被放出了的園林 ー解放された庭園ー

中国三林城住宅街区ランドスケープ

設計:2005年〜2006年
場所:中国上海市
面積:約7.5ha
担当:柳原博史、大西瞳、増澤昌、越部舞、斉藤隆夫
建築:RIA上海


解放された庭園

このプロジェクトは、中国上海市の中心部から南西に20kmほどの場所に位置する、新しい住宅地区の中の16棟の中層の住宅が並ぶ街区のランドスケープ計画である。そして、このプロジェクトのランドスケープのテーマは、「庭を解放する」ことである。といっても、庭を一般の人々に「開放」するのではない。庭自体を「解放」するのである。

当初我々は、この計画に臨むにあたり、建設前の現場を見学し、上海から車で30分程度の距離であるにも関わらず、長閑な田畑が広がり、いかにも貧しそうな集落が散在し、水路が巡るこの穏やかな環境の雰囲気を、ランドスケープ計画のポテンシャルとして生かせないかという発想を真っ先に抱いた。しかし、事業者側の意向は、全く違っていた。事業者側の上層部の人曰く、「そもそも、この住宅に入居しようとする人の多くは、田舎に対して、極めてネガティブなイメージを持っている。田舎での、貧しく、血縁地縁的強固な結束の社会から逃れたいと思って上海に出てきて、一生懸命働く一方で、都市的な自由を謳歌してきた。私も含めて、そういう人たちは、郊外で少し静かな環境に住みたいとは思っているが、決して田舎に帰りたいとは思っていない。」

この言葉は、都市居住と郊外居住に関してのかなりの真髄を突いている。その通り、日本であれ、欧米であれ、そして中国であれ、都市とは限りなく「自由」な場所のはずである。それは前近代的な田舎社会の呪縛からの解放された人々が集い、人と人との必要以上の濃密な関係を断ち、孤独と匿名を謳歌する場所である。近年でこそ、都市的な居住における希薄な人間関係やコミュニティを憂う向きもあるが、だからといって昔にそっくり回帰したいと考えている人はかなり少ない。個人が埋没するような都市にあって、思考や志向、趣味趣向を同じくする人たちの新たな繋がりを求めていることはあっても、また、過剰なスピードに少し疲れて、少し静かな環境の郊外に居を求めることがあったにせよ、それは過去への回帰とはまるで違う。彼らが求める郊外の自然豊かな環境とは、都市に比べて緑が量的に多いという程度であって、本当のワイルドな自然でもなければ、田舎社会でもない。極めて安全でクリーンな、つくられた「自然風」のものであると。我々も、田園的環境を、長閑さを象徴する「シーン」として考えたまでで、本当に田舎を再現しようとまでは考えてはいない。しかし、我々日本人が、ある時間を経て、世代が移り変わり、田舎回帰的幻想を抱いているだけに過ぎなかったことを思い知らされた気がした。

こうしたやりとりを経て、スタディを重ねる中で、「自然「的」」と「解放」という2つのキーワードに行き着いていた。自然は、自然ではなく、自然「的」であり、それを敢えて際だたせてみること。そして、都市的なライフスタイルの延長としてある、郊外での生活において、「田舎からの解放」を経て、次に「都市からの解放」という二段階後に行き着いた「自然「的」」な環境である。ここでは、ランドスケープが、自然や田舎を、いわば確信犯的に偽装しているのであるが、それ自体が、そこに現れたランドスケープを解放するという、二重の仕組みを構想してみたのである。

約10haの敷地は、「花園」「涼園」「磐園」「果樹園」「生態園」「芸術園」「体育園」「林園」「遊水園」などのテーマの異なる庭園と、それらを繋ぐ多数の園路のネットワークによって構成されている。各々の庭園には、テーマに沿った施設配置と演出をし、同時に量的な緑や水などの自然的要素を抱え入れながら、しかし縦横な回遊の動線の中で、また緩やかな、時には激しい起伏を取り入れる中で、住民が軽快に通過し、次々と様々な庭園を移動してゆく流れをつくっている。花や水路、果樹や遊具など、各々の庭園の充実を図り、遊び留まることが出来る多様な選択肢を持たせると同時に、これらを、スキップするかのように、軽快に移動できる、多様な動線の選択肢を貫入させることで、庭園自体が、重力感を逸し、あたかも軽快に動いているかのごとく見せようとしている。自然は、自然「的」であれば十分で、人々は庭園の自由さと一緒に、田舎とも都市とも違う自由を感じ得れば、それこそが、この場所の本当のポテンシャルであったかもしれない。

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