担当:大西瞳、柳原博史、斉藤隆夫
建築:寺田尚樹、テラダデザイン
施工:東和ランドテック(株)
クライアント:個人
写真:*大森有起、その他マインドスケープ
□ 武蔵野の閑静な住宅街に忽然と現れた茄子色のストマック
ランドスケープのデザインを考える際、周囲のコンテクストを重んじ、その延長線上に、即ち周辺環境の連続の上にデザインを指向する場合と、敢えて連続を断ち、異質なデザインを打ち立てる場合とがあり得る。このプロジェクトは、明らかに後者である。
もちろん、連続を断つ、という場合、周辺環境を、何も無いかの如く無視する訳では決してない。コンセプトとして、連続を断つのであるから、むしろ周辺環境をよく理解した上で、意図的に、ある側面で、連続を断って見せるのである。動線や日照や地形など、断ちたくても断てない関係性はあるし、それらを理解した上で、周到に断続を作らねば、断続性がデザインとしては成立しない。コントラストを浮立たせ、場合によっては、周囲の特徴が一層に引き立てられることもあり得る。この寺田尚樹氏による建築は、そのことを十分理解した上で、確信犯的に、この場所に異質性を仕込んでいるのだ。この建築によって、周囲は、武蔵野の緑の中にある純朴さを取り戻し、このUFOのような建築は、瞬間的な不協和音を奏でながら、この場所の居心地の良さを証明してみせているようでもある。
さて、この共犯者に選ばれた我々は、この建築の外皮の空気の接地面において、断絶性にとどめを刺すことが求められていた。当初から、「自然的」要素を排し、プラスチックな心地よさを追求していた反面、それが内部で確立して行くに連れて、覆い隠しきれない外部から降り注ぐ眩しいほどの日光や緑が、この空間を、もっと大らかに包み込んでいることを知る、という仕掛けである。我々が外気との接地面に仕組んだ最低限の仕業は、緑色ではなく、黒紫色をした、少しだけ通気性のある膜のようなものである。この膜は、年に一度、数週間だけ、ピンク色に発情し、内部のプラスチックと外部の緑を威圧して見せるが、それでも、外部は寛容に応え、内部は孤立するどころか、この膜を通した外側の世界の変化の豊かさを、より一層楽しむことが出来るはずである。
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